どうしてそうなる?
「ほんで、どーゆうこと?」
着替えを済ませ髪を拭きながら三人を車内に入れる。後方にアウトドア用の椅子を出せば、四人でも十分な広さだ。
お兄ちゃん力作の魔道具のポットでコーヒーを淹れ、摘まむようにクッキーも出しておく。
「なんちゅう快適さ」
「そうやろ、ほんますごいと思うわ」
たっちゃんも摩耶も驚きながら中を見ては魔道具に驚いて忙しそうだ。気持ちはわかるがあたしは話を聞きたい。
「で、聞きたいんですけどー」
「ああ、あの四人、健也のおかげもあるけど順調に一階で戦えててん。レベルの恩恵もあったし、それに三人とも魔法が一応使えるようになっててん」
「そりゃまたすごい」
「やから前衛と魔法のできる健也をつけててんけど、でも三人は魔法が使えるって言っても、ただ使えるのと実践で使えるのはまた別やろ?」
たっちゃんの言葉にあたしは頷くしかできない。とっさになんて練習と経験を重ねないと、魔力量もそれこそ魔物を狙うことも難しい。
「正直健也も煽てられて少し調子こいたみたいでな、興味もあったし二階行ってみようってなったらしいねん」
「一階でも結構宝箱から色々出てたので、欲と強くなったと思う気持ちがあったみたいで、あたしの家族が健也君に無理言った形なんです」
摩耶が目に見えて落ち込む。自分の家族がと思うと辛いだろう。
「それでも最初はなんとかなったらしいねん。ただ蟻に会って攻撃がなかなか効かんで撤退したんやけど、不幸なことに魔物のおらん部屋見っけてんて、そこで休もうって入ったら宝箱があったと」
「もしかして、それが魔物集めの香水?」
なんとも言えな顔で頷くたっちゃん、あたしでもそうなるだろう。
「でも何かわからんもん使う?」
「それが健也のせいなんよ」
「健也君は悪くないって、全部お姉ちゃんのせいやんか!」
声を荒げる摩耶にまあ落ち着けと背中を摩る。
「今回のことは全部お姉ちゃんのせいなんです」
落ち着かせれば今度は俯いて涙声になる摩耶。たっちゃんを見るが苦笑するだけで、たぶんこの会話は夫婦で何度もしてるんだろう。
「お姉ちゃんはレベルを上げれば秀嗣さんとダンジョンに行けるかもって、だから早く階下に行きたがってたんです。お父さんたちもそれは知っていたし、強くなることに損はないと思ってて」
どうしましょう、かける言葉が見つからないのは。とりあえず見たいけど秀嗣さんの顔が見にくい。
「で、香水見つけたときになんやろってなったんやけど、ゲームとかで魅了の香水とか魔物避けの香水とかあるっちゅう話しを健也がしたらしい」
「待て、それだけで使う?」
「健也が悪い作用のアイテム言わんかったから、何かしらのいい物やと思ったんやろ」
「お姉ちゃんは魅了やと思ったそうです」
「やったらそこで使う意味が余計にわからへん」
たっちゃんがすごい苦笑で秀嗣さんを見たのがすごい気になるんですが。そう思っていたら摩耶が重そうに口を開いた。
「ダンジョン内で、いつ秀嗣さんに会うかわからへんって」
「ごめん摩耶、摩耶の身内やけど言っていい?」
「お好きにどうぞ」
「あほやろ?」
「それ以上やと思います」
摩耶が真剣な目をしてくる。身内がゆえに許せないだろうに。それはたっちゃんも健也君に対して同じか。
「それであの結果や。絵里子にも秀嗣さんにもかなり無理させて、ほんまに申し訳ない」
膝に手を当て頭を下げるたっちゃんとそれに続く摩耶。あたしは一つ、わざとらしく溜息を吐き口を開く。
「昨日も言ったがあたしがしたくてした結果や、謝られる筋合いない。たっちゃんが次頭下げたら秀嗣さん殴ったって」
あたしの場所からじゃたっちゃんの頭に手が届かない、だから横にいる秀嗣さんに頼んだのです。秀嗣さんは笑顔でわかったと言ってくれたっちゃんが慌ててる。
「ほら、摩耶もみんな無事やったんやし気にせんの、いつもの摩耶でおってくれなあたしが困るねん」
