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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
七章 愚かさの代償

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嫌になる



 その後も奥に行けば行くだけミラーアントと遭遇率は上がり、ラージュを見つけることができた。ただ途中で驚いたのは、偶然オークが部屋の中に入るところを見てしまったこと。あたしの経験上、徘徊型が部屋に入ることなんてなかったはずだ。


 二人と共に部屋の中を窺えば、蟻とオークが戦っていた。その奥にはまだ変質も実も少ないラージュの木。オークは蟻を全てなぎ倒すと、ラージュの実をもぎ取り食べ始めた。


「あれって、オークの好物?」

「実の特性上ってことも考えれるな」


 全て食べつくされる前にオークを倒し、実と枝や葉を少し採取してそこでは終わらせといた。


 ぶっちゃけ今日のあたしはご機嫌だ。だってラージュの実があればポーション(微)の継続回復系が作れる。あたしが作ったポーション(微)も売れるようになるはずだ。


「なあ、なんとなくお前が浮かれてる理由わかったけど、もし鑑定できるような奴おる可能性考えたら、宏さんはお前のポーション(微)売らんぞ」

「なんで!?」

「姫巫女の祈りのって説明に入ってなかったか」


 あっ…………。


「まあ落ち込むな、俺達は絵里子のポーションで助かってるんだから」


 秀嗣さん優しい。笑うな胡堂め、ラージュ素材を渡さんぞ。


 そうやって久々に浮上していた気分も地上に帰ればどうしても沈む。気にしないように思えば思うほど、浮き彫りになる不躾な気配。フードを被っていても感じる下卑た視線。聴覚強化の方法も聞くんじゃなかった。下品な言葉と笑いで、自分だけじゃなく二人も蔑まれてることに気づき、積もり積もっていく嫌なものが溢れ出しそうになる。


 不意に肩を叩かれ、下がっていた視線を少し上げれば、胡堂が苦笑していた。秀嗣さんは周りの視線からあたしを隠すように横にいる。

 胡堂にそのまま押される形でテントまで戻り、入り口を閉めると二人に頭を下げた。


「ごめん」

「あほか、お前が気にすることちゃうやろ?」

「謝ることは何もない。俺達は解体に行ってくるからシャワーを終わらせとけ」


 そのまま二人は外へ出て行った。どう考えても気を使わせてしまった。やってしまったとどうしても気が滅入る。


 どうしても無意識に暴れそうになる自分の内側を、無理矢理抑え込み呼吸を整える。言われた通りにシャワーに向かい、熱いお湯で考えを流そうとするけど、中々落ち着かない。本当に滅入るのは巻き込まれてる二人の方だろう。二人が戻ってくる前にいつも通りに戻らなくちゃ。


 あたしは水流を上げて頭から浴びた。




「おかえりー、ご飯もうちょいやからちゃっちゃとお風呂しちゃって」


 戻ってきた二人に明るくそう言えば、二人は少し安心したように口を開く。


「ただいま、腹減ったし早く終わらせよか」

「ただいま、拓斗が先でいいぞ。今日はなんだ?」

「今日はボアとオークの煮豚風と角兎で和え物、後は和風のロールキャベツとそれとお味噌汁」

「上手そうだな」


 お鍋を覗き込んでくる二人に笑いながら、さっさと行けと胡堂を押し出して料理を仕上げていく。今のあたしにできるのはこれぐらいだしと頑張ったつもりだ。

 美味しいものは幸せになれるはずだしと。


 三人が揃えば食事が始まり、いつもより少しだけ三人とも喋っていたような気がする。それは周りの気配のせいなのか、あたしが気にしすぎなのか答えは出ない。


 一人車に戻って寝支度を整える。三人で喋っているときはそこまで外の気配は気にならないのに、一人になれば余計に感じてしまう外の気配。


 中のライトは外に洩れていないはずなのに、たぶん中を覗こうとしている気配は一つだけじゃない。こっちにあたしがいるとは限らないのに。


 睡眠不足で眠れるはずなのに、早く寝てしまえと目を瞑るが眠気が訪れる気配もなく、ただ入れ替わりで外の気配が動くだけ。


 なぜ人はこうも他人を気にするんだ。どうして相手の気持ちを考えない。あたし以上に二人のほうが神経を張っていることはわかっている。だから余計に嫌になる。


 あたしが女じゃなかったら、こんなにも気にされないのに。女と言う理由で興味を持たれてることも、女であるがゆえに守られなきゃいけない自分にも嫌気がさして苦しくなる。


 目を瞑り耳を塞いだところで気配が消えるわけでもなく、ただ毛布を引き上げて眠る努力をすることしかできなかった。



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