さめた頭
何度か小休止を挟みながら奥へと進み続け、代り映えしないダンジョンが嫌になって来る。
色々考えなくてすむからモンスターが出てきたほうが有難い。人間、変われば変わるものだ。
戦いに掛かる時間もどんどん短くなっていき、途中頭の中で鐘が鳴ったから多分レベルも上がった。
何匹やったか覚えてもない。戦いが楽になればなるだけ本当に出口があるのかと焦ってきて、嫌になる。
そんな考えを振り払うように足を進め続け、小部屋を見つけては中を確認し、モンスターに会えば戦う。その繰り返しの作業みたいで、ほんと嫌だな。嫌だしか言ってないな。
余裕ができるって嬉しいけど、今は困る。時間を確認すると午後四時を過ぎていた。懐中時計を一撫ぜして、気持ちを切り替える。余裕ぶっててやられるのは勘弁してもらいたい。
通路の角を確認して曲れば、すぐ近くに小部屋の入り口が見えたので、中を覗くと兎が三匹。その奥に通路がまた見えた。
今まで小部屋から通路が続いていることはなかった。無駄に期待してしまいそうになるが、落ち込みたくないから期待しないでおこう。お風呂の時の教訓です。これ大切。
でもその前には兎が三匹、まだこちらには気づいていな様子。レベルも上がったしポーション(微)もある。
あたしは勢いをつけて部屋に入ると、まず一匹の兎をそのまま仕留めた。残り二匹がそれに反応しあたしに向かってくる。
あたしはそれを横に躱しながら二匹目を切りつけるが、浅かったようでまだ動いてはいるけど立ち上がれないようだ。
残りは一匹、今のあたしなら兎の速さにも追いつける。飛び上がる前に剣で刺し深く息を吐いた。
まだ息のある兎にごめんね、と止めを刺してポーチに入れていく。怪我もなく終われてよかった。
いつもならこれで元いた通路に戻って探索を続けるんだけど、問題は小部屋の奥の通路だ。見ないって選択肢はないけど、見るのが怖い気もしてる。
もし、何もなければ?
もし、強いモンスターがいるだけだったら?
そんな思いがあたしの足を止めてしまう。他のまだ進めていないところを先に行くってこともできるけど、もしそれで何もなければまたここに戻ってくるだけだ。
あとで見るなら先に見ても一緒、何もなくてもまた出口を探すだけ、何も変わらない。
あたしは勇気をだして小部屋の奥、通路へと向かう。
その通路は短く、すぐ入り口が見えた。強そうなモンスターなんかもいることなく、いつもの小部屋より少し狭いくらいの部屋。中は他同様に明るく、変わった点は見つからない。
あたしは注意しながら中に踏み込む。何かが出てきたり、入り口が閉まることもなく変わりない。
やっぱり出口なんかなかったか、そう思いながら数歩進むと、地面を掘る形で階段が見えてきた。
期待なんてしないようにしてたけど、変化は求めいていたけど、下に行きたいんじゃない、あたしは上に行きたいんだ。
下り階段を見てなんか脱力、時間は少し早いけど今日はここまでにしよう。
部屋に戻ってポイントを確認したら1485ポイント。
あたしどれだけ倒したんだ。ポーチの中が大変なことになってそうで、取り出さずに売れてほんとよかった。
兎は念のためお肉を五匹分と、角と皮全て置いておく。鼠は考えたけど全て売ることにした。それだけでもかなりのポイント数だ。
これだけあるし色々と揃えられそう。とりあえず冷蔵庫とコップは買って、あと布団も買ってしまう。
他にはと色々見ていくと『施設』が増えてる。『個人ルーム拡張』と『倉庫』と『訓練室』と『解体場』。
なんとなくわかりそうなものばかりだけど、解体場ってなに?
兎売るときに『解体』って出るのに? 鼠にはないけど。
そのうち魔晶石で解体できないようなものが出てくるの? 自分で解体?
