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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
一章 閉じ込められたのダンション

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休息は大切 



 起きて最初に感じたのは、体がだるいってこと。

 立ち上がれば足元がふらついて、すぐに手をついてしまう。


 今日は暑いななんて思ったけど、ダンジョンで気温が変わることなんてあるの? 測ったことないから知らないけど、変化を感じたことはなかったはず。


 あれ、体調悪い?


 そこでようやく思い至った自分に呆れながら、そのまま布団に倒れこんだ。


 気づいてしまえば、頭も痛い気がしてくるから人間も不思議。天井を見ながら今日のことを考えようとするのに、上手くまとまらない。手を額に当てれば少し熱い気がして溜息が出た。


 どうしようか、今日から地下三階へ行く予定で考えていたのに。順調に来ていた分、休むのは躊躇いがある。少し休めば動けるかな? あ、ポーション(微)飲めば治らないかな?



 気怠い体を起こし、ポーチを引き寄せ赤いポーション(微)を取り出す。いつもより飲みにくく感じながら飲み干せば、少し楽になった気もするけど全て治ったようには思えない。


 ポーチの中には同じ形の瓶で青と緑がある。でも中身がわからないから飲むのはさすがに避けたい。

 ポーション(微)をもう一本飲んでみる? でもそんな何本も飲んでいい物なの?


 あー、考えるのも面倒くさい。頭痛するときに考えるとか無理だ。とりあえず布団に横になって休もう。





「ただいま」


 不意に懐かしい声がして振り返えれば、そこには仕事から帰宅した父がいた。


「どうした、変な顔をして?」


 不思議そうな顔しながらあたしを追い越し居間に行く父。あたしもその姿を追い掛けるように居間の入り口へ行く。


「あ、おかえり」

「ただいま、絵里子どうかしたんか?」


 父の言葉で母が立ち上がると、首を傾げながらあたしの前までやってくる。


「どうしたん? 体調でも悪いん?」


 母の優しい手が熱を測るため、あたしの額に触れる。


「絵里子は小さいときから熱、出しやすいんやから気を付けな、ちゃんと休みよ?」


 微笑む母の顔が目の前にある。その横にはいつのまにこっちへ来たのか父がいて、あたしの頭を優しく撫でてる。


「大丈夫やから、頑張りすぎたらあかんで?」

「お父さんの言う通り、絵里子が頑張ってるのよーくわかってるから、大丈夫やからちゃんと休み」


 二人で声を合わせて何度も大丈夫と言ってくれる父と母。その姿に自分からも触れたくて、抱きしめたくて、子供のように恋しくなって手を伸ばす。





「お父さん、おかぁ…」


 伸ばした指先に振れたのは冷たい懐中時計。あたしはそれを掴むと引き寄せ抱きしめた。


 涙が勝手に流れていく。お父さんとお母さんに会いたい。家族に会いたい。


 あんな夢見たのは初めてだ。なんなら父と母を失ってからも見たことないのに。



 懐中時計を抱きしめて、声を上げ泣いた。


 どれだけ声を上げようが、どれだけ名前を呼ぼうが、誰にも届かないこの声にまた泣けた。


 なんで自分がこんなところにいるかもわからなくて泣けた。どうして自分がダンジョンで戦っているかわからなくて泣けた。


 そしてやっぱり、父と母も含めたみんなに会いたくて泣いた。




 泣きすぎなのか、熱のせいか頭がぼーっとしてる。なのに体は少し楽になった気がして、きっと少し寝たおかげだ。夢のおかげでも泣いたからでもないはず。


 声に出して吐き出してしまえば、色々と溜まってたんだな。とどこか他人事のように思った。


 こんな状況だし多少の無理してるとは思ってたけど、まだ大丈夫って思ってた。言い聞かせてた。大丈夫だって思いたかった。


 だって思わなきゃ、こんなところでやってられないよ。


 現代のただの一般中年に戦うことできると思うな。命のやり取りできると思うな。生き物を直接、殺すことをできると思うな。


 なんであたしなの? どうしてあたしなの?

 帰してよ、家に帰してよ!


