やってしまいました
「やっちゃったー」
「そうだな」
起きて最初に思ったことが声に出れば、返ってきた声に驚いた。
「す、すいませんでした」
「二回目の集中の時から予想はしていたがな」
怒ってるかと思えば苦笑され、結構早くから思われてたんですねー、と口には出さないが、さすがに申し訳ない気持ちしかない。
「体調はどうだ?」
「大丈夫ですよ」
そう笑うのに秀嗣さんの顔はどこか納得してない。まだ顔色悪いのかな?
「細かく言うと?」
「あー、ちょっと頭痛とだるさはありますね。それぐらいですよ」
「恵子さんが、絵里子のちょっとはだいぶと翻訳できると言っていたぞ」
くすくすと笑う秀嗣さん。お姉はいったい何を言っているんだ。
「着替えと体を拭くのは摩耶さんに頼んでおいた。俺としてはもう少し寝といて欲しいが、気になるならシャワー浴びるか?」
「念のため大事取って休んどきます。今日はすいませんでした」
また心配と迷惑をかけてしまった。もういい時間だろうに秀嗣さんは座ったまま、寝ることなくあたしの様子を見ていたんだろう。
「俺は俺のしたいことをしたまでだ、気にするな」
「秀嗣さんも寝てくださいよ、それこそ気になります」
そう言いながら気づいたけど、もしかしてあたし血生臭さ残ってる? さすがにそれって秀嗣さん辛くない?
そう考えていたら秀嗣さんは横になり、あたしと目線を合わせる。
「絵里子は強いな。いつになったら届くだろうか」
「秀嗣さんも十分やん?」
「俺としては絵里子を守れるほどに、無理させないでいい様になりたいんだがな」
苦笑の秀嗣さんは、それでもあたしから目を離すことはない。
「無茶はしたけど無理はしてないで? それに秀嗣さんが一緒やったから安心して進めたんもほんまやし」
「そうか、それはよかった」
「あ、あの後大丈夫やった? 摩耶とかたっちゃんとか色々」
「その話は明日にしよう。明日はダンジョンも休んで少しのんびりとしろ」
そう言いながら秀嗣さんはあたしの毛布を引き上げ、肩までしっかり入れてくれる。
「お休み」
「おやすみなさい」
お休みを言う秀嗣さんの目が優しくて、電気を消された後も少しだけ気になったあたしがいた。
重い瞼がゆっくりと開いて、どこか頭はぼーっとする。横を見ても秀嗣さんはおらず、カーテンがしっかりとかかっているから明るさもわからずに時計を見て驚いた。寝すぎだろ。
頭が働かないのは寝すぎのせいと判明し、あたしは身支度をとりあえず整えて、寝場所も座席に変えておく。
そして秀嗣さんはどこかと車の扉を開ければ、こっちに向く三人の顔。
「お、はようございます?」
「ね、姉さん、すいません。大丈夫ですか、体調どうですか、もう本当になんて言っていいか」
「うん、とりあえずあたし寝起きやから落ち着いて」
泣き出しそうな摩耶の肩を掴んで落ち着かせてると、秀嗣さんとたっちゃんが苦笑する姿が見えた。
「旦那なら嫁を落ち着かせえよ」
「無理やろ、俺でもさすがに昨日は焦って心配なったし」
言われて気づくがそう言えばそうだ。この二人の前で倒れたんだ。
「着替えと体拭くのやってくれたんやて? ありがとうな」
「いえ、それくらいさせてもらって当たり前です。なんなら役得です」
返事かおかしいのはいつものことだから置いておく。
「髪とかあるし、先にシャワー浴びてきていいっすか? 説明に来てくれたんやろ?」
「こっちは気にせず行ってこい」
「別に見えんし車内おってもいいで?」
「はいはい、早う行け」
「あきません! 姉さんのシャワーの音とか」
「支度は終わってるから」
たっちゃんにしっしと手を振られ、摩耶の意味の分からない言葉に見送られ、秀嗣さんにお礼を言って車内に戻る。
シャワーを手早く済ませようとするけど、こびり付き乾いた血って取りにくい。
体を伝い流れるその赤に、つい摩耶の両親の顔が浮かんだ。
まるでそれは人ではないモノを見る目、恐ろしく怯えた目。
わかってた、わかってたはずだ。それでも選んだのは自分だ。ローブは使わずに巫女装備で、鉄扇に魔力を送り威力を上げ、魔法を使いながらあれだけの数を殺し消した。畏れないわけがない。異質な異物としか思えないだろう。
気が付けば血だまりだった。気が付けば屍だけが積み上がっていた。
姫巫女になったときからわかっていたことだ。一人異質なものだと。今回のことは特に自分が決めたこと、溜息なんて吐くわけにはいかない。
あたしは考え事流すように熱いシャワーを頭から浴びた。