な? と摩耶の顔を上げさせればその目には涙が貯まっている。心配をかけたのはこっちも同じかと思った。
「ごめんな、びっくりしたよな。怖かったよな。けどあたしは大丈夫やから」
摩耶を抱きしめて背中をぽんぽんと叩いてやる。
「すいません、ほんまにすいません」
「やから謝らんでよ」
「やって、やって姉さんあんな血まみれで、怪我もして。顔も真っ白なって体温下がってて、姉さんが死んでしまうって」
あー、そんな状態でしたん? 秀嗣さんを見れば苦笑してて、たっちゃんも後悔が滲んだように苦しそうだ。
つい苦笑が滲むあたしの顔。
「心配かけたな、摩耶もたっちゃんもごめんな? ちょっと神さんから貰った力、使いこなせてないだけやねん」
「あれ大丈夫なんか?」
「まあこうして生きて動いてるからなあ」
「こっちとしてはやめてほしいんだがな」
おう、経験者がいるから分が悪い。それでも使える物は使っとかなきゃなとも思うんですよ。
「使いこなせるようなったらなんちゃないと思うし、それに今こうして元気やん?」
「まだ顔色微妙に悪いで」
「……ご飯食べてないからちゃう?」
「お前、それは厳しいやろ」
たっちゃんがまだ硬いけど笑ってくれたからよかった。
「けど秀嗣さんに聞いたけど、二回目なんやろ?」
「言っちゃってるんですか?」
「昨日の二人の慌てようはすごかったからな」
ジト目を送るけど、そう言われてしまえば視線を逸らすのはあたしだ。
「前回同様に休ませれば多少は回復するはずだと言って、その場を落ち着かせただけだ」
確かにそれしか方法はなかっただろう。なんだか本当に申し訳なくて、あたしが謝る側だと思う。それを察知したのか秀嗣さんが口を開いた。
「これから達也君達家族はどうするんだ? とくに摩耶さんの家族はかなり辛いだろう」
「とりあえず健也はおとんの判断で暫くダンジョン禁止になってます。摩耶の家族は」
「考え中です。強さは必要だと思っているみたいですけど、ただやっぱり怖いって感情も強いみたいです。あとはお姉ちゃんなんですが」
摩耶がそこで口を噤み、言葉を見つけるように視線を彷徨わせる。それに変わる様にたっちゃんが言う。
「戦う秀嗣さんを見て惚れ直した、秀嗣さんが旦那になったらレベル上げも安全にできるそうです」
空気が固まるってこうゆう時に使うんだろうね。あたしはどうしたらいいんでしょうか。秀嗣さんを確認できない。
「俺も摩耶もあり得へんとはっきり言ってはいるんですけど、助けに来てくれた秀嗣さんに夢見てるみたいで」
「白馬の王子ですか」
「そんな感じやな」
「血に濡れた白馬の王子なんていないだろう。それに俺は王子なんて柄じゃない」
秀嗣さんから苦笑が漏れたから、そこまで気にしていないのだろうか?
「お姉ちゃんにはもう近づかないようには言ってるんで、もし来ても無視してください」
「たぶん世界が変わって現実逃避のようなものだろう。俺は気にしないから二人も気にしないでくれ。ただ冷たい態度になるだろうからそこは先に謝っておく」
「いやもう気にせずどんどん冷たく無視して、なんならきっぱり近づくなぐらい言ってやってください」
摩耶の勢いがすごい。この件に関してはあたしは関係ないので言える言葉もないし。そう思うのに摩耶の顔があたしに勢いよく振り返る。
「姉さんも気を付けてくださいよ、秀嗣さんの情報収集や協力言われる可能性ありますから」
「あー、濁したけど協力は一回言われたなあ」
「早すぎやろ、お姉ちゃん!」
摩耶の叫びが車内に響く。
「今のところお二人の関係は、普段は複数人でチーム組んでる仲間やって、今回は組合依頼で少数やから二人って言ってます。もしお姉ちゃんが姉さん敵視とかし始めたらすぐ言ってください、叩き潰すんで」
「今の摩耶やったら物理的にできそうやからやめたり」