頭に色々浮かんだけど、今は無視しておく。たぶん買っても使えないし。
ポイントはまだあるから、買おうと思えば一つは買える。一番安いのは倉庫だけど、家具もないこの部屋はまだまだ置き場所はある。
逆に高いのは訓練室、指導者がいるならいいのかもしれないけど、訓練の前に帰してほしい。
やっぱり選ぶなら個人ルーム拡張一択かな、1100となかなか高いけど休む部屋って重要だし。
ほぼほぼ決まっていた答えを出し、個人ルーム拡張を押す。すると普段とは違い画面に『※注意※』と出る。拡張は外のオブジェの魔晶石からしかできないみたい。
しかたなしお肉を買ったばかりの冷蔵庫へ入れ、外へ出てルーム拡張。しばらく待つけど音もなく変化もない。
魔晶石を確認しても個人ルーム拡張の文字が消えてる。
詐欺?
そうだったとしても訴える場所すらないけど、あたしは部屋に向かって扉を開けてみる。すぐに変化に気づいた。
キッチンがほんの少しだけ大きくなってるし、お風呂場の他に扉が増えてる。
詐欺とか思ってごめんなさい。わくわくとしながら部屋に上がり、扉を開ければお手洗いが別になってた。地味に嬉しい。その分お風呂も少しだけ広くなってる。
部屋は広くなったわけじゃないけど、バストイレ別は拡張してよかったとめちゃくちゃ思えた。
さっそく新しくなったお風呂に入って、今日の疲れを癒す。トイレがないだけで圧迫感が消えてのんびりできる。
ご飯は今日も兎のステーキ、胡椒もを買ったから昨日よりも美味しかった。
一息つく前に洗い物と洗濯を終わらせて、ポーチの整理。ほとんど売ってるから、残ってるのはポーションばっかりだけど。
水と干し肉も足しておいて、明日もダンジョンに行くんだから。
明日…、明日はどうしようか。
新しく見つけたあの階段、あの先が家だとは思えない。それでも可能性がないわけではないし、進んでみる価値はあるかもしれない。でも他のところに階段や出口があるかもと思ってしまう。
もしあの階段が家に繋がってるのなら、今すぐにも帰りたい。けど、そうじゃなかったら? そのままダンジョンが続いてたら? そう思うと怖くて階段を下りるのが怖くなる。
引いていた布団にごろりと寝ころんで考える。なんで家の押し入れにこんなところがあったんだろ?
誰かが作るとかできないだろうし、なんの為にこんなダンジョンができた?
スライムとか角兎が地球にいるわけないし、押し入れが異世界に繋がってる? それなら誰か人に会ってもいいはずだ。
そもそもいつからダンジョンの入り口になってた?
そろそろあたしがいないことに誰か気付いたかな? 捜索願とか出されちゃってるのかな?
お姉ちゃん怒ってる? 泣いてなきゃいいけど。
お父さんとお母さんのお水とお花、変えてくれてるかな? あー、燃えるゴミ、気付いて捨てといてくれてたら嬉しいな。
「なんであたし、こんなところにいるんだろ」
ぽつりと声が出た。
それは静かな部屋では大きく響いて、何より考えないようにしてたこと。
あたしは振り切るように横に寝返ると、父が大切にしてた懐中時計が目に入った。それを見てると家での日々が思い出されて、自然と帰りたい気持ちが強くなる。悲しくなる。嫌になる。
けど、まだ諦めてはいないから。
新たに階段を見つけたし、地図も全てできたわけじゃない。なら出口だってあるかもしれないんだから。
まだ四日だ、弱気になっちゃ駄目だ。まだ、諦めるには早すぎる。
大丈夫、あたしは家に帰れる、帰らなきゃ駄目なんだ。
明日は地図を埋めること優先しよう。もう行ってないところも少ないし、宝箱から何かいい物が出るかもしれない。
大丈夫、あたしはまだ動けるから、頑張れるから。
帰れるまで、諦めたりしないから。




