馬鹿だった
二人は時間通りにやってきた。いつもと違うのはたっちゃんが暗く重い顔をしていることと、いつもなら摩耶が笑顔で走って来るのに今日はそれもない。
たっちゃんに背中を押され、促されるようにあたし達のほうへと向かってくる摩耶はずっと俯いている。
その様子につい秀嗣さんと顔を見合わせ苦笑してしまうが、ご飯食べて話してる間に少しはマシになると思っていたあたしを殴ってやりたい。
摩耶はあたし達の前に来ると、その場で土下座した。
「姉さん、本当にうちの家族が申し訳ありませんでした。姉さんに会わす顔なんてないのにこうやって来てしまい申し訳ありません」
待ってくれ、ここ地面、土。
「ちょっ、まっ、え? とりあえず立って、うん、ほんまに待って」
おろおろしてしまうあたしと驚いている秀嗣さん。
「摩耶、絵里子らも困るから、な」
と、いいながら摩耶を立たそうとたっちゃんがするが、摩耶は立たない。
「あれだけ姉さんたちにお世話になっておきながら、本当になんと言ってお詫びすればいいのか。今ここで姉さんに縁を切られ、なんならこの身切られる覚悟です」
「あたしはどこの殺人者や。摩耶の中であたしのイメージどんなんや」
「格好良くて男前で美しい美人でクールで素敵でかっこいいです」
「聞いたあたしが馬鹿やったわ」
なんか脱力した。はあ、と息を吐いてしゃがみ込み、摩耶の肩を掴めば体をびくつかせる。それでもあたしは強い力で摩耶の肩を上げ顔を向かせる。
「顔ぐちゃぐちゃやん、もうそんな顔せんで」
そう言ってしっかり抱きしめる。
摩耶の顔は何度も泣き腫らしたんだろう。瞼は腫れ、それでもまだ涙が浮かび、鼻も赤くなってしまってる。
「なあ摩耶、あたしは摩耶のこと好きやで。大好きやねん。やからこれからもあたしのために笑ってくれんか? あたしの友達でおってくれんか?」
「でも、でも」
「摩耶はなんも悪いことしてない。それはたっちゃんもやし、気にせんで。気にされたほうがあたしのほうが困るわ」
抱きしめてるから見えないけど、摩耶はまた涙をぼろぼろと流しているんだろう。その声も震え、体も震え、どれだけ辛かったんだろう。
少し見上げると辛そうな、苦しそうなたっちゃんの姿もある。つい苦笑が零れた。
「なあ、これからも変わらんとって。あたしは摩耶のこともたっちゃんことも大好きやねん、二人があたし嫌いや言うなら諦めるけど」
「そんな、そんなことないです、好きです」
顔を跳ね上げ必死な顔で言う摩耶に、笑みが浮かぶ。ポッケにハンカチ入れててよかった、と取り出しその顔を拭いてやる。
「なら、頼むから変わらんでおって、たっちゃんも」
そう言いながらたっちゃんを見れば、こちらは手を強く握り泣くのを耐えるように顔を顰めている。
「ほら、二人はいつまで座ってる気だ。せめて中に入ろう」
秀嗣さんが優しい声で言ってくれたから、あたしは摩耶を促して立ち上がり、膝を払ってやると車内に招く。後ろを見れば秀嗣さんがたっちゃんを促してくれていた。
ほら。とポーション(微)を渡しておく。よく見たらたっちゃんにも必要みたいだ。
ご飯の前にお茶のほうがいいかと、温かいものを淹れて二人に進める。
「ちょっとは落ち着いたか?」
この数日、何度も涙を拭ったのか、荒れてしまってる摩耶の肌にポーション(微)を塗ってやりなが聞けば、少しは落ち着いたように見えた。
「すいません」
「それ聞き飽きたから違う言葉聞きたい」
「有難う御座います」
「硬いな」
苦笑いしか出ないがしょうがない。二人からしたら辛いだろう。だからって二人が悪いわけではない。
二人の気持ちもわからなくないが、このままだとあたしも辛い。どうしたものかと考える。
「二人も来たし、飯にするか」
そう明るい声で言ってくれたのは秀嗣さんだ。ひとまずお腹を満たせば少しは落ち着いて考えれるかと思い、あたしは賛成してご飯の仕上げを始める。
せっかくだしと今日は鍋だし丁度いい。一緒につついていたら少しは二人も和むでしょうと、すでに出してあった簡易コンロに鍋を置き火をつける。秀嗣さんも手伝ってくれ他の料理もいくつか出していけば、ある程度火を入れていた鍋も出来上がった。
「じゃあ食べよか、いただきます」
あたしが言えば一応二人も言ってくれる、けど箸は進もうとは全くしてない。
「はい、これ煮えてるで、摩耶もこれ」
そう言って器に勝手に入れていく。
「二人来るから作ったんやもん、ちゃんと食べて。じゃないと勝手にどんどんいれてくで」
そう言って入れていけば秀嗣さんも入れるから、たっちゃんの器から溢れそうになって慌てて、それを見て摩耶が少し笑ってくれる。そこから徐々に解れていったのか二人の笑顔は少しずつ増えていく。




