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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
五章 非日常は突然に

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裏で糸を引くのは



 それから三日、お兄ちゃん達は帰ってこなかった。その連絡をのり君に個人宛てに念話をいれたのは、一番文句を言わないと思ったからだろう。


 その間にお姉はなんとか写本を作り上げ、のり君も鍛冶に勤しんで、あたしと秀嗣さんは十一階の奥の魔物から中魔石を見つけることができた。


 地図を完成させるべきか迷ったけど、十二階に一度おりて様子を見たら、戦えるが全てが中魔石ではないことがわかった。

 だったらと地図を優先させ、できるだけ奥で探索を続けた。


 そして今日の探索を終わらせて、ダンジョンから地下の居間に出るとお兄ちゃん達が座ってた。


「あ、帰ってきとる」

「おー、おかえりー」

「ただいま、そっちもおかえり。いつ帰って来たん?」

「さっきや、とりあえず風呂を済ませて飯しよ。後で説明するから」


 帰って一息ついていただけなんだろう、腹減ったとお兄ちゃんは大浴場に向かった。


 その姿が普通過ぎて、この変化した世界で離れていたとは思えない落ち着きぶりに、あたしと秀嗣さんは顔を見合わせたが、どちらからともなくお風呂済ませましょうかと笑いあった。



「んじゃ、聞かせてもらいましょうか」


 ご飯はゆっくりと食べたいと言われ、やきもきするあたし達を置いてのんびりご飯を食べやがったお兄ちゃん。言葉がきつくなるのもしかたない。


「説明ってなあ、どこから話せばいいねん」

「最初から順序良く言って、首都圏や都心部の情報も」


 お兄ちゃんは少し嫌そうな顔をし、一度息を吐くと諦めたように説明し始めた。


 お兄ちゃんは高遠さんに頼み被害が一番大きい都心部の、それも前線と今言われているところに行ったそうだ。道中から徐々に血痕や壊された壁など魔物が暴れたと思う形跡はあったらしい。


「なんでわざわざそんな危ないところ行ったん!?」

「どうせやったら一番必要としてるところに持ってかなあかんやろ?」


 おかげで他にもわかったことは多かった、とお兄ちゃんはにやりと笑った。


 ダンジョンが多い地域に行けば違和感を感じ、神経を研ぎ澄ませれば空気はどこか重く纏わりつくように感じた。それはダンジョンに近づけば近づくだけ強く感じ、だから隊員達に頼みダンジョンまで行き少し中に入ったそうだ。


「お前のおかげや、たぶん指輪が力の増強の役割してくれた」

「あほやん、そんな為に渡したんちゃうもん」

「それでもおかげで俺の真眼でもなんとか魔素が見えた。都心部全体は三ヶ月か? 武器渡したからもうちょい頑張ってくれると思うけど」


 お兄ちゃんの言葉に、家に居た待機組の顔色が変わる。


「絵里子が言うように、ダンジョンは魔素の排気口やった」


 都心部のダンジョンはほぼ分厚い鉄の扉がついていたためか、ダンジョン周辺の魔素はとても濃く重く感じたらしい。そしてダンジョンの中でも魔素は濃く、魔物の強さも違ったと。


 地上に出た魔素はすぐに空気に溶け込むわけではなく、徐々に領域を広げながら空気に溶け込んでいたように見えた。


「魔素が濃いところでは地上にも強めの魔物がおった、魔素が薄いところでは弱い魔物や。扉がなかったダンジョンからも徐々に魔素が出てるって考えたら、首都圏全域は半年持たんやろな。国も半年から一年、希望を持ってもうちょい持って欲しいが魔物が当たり前の世界になるやろなあ」


 お兄ちゃんはどこか諦めたような、それでいて苦い顔をする。


「それは国には?」

「高遠さん通して言った。ただ他の神職には魔素見えへんし、現場を知らんお偉方はなんとか封じ込めに成功してると思ってる」


 秀嗣さんの手が白くなるほど強く握られていた。


「で、このままやったらやばいってなったから探索者組合や」


 急に声を軽いものに変えてお兄ちゃんは言う。


「待って、ついてけへん」

「そのまんまや、このままやったらこの国はじり貧ってか、世界中、人間の住む場所なんかなくなるわ。それは神さんも望むとこじゃない」

「それは高遠も理解を示し、その為にダンジョン省はあると」

「それと姫巫女様の心労を少しでも減らすためやった?」


 智さんと胡堂まで軽く言うから、あたしの頭の中がパニックになる。


「とりあえずあたしの心労はようわからんけど」

「何言ってるん、今回のこの魔武器とかお前の発案やん? 前線で辛い戦いを続けている者を憂いた姫巫女様、そしてまだ弱い神職達が少しでも人を守り導けるようにと授けて下さりました」


 間違ってないけど間違ってる。確かに少しは力になる様にとも思ったけど、自分たちから目が少しでも離れないかなーって思惑も込みだ。


「いやー、しかし高遠さん上手いことやったと思うで? 俺らの捕獲命令が出てる中で」

「元々頭は切れるタイプですし、多少の無理は通すタイプですからね」

「どうやって国を説得したんやろうなあ?」

「説得しきれてないから会見に殴り込みやろ?」


 出張組だけがおかしそうに笑うけど、こっちとしては本当にわけわからん。そんなあたし達の顔を気づいたお兄ちゃんが口を開く。


「とりあえず前線と神職何人かには武器と物資を渡すことは成功した」

「なんで神職の全部じゃないん?」

「戦う気がないやつに渡しても意味ないからな。国の目もそれなりにそっちに行きそうやし」


 お兄ちゃんの目が厳しくなった。現実がこうなって心折れた人もそりゃいるか。都心部はなかなか酷い有様のようだし。


「そんで、話のわかる隊員さん達と高遠さんらダンジョン省数名と話をして、必要なものはなんやってなったんや」

「話の分かる人たちはだいたい神社知ってる者でしたしね」

「俺らの言い分信じてくれてやりやすかった」

「隊員に関しては武器と薬類のおかげで、神社知らんでも支持されてるらしいし」


 そんないい顔で言われても不安しか残らないよ。



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