目覚めたものは
防具の神職服は焼けてはいないが、黒く焦げ付いたようになっていて、秀嗣さんの脇腹辺りにはあたしの手のひら大の焼けたような爛れがある。この痛みで震えているのかと思ったら、秀嗣さんの顔色がどんどんと悪くなっていく。
「とりあえずポーション(微)飲んで」
急いでポーション(微)を出すけど、秀嗣さんは上手く呑み込めなくて口から毀れてしまう。震える手でもう一本ポーション(微)を取り出し爛れたところに掛けるけど、薄っすらとも塞がらない。
なんで、どうして。そんなことを思いながら鑑定を使う。焦っちゃ駄目だ、落ち着かなきゃ。と思うのに上手く頭が働かない。
「お前しか無理なんやから、落ち着け!」
「ご、ごめん」
胡堂に肩を強く掴まれ深く息を吐く。大丈夫、こんな時のための姫巫女だ。
あたしは秀嗣さんに集中する、見えてきたのは火傷と毒。
「毒消しある?」
あたしはそう言いながらも自分のポーチから毒消しを取り出し飲ませようとするが、秀嗣さんはやっぱり飲んでくれない。
「(微)しかないで」
「あたしもや」
そう言いながらも飲んでくれないと意味がない。人命救助が最優先だとあたしは毒消しを口に含み、秀嗣さんに無理矢理飲ませる。なんとか飲み込んでくれたことを確認して、すぐに鑑定をする。
「…なんで? なんで効かんの?」
消えない毒の文字に減っていく体力。秀嗣さんの体温まで下がってきたように感じて、あたしの体まで恐怖で震えていく。
「落ち着け」
「で、でも」
「他にできること考えろ、毒消しもう一本飲ますか」
他に、他にできること。胡堂の言葉が頭を巡る。
今どうにかできなくて、何のための姫巫女だ。神職だ。
あたしは目を閉じて集中する。深く深く自分と秀嗣さんに沈め。
どんどんと胡堂の声が遠ざかる。それと共に浮かび上がるあたしと秀嗣さんの存在。秀嗣さんの肩から何か蝕むもの、黒くて嫌な物。あたしならそれを取り払える。
あたしはその部分に手を翳し、ゆっくりと引き出していく。中に入ってしまったものも全て全て、残さないように慎重に。
それと共に火傷だ、こちらは肌の再生を促すように。
そして最後、一番重要な生命力。あたしから分け与えるようにゆっくりと流していく。そうすれば秀嗣さんの呼吸は安定し、徐々に体温も戻っていく。
「もう、大丈夫だ」
突然掴まれた手にあたしは目を開いた。目の前にはまだ汗を滲ませ、心配そうな表情の秀嗣さん。その顔は逆じゃないかと思いながらあたしの視界は黒く染まった。
ふと目を開けば薄暗い、見覚えのない場所だ。首を動かして周りを見ようとしたら声がかけられた。
「起きたか?」
「あたし、なんで?」
体を起こそうとすればなぜか眩暈がして、胡堂がそれに気づき背中を支えてくれた。
「無理すんな、無茶したとこやねんから」
「ここは?」
「秀嗣の部屋」
ベットや辺りを見渡せば、物の少ないシンプルな寝室。濃い青と白で纏められ清潔感がある。だけど秀嗣さんはいない。
「お前、覚えてるか? 秀嗣を回復させて気を失ったん」
「……そんなことありました? でもあれ無我夢中でやったから」
「お前が気を失ったあと、俺と秀嗣でお前を担いでなんとか戻ってきた。まだ恵子さん戻ってなかったから、宏さんに恵子さんにばれんように秀嗣の部屋で休ませろって」
「あたしの部屋入れといてくれたら」
「誰がお前の部屋を開けれんねん」
そう言えば誰もあの部屋を開けれないんだった。と言うことは、あたしは秀嗣さんのベットを占領してる?
「別に居間に転がしとけばよかったし」
「聞いとったか? あんなお前見たら恵子さんが怒るからこうなったんや」
胡堂の話しでは、あたしは血の気の引いた白さで、一瞬生きているのかわからないほどだった。地下の居間に戻るまでひやひやしたと。
お兄ちゃんが鑑定をしてもあたしの異常はなく、ただ体力がかなり落ちているから休ませて様子を見るしかないとなった。胡堂と秀嗣さんは責任を感じて、あたしの看病をしてくれてるんだろう。
「秀嗣は無事、と言うか前より調子がいいらしい。毒は一応矢を持って帰ってきて宏さんに渡してる」
「あの魔法を使うゴブは?」
「言っといた、八階の奥で出たことも」
「秀嗣さんは?」
「向こうの部屋で休んどる、交代でお前見ることなったから」
そう言うと胡堂はじっとあたしを見てきた。どうしたんですかね胡堂さん? なんて声をかけるより先に抱きしめられた。
「さすがにあんなお前見たらひやひやしたわ」
「それは悪かったな、ごめんな」
胡堂の背中をぽんぽんと叩いて苦笑する。
「もうせえへんとか言えんのか」
「無理やろ? また誰かになんかあったらあたしはするやろな。それが嫌やったら怪我せんといて」
普段冷めたこいつが、こんなことをするぐらいに怖かったんだろう。あたしも秀嗣さんが冷たくなるたびに怖かった。失うことは簡単だと知っているから。
だから今はこの温もりにどこか安心する。
「そんなん言ってて、自分がまた倒れたら笑ったるからな」
「ちょ、それ勘弁」
あほ言ってないでもう少し寝ろと、横にされあたしは胡堂を見上げた。
薄闇の中、本当はまだ怖くて、どこか一人になりたくなくてつい見上げてしまったんだ。胡堂はそんなあたしの不安に気づいたのか。
「宏さんの命令が終わるまでここで待機やからな」
そう言ってベットの横に座ると、指相撲でもしよかと手を差し出してきた。もうちょっと言い方あるだろうと思いながら、指相撲は意外に白熱した。
この章はこれを入れて残り三話で御座います、ここまで色んな意味で長かった。
ブクマと評価いつも有り難う御座います、久々に閲覧数確認したら驚くことになってて、どきどきしております。
これからもよろしくお願いします。




