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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
一章 閉じ込められたのダンション

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希望は抱かずに



 目覚めたらさっさと準備。たとえ防具でも、新しい物だと少し気分が上がるから不思議。


 昨日の内に整理しておいたポーチの中身を念のためにもう一度確認し、今日は何が起こるかわからないから、水と食料とポーションは少し多めに入れてある。


 確認もすぐに終わりダンジョンへ。玄関で誰もいないのに「行ってきます」と言うのもすっかり慣れた。



 地図を見てもう一度、階段までの最短距離を確認して進む。小部屋も宝箱があれば入るけど、モンスターだけなら放置で進む。


 階段の先は何が待ち受けてるかわからないから、できるだけ体力温存で行きたい。

 最悪ポーション飲んで体力回復も考え、その分も少し多めに持ってきてる。



 レベルのおかげだろうか、走るのも早くなって、予想よりかなり短い時間で階段前の小部屋まで来れた。

 そこには前と同じく兎が三匹、こちらに気付いた様子はないので、足早に小部屋に入り三匹とも仕留めていく。


 怪我もなければ疲れも感じていない。違和感が少しでもあったらポーション飲もうかと思ってたけど必要なさそうだ。


 新しくなった装備も軽くて動きやすく、走ればいつもより早く感じて驚いた。防御力はまだわからないけど結構、期待はしてる。


 念のため予備に買った剣も試しておいた。今の剣より軽くて握りやすいし、切れ味までかなり上がってる気がする。


 だいぶ使いやすく感じて、メイン武器にするか少しだけ迷った。


 けどもうしばらくは今のままで戦うつもり。新しいのってついつい使えないんだよね。貧乏性なんです。



 階段を下りると決めてから色々考えたけど、地下五階までは帰れないと思ってダンジョン探索することにした。


 出口に捕らわれてモンスターにやられるのも、気持ちが揺さぶられるのも辛いから。帰ることを諦めたわけじゃない、生きて帰るために決めたこと。



 水を飲み終え小休止を終えて階段を見る。奥までは見えてこないけど、広さはありそうだ。


 さすがに階段で戦うのは嫌だな。そう思いながら何があっても対応できるように慎重に進む。


 階段の幅は広く、頑張れば大人三人が横並びで歩けそう。通路や小部屋よりも少し薄暗く思うから、足元に注意はいるけど。


 思っていたより階段は長く、途中踊り場があって折り返すように下に続いてる。

 ここもモンスターが出ないならゆっくり休憩できそうだ。



 階段を下りきると小部屋に出た。地図を見れば一階のときと同じくほぼ空白にグレーで小さな四角と赤い点。階段にはわかりやすくマークみたいなものが付いてる。


 自動更新で本当に優秀だ、この地図。

 この地図がなければダンジョンの中をこんなに進むことはできなかったと思う。


 地図を仕舞い懐中時計を無意識で撫ぜた。小部屋の奥には通路が見えて、家ではなくダンジョンが続いてることを突き付けてくる。


 それでも進むけどね。防具を新しくしたのも諦める気がさらさらないからだし。


 考えないようにしてた淡い期待を消すことできなかった。それでも仕方がない、と割り切って切り替える。ここからは油断すればどうなるのかわからないから。


 小部屋から通路を確認、モンスターは今のところいない。前と左右に通路が伸びているけど、どこから行こうか。

 どこでも一緒か、と適当に決め左へ進む。今はダンジョンを進むしかないから。


 階が変わっても出てくるのは鼠と兎。一度に出てくる数は増えたけど、難なく倒せてる。慎重に先に進んではいるけど、拍子抜けしそうになる。結構覚悟を決めて下りたんだけどな。



 そんなとき微かに聞いたことない音がした。足音を立てないようゆっくりと近づくと、はきっりとした鳴き声が聞こえてくる。


 『ぷひ〜』


 気が抜けそうになる、たぶん鳴き声なんだけど。


 姿を見てみれば、たぶんあれがウリ坊ってやつなのかな? 猪の子供。本物見たことないからたぶんとしか言えないけど。


 結構大きくて兎二匹、三匹分かな? 意外に目がくりくりとし、毛皮はふわふわに見えて少し可愛い。けど口には小さな牙みたいなもの一応が見えるし、あれが走って当たってくるって考えると怖いかも。


 覚悟と勇気を返してほしくなる。あれもモンスターでいいんだろうけど、ぷひぷひと聞こえる鳴き声につい力が抜ける。


 ここで止まっていても仕方がない。たぶん倒すしかないんだし、なんか兎よりやりにくいのは鳴き声のせいかな?


 あたしは短剣を握り直し、音を立てないように近づく。ウリ坊は鼻をひくひくさせるとこちらに気づいた。真っすぐに体ごとあたしに向き、前傾姿勢を取るウリ坊。正面から見るとやっぱり牙が少し怖い。


 ウリ坊は前足で地面を二、三度掻くと、あたしに向かって走り始めた。思っていたより早くない。それに予想していたように真っすぐだ。

 あたしはすぐに横にずれ、ウリ坊を見送る。


 すぐに止まれないのか、あたしから少し離れたところで速度を落とし止まったウリ坊。こちらを向き直すと怒ったように『ぷひんっ!』と鳴くのは止めてほしい。たぶんあたしは悪くないはず。


 さっきより地面の掻きかたが荒く見えるのは、あたしの勝手なイメージか。真っすぐにあたしを見つめ、やる気は十分になってるようだ。

 やっぱりやりにくい。そう感じながらもやるけどさ。


 あたしは向かってきたウリ坊を避けながら、短剣をウリ坊の体に当てる。すぐに止まれないウリ坊は、短剣が当たっても走るので傷が大きくなっていく。

 血をぼたぼたと流し足取りも重くしながら、まだこちらを向くウリ坊。ダンジョンモンスターは野生の心がないのかな? 逃げるって選択肢、大事じゃない?


 このまま苦しめるのも趣味じゃない。ほぼ走れないほど弱ったウリ坊に止めを刺そうと近づくと、ひときわ大きく『ぷひ〜!』と鳴いた。


 いろんな意味で今までで一番のやりにくさだ。わかってるのに躊躇ってしまいそうで、短剣を握る手が少し震えてる気がした。


 それを気づかないふりであたしは短剣を振り下ろす。



 慣れたはずなのに息が上がってる。短剣を引き抜くと生々しく血が湧き出てきて、命の終わりがそこにあると教えてくる。


 このままじゃ駄目だ、と頭を振って手を合わせてから、まだ温かいウリ坊に触れ、あたしが生きていくためには今はダンジョンしかないから。そう自分に言い訳すしてポーチにウリ坊を入れた。


 よく入ったなウリ坊。入れたのは自分だけど、大きさ的に無理だと思ってたよ。


 地図もまだ全然埋まってない。これからもウリ坊ややりにくいモンスターは出てくるんだろう。


 ダンジョンで気を抜けばやられてしまう、向こうは最初からあたしを殺す気で来てるんだから。


 自分に言い聞かせながら先へ進む。



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