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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
四章 神職とは?

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兄妹だから



「ただいまー、ってまだ誰も帰ってないですね」


 それなりの時間ドライブしていたのに、まだ誰も帰ってきていない。荷物を手分けして倉庫と台所に運びながら過ごせば、お姉の声が聞こえてきた。


「ただいまー」

「お帰り、荷物は運んでよ」


 後ろののり君が大変そうだから、手伝いなさいと言いながらお姉を動かして聞いておく。


「なんかあった?」

「何か知らん人について来いって言われたから、無視しといた」

「正解」

「ちゃうやん、恵子は殴ろうとしかけたやん」

「なんかあったとき用の正当防衛の準備や」


 秀嗣さんに目を向けて「ほら」と言えば苦笑された。


「絵里子らは?」

「特になんも、だいたいの買い物できたしな」


 秀嗣さんが言う前にあたしはお姉に返事する。その時丁度よくお兄ちゃんたちも帰ってきたようだ。


「帰ったぞー」

「荷物はちゃんと運んで」

「多すぎんねん」

「みんな食べるんやからしょうがないやん」

「はいはい、運んだら報告会な」


 お兄ちゃんの言葉に面倒な予感がしながらも、仕方ないかと荷物を片付けてお茶の支度もして地下の居間に行く。

 のり君はどこか緊張めいて、胡堂と秀嗣さんは少し不思議そうだ。


「まず、のり君と恵子のところにも来たんやな?」

「はい、こっちは男五人でした。恵子の威圧で動けなくなったのでそのまま放っておきました」

「無視ちゃうやん」

「邪魔やって言っただけやもん」


 その言葉にみんな苦笑しか出ない。お兄ちゃんは諦めたように口を開いた。


「まあ無事ならいいわ。俺らんとこにも似たようなんが来たわ。レベル持ちはおらんかったけど、そこそこ鍛えてそうなんが。面倒やから俺らは走って車乗ったけどな」

「車にも追跡なかったん?」

「あったで、たぶん撒けたけどそこはなあ」


 まあ帰る場所ばれてますよねえ。


「んで秀嗣、報告してくれ」

「あたしがするわ」

「あかん、秀嗣が〝正しく〟や」


 お兄ちゃんの強い目にお姉の表情が変わる。


「絵里子がカートを返しに行った先で、男女に話しかけられていました。すぐにバンが横付けし、たぶん八人ほどの男に囲まれていま」

「大丈夫!? 怪我は? 痛いとこは?」


 秀嗣さんの説明を遮り、お姉が勢いよくあたしの目の前まで来る。あたしの体を触り、怪我の確認とあたしの気持ちを読み取ろうと泣きそうな顔で必死だ。

 それに驚いているのは胡堂と秀嗣さんだけ。


 あたしに怪我がないと思ったからだろうか、あたしが止める前にその矛先は秀嗣さん向かう。


「守り手が何してた!?」


 座っていた秀嗣さんの胸倉を掴み上げ、その大きな体を浮かす。怒気の孕んだ声は魔力が乗っているんだろう。それでも秀嗣さんは自分が悪いと思っているのか、真正面からそれを甘んじて受け入れようとする。


「お姉、大丈夫やから。落ち着き」


 お姉に抱き着くようにあたしがそれを止めれば、慌てるのり君と目を白黒させる胡堂、それに静観を決め込んでいるお兄ちゃん。


「お姉、あたしここにおるやん? 無事やろ? な?」


 そう言って存在を示すように、お姉にしっかりと背中から抱き着く。ゆっくりとお姉から力が抜け、秀嗣さんを下ろすとあたしに向き直る。


 小さくカタカタと震えるお姉に、体温を教えるよう正面から抱き着けば、お姉の目から涙が零れてきた。


「なあ、もしかして覚えてんの?」

「ぼんやりと」

「……、ごめん、ほんまごめん」

「あほか、あたし無事でこうして笑ってるやん」


 ぽろぽろと泣くお姉の背中を叩きながら、胡堂と秀嗣さんは置き去りだ。のり君は少し困ったような、よかったと言う表情でお兄ちゃんもまあしゃあないと苦笑している。


「あたしもう三つの子供ちゃうねん。やから自分で自分守れるし、お姉がこだわることなんてないねんで」

「違う、あれはあたしが悪くて」

「後悔やなくて反省で十分。無事やったんやし、そんなんに縛られんで」


 少し体を離しお姉の顔を見れば、それは後悔に染まり、さっきの話で恐怖に囚われてる。



 共に生活をしてればお姉や家族があたしに拘ってることなんてすぐにわかるし、幼い頃から過保護だからそれが記憶を繋ぎ、なぜかなんて考えなくても、理由は大きくなれば理解できた。


 今のあたしからすると本当に断片でしか記憶はなく、怖かったような気もするが、それでもすぐに家族に会えたと言うことぐらいしか残ってない。


 あたしは暫く動けなさそうなお姉をのり君に部屋で休ませるようにお願いして、お兄ちゃんを睨む。


「こうなるのわかってて秀嗣さんに言わせたやろ」

「いつまでも負い目持たれてるのはお前も嫌やろ? それにこれから考えたらあいつにも先に進んでもらわな」

「やからってこんなショック療法みたいなん」

「のり君もおるし、他にも仲間増えてん。あいつにもちゃんとわかってもらわなあかん」


 言い分として理解できても、納得できるものでもない。ただお兄ちゃんはお兄ちゃんの顔で。


「暫く恵子休ませるから、使いもんならんけどすいません」


 と、胡堂と秀嗣さんに謝っていた。

 たぶんあたしだけじゃなく、お姉のことも考えた結果なんだろう。それがわかったから、あたしはこれ以上何かを言うことをやめておいた。


「一先ず行動は一人でせんってのは変わらず、特に絵里子はほんま気を付けろよ。人数見てもお前を重要視してるのは間違いないから」


 そう釘を刺され、あたしの行動は暫く制限されそうだ。




 その夜、部屋に戻る秀嗣さんを追い掛けて、あたしは秀嗣さんに頭を下げた。


「お姉が本当にすいませんでした」

「あれは俺が絵里子を危険にさらしてしまったんだから当然だ、何も謝ることはない」

「いえ、秀嗣さんはちゃんと止めたのに、それを聞かずにあたしが勝手な行動をしたから。それにお姉のあれはお姉に問題があると言うか、その」


 下げたままの頭を優しくぽんぽんとされ、あたしは顔を上げる。少し困ったように眉を下げ、それでも優しく微笑む秀嗣さん。


「これから行動にはお互い気を付ければいい、恵子さんのことはほんとに気にしていない。だから絵里子も気にするな」


 ほら、もう部屋に戻れ。とそのまま背中を押されるから、あたしは振り向いておりがとうとお休みさないだけ言うと部屋に入る。

 扉が閉まるときに、秀嗣さんが漏らした決意など気づくことなく。



「守り手など関係なく、その心ごと守ると決めたからな」



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