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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
六章 弱く脆く、そして強いもの

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帰って来たんですけど



「ただい、ま」


 神社の奥、地下の居間に入れば誰もいなかった。が、見渡す限りのゴミと使った食器と服の山。予想はしていたがもう少しは考えてほしい。

 たった二週間なんだけどな。秀嗣さんは目を瞬かせ驚いているようだ。


 あたしは先に仏壇に向かい手を合わせる。さすがにこの周りは無事でよかった。じゃなきゃさすがに怒ってたよ。

 今もまだ胸の奥で弱いあたしがささやくが、今は気にすることじゃない、無事に帰って来たよ、とただ伝える。


「みんなダンジョンかな?」

「午前は宏達は細工場じゃないのか?」

「可能性あるし、一応見てみよか」


 そう言って作業場を開ければ、まず最初に目に入ったのは智さんの屍だった。


「た、ただいま。これどうゆう状態?」

「帰ったか、おかえり」

「おー」


 目の下には大きな隈を作り、少しやつれたように見える胡堂はうめき声に聞こえる。


「二宮と三宮、それとまだ一宮にも薬とか渡すもんあるやろ。それに魔道具も」

「ある程度絞らな、こっちが参りそうやで」

「しゃあない。それでも二宮は何とかなりそうなんやろ?」

「たぶん婦人会とか老人会の人らが薬学とか興味あるって、それに青年団の人らで車弄る人らが興味持ってて、バイクもできへんかって言ってた」

「教本早く渡したらなな。まあお疲れさん、今日は秀嗣も一緒にのんびりしとき」

「いや、別に素材取りとかできるで?」

「たまにはちゃんと休め。俺ら少し休むから昼飯後にまた報告と素材見せてくれ」

「わかった、お姉は?」

「ダンジョン」


 みんな変わらないなと思いながら扉を閉め、秀嗣さんに中の状態を伝えればこちらも笑ってた。

 とりあえず荷物片づけてお昼でも作りますか。その前に散らかった地下の居間の掃除が先ですかね。とつい溜息が漏れた。




「姫様すいません、帰ってすぐお疲れなのに」

「智さんのせいじゃないし、なんとなく予想はしてたから」


 結局地下の居間だけでなく、台所もなかなかの惨事になっていた。ご飯を挟んだあとも掃除の時間に今日はなりそうだ。


「てかお兄ちゃんらも少しは反省して、共有空間やで」

「しゃあないもんはしゃあない」

「せめて自分の使った分は片付けるとか」

「やれる奴がやったらいい」

「お兄ちゃんにもできるはずや」


 ああ言えばこう言うお兄ちゃんがやるとは思えないが、言うのは大事だと言い続ける。お姉はダンジョンから上がってあたしを見るなり鬱陶しいほどのテンションだったから、居間と台所の惨状を出してさんざん怒ったら静かになった。ただのり君のほうが反省したから申し訳ない、違うんだ。


 ただやっぱり帰って来たんだ、とつい嬉しくなるのは仕方ないだろう。怒ってるのに頬が緩みそうになる。



「んじゃまあ、二宮の報告聞こか」

「全体的に魔物は強めやね、あと数も多かった。間引いたからそれなりに落ち着いたけど」

「ダンジョンも複雑で迷いやすい構造だな、ただその分宝箱の中身と素材はいい物が多いが」

「二階の奥、欲言えば三階行けたらポーションの物にもよるけど(下)も作れる」


 あたしの言葉にお兄ちゃんを除く生産組が驚いた顔をした。


「ただここよりもちょっと暗いし、秀嗣さんが言うようになかなか厳しいんよね」

「その分レベルは上がりやすいがな」

「もしかして絵里子らレベル上がったん!?」


 お姉の前のめりな言葉に、あたしは鼻を鳴らす。


「めっちゃ上がった、26なった。秀嗣さんのほうが上がり方やばいで」

「五つ上がって24だ」


 各自が様々な顔をするから面白い。智さんは元々差があるしのり君はそこを気にするタイプではない。胡堂は気にしてないようであれたぶん気にしてるな。一番煩いのはお姉だ。


「なんでそんな上がってんの? 二週間やろ!?」

「魔物の数と強さ?」

「やからってレベル上がれば上がりにくくなるはずやん」

「秀嗣さんが先に二宮では上がりやすいかもって気づいた。たぶん魔素の濃さがちゃうんちゃうかな?」

「お兄、あたし外のダンジョン行く」

「あほか、簡単に言うな」

「三宮やばいんやろ?」

「まだわからん、予想や」


 お兄ちゃんがお姉に詰め寄られている間に、聞いてくるのは胡堂だ。


「二週間で、そんな上がるって何しとん」

「やから魔物が多かってんて、それに強かったし?」


 たぶんあの魔物の大群も大きな理由の一つだけど、それを言うわけにもいかない。ふーん、とどこか信じてない様子だけど気にしても仕方ない。


「で、みんなのレベルどうなってんの?」

「気になるんやったらお前なら見えるやろ?」

「プライバシー的な?」


 なんやねんそれ、と言いながらも胡堂が教えてくれる。お兄ちゃんが22、お姉が23、のり君が22、智さんが12、そして胡堂が20だそうだ。


 生産に時間が取られていたのもあるが、外のダンジョンとは違い、やっぱりこっちのダンジョンはレベルが上がりにくい気がする。


「あ、それとこれな」


 そう言いながらあたしは火の剣と火魔石を出す。他にもいくつかみたことない素材をテーブルに並べる。


「見たことないの多いな」

「この剣ちょっとみてもいい?」

「好きに見たってよ」


 剣に誰よりも興味を持ったのはやっぱりのり君だ。属性魔石もついてない属性の剣、秀嗣さんと剣を見ながら何か話してるようだ。


「あとこれも、土人形のなれの果て」


 焼き物状と砂の両方を出せば、智さんの興味を引いたらしい。


「これ、魔物なんですよね?」

「一応? 非生命体ってなってた」

「なのに動いていたとですか?」

「うん、土人形で二足歩行。切るか削るかはすぐに修復して、水を当てると泥状に、火やとこの焼き物。砂は秀嗣さんが火を同化して魔石付近切り取って抜いたらこうなって崩れてん」


 ほうほう、と楽しそうにあたしの話を聞き、その素材を見る智さんはもう研究者だよね。


「とりあえず、絵里子と秀嗣は今日は休んでいいで。ただ出た魔物の説明とか書き起こして、あと絵里子はこっちにない素材鑑定して書き起こせ」

「この量を!? それ休みやなくない?」

「必要なことや、動かんだけマシやろ」

「魔晶石で図鑑とか出んのー?」

「知らん、自分で確認せい。他はとりあえずいつも通りで頼むわ」


 お兄ちゃんはそう言って立ち上がると部屋に戻ったから、多分ダンジョンに行くんだろう。それを見て各自も動いていく。


 二週間ぶりだと言うのに何も変わらなくて、もうちょっと何かあるんじゃない?と思ったような思わないような。



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