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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
八章 どちらの命

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それは唐突に



 そこから二日、結局胡堂はまだ三宮で足止めされてるらしく来ることもなく、秀嗣さんと二人での間引きは続いている。


 探索者と会うこともなく、奥へ行けば行くほど人の気配は消えていく。魔物集めの香水を使わなくてもなかなかいい遭遇率で、おかげで奥に進むのに時間はかかる様になった。


 そして昼休憩も終わり間引きを再開し歩いていると、似付かわしくない元気な念話が入った。


 『絵里子も家事してくれる人増えたら助かるやんな?』

 『何言ってるんか意味わからんから、誰か説明して』


 こっちの状態を気にすることのないお姉の念話に溜息が出る。秀嗣さんも笑いながらゴブリン切ってるよ。


 『恵子が女子高生の姉妹を拾った』

 『返してらっしゃい』


 お兄ちゃんの言葉に犬猫じゃないことはわかってるけど、余計に駄目だろ。間髪入れずに言っておく。念話なのにお兄ちゃんの溜息と疲れた声がする。


 『親おらんねんと。んで、十七と十六で探索者なりたくてもなれんし、三宮で大暴れした神職の噂聞いて接触してきた』

 『わかったようで全然わからんねんけど、それで?』

 『恵子が神社に置いてやれんかやって』


 さすがに言葉が出ない。どうするべきだと考えるが、秘匿性高いあそこに入れるのか?


 『絵里子も家事してもらえたら楽やろ?』

 『とりあえず戦闘中、あとでまた連絡するわ』


 あたしは強制的に念話を切り上げ、目の前の魔物に向かう。それでも頭の中はさっきの話で一杯だ。


「一度、車に戻るか」

「いい感じに行けてたんやけどなあ」


 愚痴めいた響きになるのは許してほしい。なんだか面倒な予感しかしてないんだから。そんなあたしに気が付いたからだろう、秀嗣さんが苦笑しながら聞いてきた。


「絵里子の予感は?」

「面倒そうなあんまりよくない感じ」


 困ったように笑わないでほしい。あたしの方がどうするべきか困ってるんだ。




 『で、お兄ちゃんの見立ては』


 車に戻ってシャワーで気分を変え、お姉にではなくお兄ちゃんに個人で念話をいれる。


 『俺的にはあんまりやな』

 『それって答え出てない?』

 『恵子を説得する材料が見つけられん』


 面倒だからあたしに回したの間違いでは?


 『男に絡まれてるとこ恵子が見つけたんよ、事情聴いて年齢聞いて、あほが保護せなって。ただ組合でちょっと聞いたけどあんまりその子ら良くないんよな。若いってのもあるんやろうけど』

 『んで、あたしにどうしろと?』

 『恵子を説得せい』

 『無理やろ?』

 『幸康まできてこっち大変やねんけど』


 あー、両方一気に相手するのは大変だろうな。


 『一応念のため確認なんやけど、魅了系のなんかとかその子らないんやろ?』

 『それは特にないと思うで。ただ姉が拓斗に、妹が智に引っ付いてるわ』

 『さすが。お姉の庇護下じゃなかったん?』

 『そのはずやねんけどなあ』


 お兄ちゃんの声は本当に疲れていて困ってるようだ。


 『そっち戻ったほうがいい?』

 『そっち優先させたいのはほんまやねんけどなあ』

 『けど念話でお姉が諦めると思えへん』

 『……試すだけ試して、あかんかったら戻ってくれ』

 『了解しましたー』


 振り向いて秀嗣さんを見れば、念話を聞いてたから苦笑して頷いてくれた。


「登場は姫様衣装がいいんかねえ」

「いっそ威圧でも振りまくか」


 笑いながら言うことでもないが、いっそ怖がってくれたほうがマシだ。そう思いながらあたしはお姉に念話をし、早々に諦めて移動することになった。




 お兄ちゃん達はバスもあるし、素材採取も兼ねていたから組合に車を停めたままだ。三宮組合の敷地に入れば、奥にお兄ちゃん達の車と繋いだテントはすぐに見つけた。

 周りがぽっかりと空けられてるのは不思議だけど、停めやすくてまあいいかと考えないようにした。


 そのまま横に秀嗣さんは車を停める。気配的にみんな揃ってるようで、向こうも気づいたのかお兄ちゃんが出てきた。


 夕方と言うこともあって周囲を興味深そうな探索者が囲んでる。見世物パンダもいいとこだな、と思いながら秀嗣さんが先に下りるのを見てあたしも扉を開ける。


 あたしが降り立つと一瞬ざわつく周囲、すぐに秀嗣さんが横に来て周りに睨みをきかす。


「よおわかってるやん」

「そう思うんやったらもっと褒めて」

「秀嗣がよおやってくれてるんやろ」


 間違ってはないけどさ、もうちょっとあたしも褒めてほしい。


「で、どうしたらいい? テントの中?」

「ああ、三人揃ってる」

「幸康もか」


 秀嗣さんの気持ちもわかる。面倒だなと思いながら足を動かそうとすれば、お姉が外に出てきた。


「絵里子ー、お疲れ様、怪我無い?」

「ないよ。てかお姉こそ問題起こさんで」

「悪かったと、今はさすがに思ってる。けどまだ未成年やし」

「どっちかって言うと、恵子が引っ掻けられたに近いな」


 二人の言葉に意味がわからなくなる。念話の時と状況が違いすぎないか?


 一先ず会う前に説明を聞く。元々は、確かに組合で男に絡まれていた制服姿の姉妹をお姉が見つけ助けた。その時に親もなく探索者になりたくて組合に来たと二人は言ったらしい。


 姉のほうが妹を食べさせるためと、妹は姉を助けたいと、お姉の情に訴えるように、仲間にしてほしいと言ってきたそうだ。


 そしてお兄ちゃんが組合で聞いたのは、その二人は強い探索者を教えてほしいと職員に聞いて回っていたようだ。そして探索者にも接触し、話をしている姿も目撃されていた。

 たぶん神職の話を聞いて、お姉を見て取り入ろうとしたんだろうとお兄ちゃんは締めくくる。


「早い話、強い人に取り入って守ってもらいたい系?」

「それとまあ、この世界で勝ち組になりたい系?」


 拾ったお姉の身も蓋もない言葉に、あたしの言葉がなくなる。


「組合に制服で来る時点でなかなかやからな、ほんまに危ない人もおるんやけどな」


 お兄ちゃんの溜息交じりの言葉には同感だ。横暴な高レベル者がいる可能性もあるのに。


「そこまでわかってるならあたしいらんくなかった?」

「そうやねんけどな、恵子は女の子に無理強いできんし、俺らもなかなかなあ」

「せめて幸康は?」

「あいつ話してたらおもろいな」

「あほちゃう? あたしもうそっち関与せんよ」

「おー、だから女は女どうしで話終わらせろ」


 いや年齢差を考えろよ、と言いたくなる。それに引っ掛かったお姉がすでに白旗上げてるし。あたしだって女の子いじめる趣味も無理矢理諦めさせる趣味もない。



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