頑張れば報いがある
すっかりとここでの生活も慣れ、遠巻きな人の気配なら気にならなくなった。
「今日は四階やんな?」
「そうだな、今回は二週間かからないかもな」
「素材とか部屋しだいちゃう?」
胡堂の言葉に確かにと思いながら、いつもより少し早いがローブを着る。
「最初のバス、朝何時やったっけ?」
「こっち着くのまだ一時間はあるやろ」
「人が少ないうちに、四階まで行ってしまったほうがいいだろ」
今日からお試しで、一日四回、組合からマイクロバスが出る。ダンジョン前を経由して温泉まで行き、またダンジョン前で止まって組合まで。
「夕方の便に間に合うように帰ってきたら温泉行ける?」
「帰りの便、二時間以上ないやろ?」
「こっから車で十五分ぐらいだったか?」
「二時間ぐらいお湯に浸かってればいいやん?」
「溶けるわ、ふやけるわ」
「なら歩くか?」
「汗かくやん」
胡堂は別にお風呂に浸からなくてもいい派で、温泉行きも反対なようでさっきから文句しか言わない。秀嗣さんもそこまで乗り気じゃない様子だ。
「別に二人が嫌ならあたし一人で行ってこよかなあ?」
「それは駄目だ」
「そんな怖いことやらせれんわ」
「何が怖いねん、もうすっかり誰もあたしのこと気にしてないし」
「はいはい、あほ言ってないでダンジョン行こか」
「そうだな、さっさと行こう」
「ちょ、待ってよ、置いてかんで」
二人を追い掛けてダンジョンに行く。四階までは部屋も気にせずにさっさと下りる。
「四階からはローブなしでいいやろ?」
「さすがに大丈夫だろ」
「そうやな、やっぱないほうが動きやすいしな」
三階でも人の気配はなかったが、下りてくる可能性を考えてローブを脱いでいなかった。四階では気にすることなくローブを脱いでも大丈夫だろう。
そのおかげと温泉の可能性もあって、今日のあたしはやる気に満ち溢れてる。四階でもいい物が出たらいいんだけども。
そう思ってたら出ましたよ。宝箱じゃないけどミラーアント五匹の群れの中、一匹、風変わりなものが。ミラーアントの上位種、ギヤンアントだ。
ギヤンアントは体がガラスのように透明で、生きている間もそこまで硬くない。ただし麻痺毒と遅効性の毒を吐いてくる。体のお尻のあたりに液体が入ってるのがわかり、体とその液体が素材になります。
単体行動はせずに、ミラーアントやアントに守られて巣にいることが多い。そして自分を守らすために体内で樹液などの蜜と体液を混ぜ、強化蜜のようなものを兵隊達に渡し共存している。
薬学の本を読みこんでおいてよかった。
「と、言うわけで、ちょっと強いけどギヤンアントには傷つけへんように、綺麗にお願いします」
「無茶ぶりやろ」
「素材は美味しい!」
火属性に弱いのは変わりないはずだから、あたしは頭の繋ぎ目を狙って落としていく。
「数が一気に増えたな」
「ギヤンアントのせいちゃうかな?」
「準備怠った探索者にはきついか?」
「でも鍛冶にも魔道具にも薬学にも優しいダンジョンやで?」
そんな話をしながら奥に進む。他にもオークと木偶人形とピクシーで魔物素材としてはかなり潤沢だ、倒せたら。
それにギヤンアントは石に巣を作ったときだけ、ギヤン石に変質させる。
これは胡堂も秀嗣さんも欲しい素材だろう。それでもあまり多くの数は取れなさそうだが。
四階の宝箱からはポーションが出ることは少なく、マジックバックや装備類が出ることのほうが多い。二宮と仕様がかなり違っている。
それでもこの装備類も、初期の物なんかより使える物が多いと秀嗣さんが言っていた。のり君が多少直せば飛躍的に攻撃力や使いやすさは上がるとも。
そうして今日の探索はさっさと切り上げて、あたし達は地上に上がる。いつもより人が多く感じるのはバスのせいだろうか?
「あと十分ぐらいやし、替えの服を持って装備で行く?」
「諦めるってのは?」
「あたしにはない!」
胡堂と秀嗣さんが溜息を吐くが、気にしてなんていられません。温泉ですからね。
巫女装備を見られるわけにはいかないからせめて着替えろと言われ、うきうきと支度をし、ついでに串焼きを一本買ってバスを待つ。夕方のこの時間だからだろうか、意外に使う人は多そうだ。
胡堂と秀嗣さんに挟まれながらあたしはその人たちを観察する。
レベルは3から8か、やっぱり属性はついていないし、装備もまだあまりいいものはで回っていないみたいだ。
「ローブちゃんと閉じとけよ」
「わかってる」
胡堂に串を取られたので、秀嗣さんに一口貰ってればバスは来た。思ったよりもしっかりとしたバスだ。
「次は温泉前に行きます」
その声で並んでいた人たちは進んで行く。バスは一応料金がかかるが、今はかなりの低価格だ。それも探索者札にチャージしとけば特にやることもなく、勝手に引かれてる素敵な仕様。




