わからないから聞いてみた
秀嗣さんは話題を変えるように何か考え口を開く。
「そういえば達也君達の話は聞いたか?」
「ううん、今日のこと聞いてないわ」
「ダンジョンの前に誰が行くかなどで揉めてるそうだ。盾職の達也君と戦士の健也君、それに魔槍の摩耶さんだからそれなりに連れて行けるだろうが、安全を考えると二人か三人連れてくのが限界だろうしな」
その話しをさっきの摩央さんから聞いた秀嗣さんの顔は苦笑している。そのときにまたダンジョンに連れて行ってほしいとお願いされたらしい。
「さすがに明日は二階の間引きしちゃいたいしなあ」
「ああ断っておいた。装備も渡しているしな」
「たっちゃんら、暫く自分のレベル上げられへんやろうな」
「そうだな、それでも三人なら何とかなるだろう」
少し心配になるのは仕方ない。それでもあたしにはやるべきことがあるから、今は手を貸すわけにはいかない。
「約二週間で、どこまで進めるやろ?」
「一階が終わるの早かったからな、できれば三階は確認したいな」
「それか五階かな? ボスはできれば見ときたいし」
「そうだな、三階に出るのか五階に出るのかは確認したいな」
「地上のダンジョンはわからんことだらけやからね」
「なら今日は早めに寝て、明日は朝から行くか」
「そうやね、秀嗣さん寝れるの?」
時間的にはまだ寝るには少し早い時間のはずだ。
「俺のことは気にするな、絵里子は毛布を被って横になってしまえ」
あたしに毛布を掛けて使っていたカップを持つと洗ってくる、と出て行った秀嗣さん。優しいな、と思うとどうしても摩央さんが浮かんでくる。
摩耶と同じで素直な人なんだろう。だから真っすぐに秀嗣さんにアピールできるんだろうな。
もし秀嗣さんに恋人ができたら、今の生活は変わってしまうんだろうか。きっと変わってしまうだろう。
恋人も一緒に地下に住むのかな? それとも秀嗣さんが出て行くんだろうか? 秀嗣さんだけじゃなく胡堂も智さんも、そうなって行ってしまうんだろうか?
「珍しく眉間に皺が寄ってるぞ」
笑いを含む声で言われてしまった。いつの間に戻って来たんだろう。どうした?と言わんばかりにあたしを見てくる秀嗣さん。
「秀嗣さんて、恋人欲しいですか?」
驚いた顔するのはあたしがそんなことを聞くと思ってなかったんだろう。
「言いたくなかったらいいねん」
「いや、突然どうした?」
「変な言い方やけど、いつまでこの生活が続けられるんかな?って」
その言葉で納得したのか秀嗣さんが口を開く。
「いたこともあったが隊にいると出会いもなく、付き合っても振られるばかりだったからな」
「秀嗣さんモテそうやのに?」
「俺は怖がられることが多くてモテないぞ、口も下手だしな」
「うっそやー、秀嗣さん優しいし気遣い上手いし絶対モテるやん?」
「それを言えば絵里子こそモテるだろう?」
その言葉に首を傾げる。
「あたしなんてがさつで、昔から女っぽくないんでモテへんよ。たまに物好きもおったけど、そこまで恋愛に興味出ないし」
そう言葉にしてしまえば、本当に恋愛要素の欠片も見当たらない自分に苦笑した。
「そんなことないと思うがな、十分女性らしいし可愛いと思うぞ」
「お世辞でも嬉しいですけど、言われなれてないんで照れるからやめてください」
秀嗣さんはさらっと言うから困る。仲間だからこその言葉とわかっても照れてしまいそうになる。
そんなあたしがわかった秀嗣さんが笑うから、少し悔しい。
「それに南錠だったか? あれはまだ絵里子を諦めてないと思うぞ?」
「南条さん?」
ここで出てくるとは思っていなくて、一瞬頭がついて行かない。そんなあたしを見て秀嗣さんは苦笑する。
「できれば絵里子にはもう関わって欲しくない人物だな」
「まあ面倒な人やから関わる気もないけど、もうそう会うこともないやろ?」
そこでなんで苦笑されるのかわかりません。それでも不意に浮かんだ顔につい口から出た。
「もし、もし今、秀嗣さんは告白されたらあの家から出ますか?」
今度は秀嗣さんが少しきょとんとし、それでもすぐに言葉をくれる。
「俺は今あそこから出る気はないな、あそこにいて幸せだと思うし。それに今は誰とも付き合わないと思う」
「それは守り手やから?」
「あー、少し違うな。俺は確かに守り手でいたいしそれが幸せだとも思ってる。他の女性に今は興味がないだけだ」
絵里子が恋愛に興味がないようにな。と言われてしまえばそれに返す言葉が見つからない。
「それでも、ちゃんと幸せなって? 秀嗣さんのしたいことして、望むようにしてほしい」
「今もしてるぞ?」
「守り手とか神職関係なく、何も我慢してほしくない。秀嗣さんにはいつも助けられてるし、あたしにできることやったら何でも言ってな」
大事だと思ってるからこそ、ちゃんと自分の幸せを考えてほしい。それを伝えたくて秀嗣さんの目を見て言う。
秀嗣さんは少し驚いて、それでも優しく笑ったから、あたしの想いは伝わったのかもしれない。
「俺も絵里子に同じことを思っている。いつでも、どんなときでもな」
秀嗣さんは何もなかったようにそろそろ明かりを消すぞ、と横になる支度をし始めた。
それでもさっきの秀嗣さんの顔はとても優しくて、どこか甘く見えて、恋愛興味ない干物女子のあたしでも一瞬勘違いしそうなほどだった。やっぱり秀嗣さんはモテると確信しました。




