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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
六章 弱く脆く、そして強いもの

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言ってみただけなんです



 昨日はなかなか寝付けなかったんだけども、それでも最後は確かに寝ましたけど、とりあえずどうゆう状況ですかこれ。

 寝起き早々あたしの頭がパニックだ。はい、もう本当に。


 目の前にですね、なんかあるんですよ。そして枕の感触がいつもと違うんです。はい、ここに来てから使っていた物より硬いんですよ。


 なんであたしは秀嗣さんに抱き抱えられるように寝てるんでしょうか?


 あたし寝相悪かった? これ、どうしたらいい? そう思いながらもどうにか起こさないように、上に回されている手を外そうと動いていたら、秀嗣さんの瞼が震えた。


「起きたのか、おはよう」

「お、おはよ。あたし昨日寝相悪かった?」

「覚えてないのか?」


 やばい、あたし何した? お酒は弱いが飲んだ記憶はないぞ。全く記憶になさそうなあたしに気付いたんだろう、秀嗣さんが言うか言うまいか悩むように視線を泳がせた。それでようやくあれかと思う。


「もしかして、魘されてました?」

「あー、あと泣いていた」

「大変申し訳御座いませんでした」


 頭を下げれば慌てるのは秀嗣さんだ。


「いや、俺こそすまない。女性に対して」

「そんなこっちこそ煩かったやろ? ほんまに申し訳ない。次あったら叩き起こすか蹴飛ばすかしてくれていいから」


 頭を下げたまま言えば苦笑の音が聞こえる。最近はなかったし、人がいるときは出なかったから大丈夫だと思ってたのに。


「言いたくなければいいが、心当たりはあるのか?」

「……なくもないよ、たぶん昨日の摩央さんやと思います」

「そうか」


 正しいけど正しくはない答え。秀嗣さんがそれに気づいたかわからないけど、暖かい声色の一言で終わらせあたしの頭にぽんと手を置く。そして飯にしようかと何事もないように言ってくれる。あたしはそれをありがたく思いながら、朝の支度に入るのだった。



「今日は五階の地図を終わらしたら上がるからな」

「わかってるよ、ちゃんと」


 秀嗣さんは今日は休みにしようと言い、朝少しだけ揉めた。あたしとしては地図を完成させ、時間に余裕があるならボス部屋に行ってしまいたかったのに。

 お互い譲らないから、結局間を取ってこうなった。



 組合がオープンするのは二日後。今日は五階を探索し終え、明日ボスと考えたらギリギリだ。人が多くなる前に確認できるだけしときたいけど、六階は難しいと考えたほうがいいか。


 ポーチの中の各種ポーションの数を確認し、ローブをしっかりと着込んで車を降りる。組合からダンジョンに行って顔見知りになったおじさんにタグを渡せば、無理しないでなと声を変えられた。


 そして奥を見る秀嗣さんの目に気付き、あたしもそれを追えばあれはたっちゃん達か?

 通信も何もなかったはずだがと首を傾げるけど、まあ行くしかないでしょ、と秀嗣さんと共に足を進める。


「おはよ、早くない?」

「おはようさん、お爺ちゃんたちがな」


 苦笑するたっちゃん、摩耶に背中を支えられ前に出てきたのは摩耶のお爺さんとお婆さんだ。


「息子夫婦といい、孫まで、大変迷惑をかけて、そのうえわしらが気づかんかったのに気づいてもらって、優しい言葉もかけてもらって、どうしても直接お礼が言いたかったんです」

「気にせんで下さい、気づけたのはたまたまやし。たぶんおじさん達も摩央さんと同じでちょっと変化と怖さについていけんのですよ。理解はできますし気にしてませんから」


 お爺さんとお婆さんはぽろぽろと涙を流しあたしの両手を強く握り、ありがとうありがとうと何度も何度も言うから、あたしとしてはどうしていいかわからない。


「今回のことはタイミングとか色々重なっちゃって、たぶんおじさん達も恐怖だったものと戦えることがわかって、なのにあんな大群を見てしまって耐え切らんくなっただけやと思いますし、それは摩央さんも。やからあたしのことは気にせんと、皆さんを支えてあげてください」


 ね、と微笑むが、お爺さんたちは泣くばかりでどうしたらいいのか。


「姉さん、ほんまに有難う御座います。達也の家族とも話させてもらって、協力してもらえることになりました」

「たぶん似たよう人は出てくると思うし、摩耶たちも力あるねんから気をつけてな」

「お爺ちゃんたちも、これ以上は姉さんも困ってしまうから」


 そう言って摩耶に促され、あたしの手を離してくれる。


「本当に本当にどれだけ感謝しても足りん、ありがとう。わしらにできることがあれば本当に言ってほしい。微々たるものかも知らんが、できる限りのことはさせてもらう」


 折り目正しく頭を下げるお爺さんとお婆さん。強いなあ、この二人は。なんだか眩しく見えた。


「では、できればでいいんですが、ここの組合に協力してあげてくれませんか?」


 あたしの言葉に秀嗣さんを含め、みんなが不思議そうな顔をする。


「素材と宝箱の中身を考えると探索者がたくさん来てもいいんですが、施設は暫く簡易の物で休む場所の提供もできませんし、魔物も強めで探索から帰って自分たちで食事もとなるとここに来る探索者は少ないかと」


 苦笑しながらあたしの素直な感想を言う。


「本来ならしっかりとパーティー組めば浅い階でも稼げますから、魔物を溢れさせない意味でも探索者に来てもらわないと困るんです。だからできれば組合に協力して頂いて、無理がない程度でいいんで組合を助けていただければと」


 あたしの言葉にお爺さんは真剣に何かを考え始め、お婆さんも考えている。無理を言ってしまっただろうか? やってしまっただろうか。


「ほんと無理とかしないでください、自分たちが一番大事ですから」

「いや確かにいいことを教えてもらった。強くなるのも大事だが、まだ老骨にも色々できそうで楽しみが増えた」


 お爺さんの顔は晴れやかな笑顔で、お婆さんも頷いている。


「婦人会のみんなにも話せば、飲食の提供ぐらいはできそうですね」

「空き家を使って宿泊場にできないか言ってみるか」

「探索者はレベルもありますし、危険なこともありますから、本当に無理は」


 焦るあたしの声を気にも止めず、お爺さん達は何ができるかと考えている。


「大丈夫だ。正式に組合が開いたら何人か登録すると言っているものもおるし、わしらもまだレベルを上げるつもりだ。自衛は必要じゃろ?」


 そう微笑んだお爺さんは本当に眩しくて、経験ゆえか大人だなと、自分とは全く違うなと思った。



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