出発
「んじゃまあ、行ってきます」
見送りはいらないと言っていたのに、みんな外にまで出てきて見送ってくれた。口々に気をつけてとか行ってらっしゃいとか、お姉は最後まで秀嗣さんに色々注意してたけど、あまり聞かなくていいと思った。
走る車から外を見ても、歩いている人も車も見当たらなくて、知ってる景色なのにどこか違うものに思えてくる。
「この辺りも魔物が増えてるんですかね?」
「ここらへんはそうでもないらしい。近いダンジョンに組合ができたおかげで探索者が増えてるからな」
「でも人がいませんね」
「情報も伝わりにくくなってるからな」
高遠さんが組合発足会見のときに、魔物を倒せばレベルがつくことなんかは言っていたらしい。探索者にならなくても自衛の手段は持て。と、訴えていたそうだ。
その関係もあって組合ができる前から、地上に出た魔物を倒す人たちはいたらしい。
それでも全ての人がそんなことをできるわけもなく、ほとんどの人が閉じこもったり、食料を求めていった先で魔物に殺されたりするようなこともあったらしい。
あたしがそれを知ったのは少し後になってからだ。あの地下の安全な神社で、お兄ちゃん達に守られて、変化していることを知りながらそれを見ようとしていなかった。
力もあり経験もあるくせに、あたしはその時ただ守られ何もしていなかった。
不意に野々原さんや戸上さん、仲良くしてくれていた隊員さん達を思い出す。今、何してるだろうか? どこにいるだろうか? 無事だろうか?
秀嗣さんや智さん経由で、首都圏などと連絡はまだ取れていると聞いている。それでも本当の現状はもうわからない。
世界が変わって、ニュースなどで戦う隊員さんの姿や話が上がるたび、血が滲みそうなほど手を握りしめていた秀嗣さん。
守り手になりたくてなったわけじゃないこの人に、あたしの罪悪感と懺悔と偽善に付き合わせてることが申し訳なくて、顔を向けることができない。
これが自分のただの我儘だと知っている。それらしい理由つけときながら本当はただ自分が辛くて、それから逃げ出したいだけの行為だと。
誰かのためだとかそんな綺麗な物じゃない。姫巫女なんて似つかわしくない汚れた自分のためだ。
「考え事か?」
外を見ていると急に声を掛けられ顔を跳ね上げた。それを見て秀嗣さんがくすくすと笑う。
「考え事って程でもないですよ」
「その割に暗い顔をしてる」
自分ではしていたつもりはないんだけどと、両手で頬をもんでおく。
「最近、何か考えていることが多く見えたが?」
「そんなことないですよ?」
「誤魔化すときほど敬語になりやすいな、絵里子は」
指摘しながら笑う秀嗣さん。言われて初めて気づきました。
「あー、そんなこと、ないよ?」
「なんだそれ」
ハンドルを握りながら楽しそうに笑う秀嗣さん。まだ短い時間だけど生活を共にし、ダンジョンではお互いに命を預け、すっかり仲間だし本当に家族のように思っている。
だからこそ、この人にもちゃんと幸せになってもらいたい。自分のやりたいことをしてもらいたい。
「聞いていい?」
「なんだ?」
少しだけこっちを見て、優しく笑ってくれるから一瞬言い淀んでしまう。それでも今聞かないともう聞けない気がする。
「隊に、隊に戻りたいと、守り手を辞めたいと思いませんか?」
「思わないな」
秀嗣さんはこっちを見ることなく、あたしの言葉にかぶせるように言い切るから、あたしの方が驚いてしまう。
「世界が変わってこんなことを言っていいのかわからないが、俺は今の生活を気に入ってるし、今の生活が大事だと心から言える」
「でも、守り手やから自由に動けへんし、隊員さん達のこととか」
「そりゃ気にならないと言ったら嘘になる、元々は仲間だからな」
苦笑しながら秀嗣さんは言う。けどそれはどこか吹っ切れたもの。
「俺は前も言ったが、大義名分掲げて隊に入ったわけでもない。それでも仲間と呼べる奴らと楽しくやっていたのも本当だ。それでも今ほど楽しかったかと聞かれれば違うだろうな」
どこか楽しそうに、笑いながら言う秀嗣さんの言葉の意味が読み切れなくて首を傾げてしまう。
投稿は朝と昼と夕と夜ならどの辺りがいいんでしょうね?




