人ですから
それからの秀嗣さんは落ち着いたのか普段と変わらない様子で、最初は少し様子が気になっていたあたしを苦笑して見てくるぐらいには普通だ。
だからあたしももう気にせずに、二階の探索だと気を引き締めて進めていく。
二階では思った以上の魔物との遭遇率で、正直あまり進めていない。中も蟻の巣のように分岐も多く、この地図がなければすぐに迷ってしまうだろう。
思った以上の厄介さだけど、それでもいくつかの小部屋からマジックバックやアイテム、魔物集めの香水なんかが見つかって、とりあえず香水シリーズ何があるのか気になった。
「さすがに魔物集めの香水はお兄ちゃんと組合に報告して、暫くは御蔵入りかなあ」
「そうだな、さすがに使うわけにもいかないだろう」
「地上の弱いところやったら一網打尽できるかな?」
「さすがに何がいるかわからないし危険だろう?」
秀嗣さんの言う通りではある。
二階にはやっぱりゴブと蜘蛛、あとはボアも出た。ウリボアじゃなくてボア。それととうとう出たのが大きな蟻。蟻の巣っぽいしいるかなとか冗談言ってたらいました。フラグ回収早すぎだね。
蟻は三十cmから五十cmと個体差はあるけど、外殻が硬く刃物は通りずらい。意外に水属性にも強く大変でした。体の繋ぎ目なら切断系でも効くことを秀嗣さんが気付き、そこからは対応に困ることもなかったけど。
その外殻は素材として有用そうで、いくらか持って帰ってお兄ちゃん達に渡そうと秀嗣さんと話し合った。たぶん防具にも使えそうだし、お兄ちゃん達なら何か有効なことを考えてくれるだろう。
そう話しながら少し遅くなってしまったが今日の探索も終わり、しっかりローブを着込み地上に上がれば、先を見ていた秀嗣さんの眉が歪んだ。
その目の先をあたしも追うように見れば、なぜかたっちゃん達が。今日は遅くまで潜ってたから、もう八時なんですけどね。
上がってきたあたし達に気付き、摩央さんがおずおずとやってきた。
「あの、お疲れ様です」
「ああ」
どこか冷たい対応の秀嗣さん、つい首を傾げそうになるがたっちゃん達もやってきた。
「お疲れさん、遅かったな」
「魔物が多かったからな、間引きが目的やし」
「あー、おとんらが飯でも一緒にどうかやと」
「いや俺達は遠慮する。仕事で来ているし気にしないでくれ、と伝えてくれ。差し入れももう結構だと」
あたしが返す前に秀嗣さんがたっちゃんに言う。たっちゃんはなぜか顔に「ですよねー」と書いていて、あたしだけがわからない。
「で、でも今からとかご飯も大変でしょう?」
「すぐ食べれる物も持ってきているから気にしないでくれ」
やっぱり摩央さんに冷たく感じる秀嗣さん、どうしたのか少し気になるがたっちゃんは苦笑している。
そうこうしていたらおじさん達までやってきた。たっちゃんに飯何にするか決まったか、と聞いているが、あたし達が断ったと聞くと今度は矛先がこっちに向く。
「色々してもらってる、それぐらいさせてくれ。それにそのまま泊って行けばいい」
「中川さんの言う通りや、それに男女が一緒に寝るのはおっちゃんどうかと思うで」
「いえ、我々は仕事の一貫として来てますのでお気遣いなく。すみませんが組合に報告がありますので」
まだ何か言おうとするおじさん達を避けるように、秀嗣さんはあたしの背中を押して促した。あたしは頭を下げて進むしかできない。
組合までの道のり、どこか重たい空気でどうしていいかわからない。
「今日の解体は俺にやらしてくれないか?」
「いや、でもさすがに悪いし」
「少し落ち着く時間が欲しいんだ」
そう言われてしまえば否とは言えない。あたしは組合に報告することで折り合いをつける。
組合で二階の情報と新しい魔物の存在、それに宝箱から出たものなどの情報を伝え、素材やアイテムなんかは仲間と相談後に渡せるものは渡すことになった。
効果はわからないけど、魔物集めの香水については危険かもしれないことはしっかり伝えておく。
先に車に戻りシャワーを浴びるけど、秀嗣さんが少し気になって、あの人があんな態度を出すことはあたしが知る限りなかったことだ。
優しい人で、人を無下にはできないタイプ。確かに真面目な人だけど、あんな風にきっぱりと拒絶するタイプには思えなかったからだ。
車内で髪を拭きながらもつい考えていれば、たっちゃんからの通信が入る。
『お疲れさん、今ええか?』
『大丈夫やで、どうしたん?』
『秀嗣さんは?』
『解体。量も多いしまだ帰ってこんと思うけど』
そう言えばたっちゃんは丁度良かったと言う。
『摩央さんがな、秀嗣さん怒らせたっぽいねん?』
『は? あの人怒ることあんの?』
『そりゃ人やねんからあるやろ』
『そうやなくて、優しいし面倒見いいタイプやで? そう怒ることなんて』
『俺も詳しくはわからんねんけどな、聞いた摩耶も今お怒り中で手が付けられん』
あたしの中でどうゆうこと? しか出てこない。