 誰に言ってるかももうわからない。誰にも届いてないってわかってる。


 それでも吐き出すことで、少しは楽になれたのも本当。



 今思えば、ダンジョンに来てからずっと気を張っていた。じゃないと心が折れてしまいそうで、進めなくなりそうで、何よりそれが怖かった。


 だから休むことなく進み続けた。出口はきっとあるって、この半月やってきた。たとえ下り階段だろうと進めば何かわかるかもしれないと、ただ進み続けた。


 そりゃプレッシャーもストレスも緊張感も半端ないよ。

 ずっと何とかなっていただけ、それだけで今日まで来たんだ。


 取り乱したって何もいいことない。泣いたって誰も助けてくれないって自分を押さえつけて頑張ってた。


 自分が思ってた以上に、体も心も疲れてしまってたんだな。



 懐中時計を見て、心配かけてごめん。と呟いた。

 きっと心配で出てきてくれたんだろう。そう思うと少し、胸の奥が温かくなった気がする。


 きっとまたあたしは無理すると思う。きっとあたしはまた無茶もする。


 それでも家に帰るまでは諦めたくない、諦める気もない。

 でも体と心を壊しては意味がない。大丈夫ちゃんと休むよ。




 ふと目を開けると、最初に見えたのは握ったままの懐中時計。そのまま時間をみればすっかり寝ていたようで、今度は父も母も夢には出てはこなかった。


 すっかり縮こまっていた体を伸ばせば、体はすっかり楽になってる。たぶん瞼は腫れてるだろうけど、どうせ一人だから問題はない。逆に気持ちはすっきりとしてるし。


 ついでに体もすっきりさせようと立ち上がると、お腹がくーっと鳴った。お風呂の次はご飯かな? そう考えながらふらつかない足でお風呂を貯めに行く。



 ご飯も終わらせ人心地つく。引きっぱなしだった布団に寝転がり考える。


 多少慣れたとはいえ、本当の意味でこの生活に慣れることは難しい。ダンジョンの中での緊張感は、家にいたときには経験するようなものでもない。


 それにやっぱり命を終わらせること、仕方ないと言い訳しながら繰り返して、気持ちに鈍くなっても、本当に慣れることはないんだろう。


 他の人はどうかは知らないけどあたしはそうだ。そうだから今日、限界が来てしまった。


 眠れてると思ってたけど、実は浅かったんだろうね。今はここにきて初めてぐらいにすっきりしてる。



 空回ってたとは違うんだろうけど、ただ必死過ぎて見えてなかったこと色々あったんだろう。


 見渡してみれば殺風景な部屋、隣の部屋からは雑多に置かれたモンスターの皮や牙が見える。

 ただそれだけ、ただ生きるだけの部屋。


 もう少し緩めてもいいのかな? 目標を変える気はないけど、せめて休む日を作ったり、ポイントもあるから施設を作ってみたりするのもいいかもしれない。

 この生活がいつまで続くかわからない、だったらそんな気を張っていても仕方ない。



 最優先はダンジョンと変えることはできないけど、たまにはちゃんと休みを取って体も心も休めないと、じゃないとまた心配をかけてしまう。 

 この歳なって親にまだ心配かけえるとか嫌だしね。


 明日は念のためもう一日休もう。そして少し魔晶石を確認して色々増やしてみようか?

 このままじゃポイントも貯まっていくだけだし、観葉植物とかあったら買ってみる? それとも施設の大浴場か。


 二階のポイントは使わず全て置いていたから、かなり貯まってるはず。施設の一つや二つは余裕で買えるだろう。

 家具もいくつかあったっけ? 服も少し増やそうか、今のままじゃ着た切り雀もいいとこだ。



 考えていくと色々浮かぶ、そう考えると意外と楽しんでいる自分に気づいて笑みがこぼれた。

 ここにきてからこうして笑うこと、ううん、父が倒れてからずっと、こうして笑うことなかった気がする。

 父の知り合いや母の知り合いに会うたび、表情は作っていたけどそれは大人としての対応で、楽しいと思うことここ数年なかったな。


 あぁ、ずっと忙しかった、ずっと頑張っていたんだ。


 父と母を介護することが嫌だったわけじゃない、それでも悲しかったんだ。


 近づいていく別れが、早すぎた別れが、辛かったんだな。


 それに気づけばポロリと一粒涙が零れた、それを拭うことはせず懐中時計を握りしめる。



「お父さん、お母さん」



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