お疲れ様です
静かに進んで行くが、あたしの頭なのかは少しパニックだ。それでも石田さんの質問は進んで行く。
「では手に入れたアイテムなど、有りましたでしょうか?」
「それは国に渡せと言うことか?」
「確認や調べたりはできればさせて頂きたいですが、どんなものがあるのかも知りませんから」
水野君は口を噤むし、尾上さんも言いたくなさそうだ。石田さんは諦めて次の質問に変えていく
「それでは皆様は何日ほどでボスを倒したのでしょうか?」
「それがなんの関係が?」
「これからの魔物と戦う際の目安になります」
笑ってるのに目が笑ってない石田さんは少し怖い。ストレス溜まってるな。
「何度も説明しているが、状況が違いすぎて目安になんかなるわけない。正確な時間も覚えていない」
あれ? 言いたくないのか? なんか嘘っぽい。他の二人も尾上さんと一緒のようだ。石田さんは深い息を吐き、次へと切り換える。
「では次ですが、これから世界にダンジョンができ、魔物が出てくる。それを伝えるための神職である、と神に言われた。これにお間違いは」
「間違いないですよ、こんなことしてる時間はないでしょう」
声を上げる尾上さんに、浜西さんは同意して頷いている。
「だから確認してるんです、そのダンジョンができるのはいつと?」
「それは近々としか言われていない」
「正確な日付はわからないのですよね? 神は他にはなんと?」
「だ、ダンジョンで得た力はこれから神職としてのものだと」
「ではその力について皆様に確認させて頂きたい。正確なレベルと何ができるのかを」
どこか苛立った風な石田さん、初めて見ましたよ。
尾上さんは声を荒げて、なんでそんなことを。とか言って正確なことを言う気はないみたいだし、今のうちにあたしの仕事をしておこう。ついでに指輪も鑑定しときますか。
『尾上さんが3、水野さんが4、浜西さんが5、思った以上に低い』
『なんや、10がおらんやん』
『新しいテストダンジョン弱いんかも? あと指輪がレプリカってなってるねん。一応神の作った物で間違いないけど、ほぼ力ない』
『は? どうゆうことや?』
『せいぜい職業選択できるけど、全て選べるわけじゃないっぽい』
お兄ちゃん顔に出てるよ。念話の意味ないよ。まあ向こうが熱くなってるから気づかれてないけど。
それでもレプリカの指輪も気になるが、それよりもレベルのほうがあたしは気になる。
確かにレベルがあるからテストダンジョン経験者なんだろうけど、それにしてはレベルが低い。宵闇は確かレベル5でクリアできると言っていた。それにしたって尾上さんは3だ。失礼だけど水野君なら若さでどうにかしたのかと思えるが、尾上さんは見た感じそうは思えない。
「てゆうかさ、なんであいつらには聞かないの?」
今まで何も言わなかった水野さんが、あたし達を指差して言ってくる。それに石田さんは眉を歪めた。
「あの方々はもう教えてくれてます」
「なら、俺らにも教えてくれていいじゃん」
石田さんが確認でお兄ちゃんを見れば、頷くお兄ちゃん。
「あの方々はみな5です、これで満足ですか? なら正確なレベルを教えてください」
「へー、あんなおっさんたちが? 俺は10だって言ってるだろ」
石田さんがばれないようにあたしを見るから、小さく首を振っておく。あー、その顔、笑ってるけど怒ってますよね。
「レベルはもういいです。それで神職とは何ができるのですか?」
「だから、勇者みたいなもんだって」
「違うだろ! 人を導いてく存在だ」
おお、ここでも意見が分かれるんですか? まず勇者ってなんだよ。
「勇者とは具体的に? 導くとはどう導くおつもりですか?」
石田さんに聞かれると、どこか口籠る尾上さんと水野さん。たぶん何も考えてはいないのか。
なんだろうな、人って特殊な力を手に入れるとこうなっちゃうのか? いや、あたしなってないんだけど。
そんなことを考えながら、これがいつまで続くんだろうと本気で嫌になってしまった。
「お疲れ様でした」
「いえ、皆様こそお疲れ様でした」
心の底から言えば、逆に労われる始末。とりあえず石田さんの疲れの根源を見た気がした時間でした。
「それで指輪がレプリカとは?」
「ああ鑑定結果、書いときました」
『神が作った指輪:神が制作したが、魔力の弱い者でも使えるよう粗悪な品。職業選択はできるが全ての選択肢はでない』
他にも三人のステータスを書いた紙も渡しておく。
「ついでにあの三人、職業巫女と神官ですけど、たぶんなんもできませんよ? 神託すらなかったし、属性も見えませんでした」
「は? では、なんのための?」
「たぶんただのメッセンジャーじゃないですか? 聞いた感じあたしのテストダンジョンとも違いますし」
「ち、違うとは?」
「魔物の出方もボスも少し違うんです。神職を作るためにたぶん弱めになってるんじゃないかなーって?」
あ、石田さんが固まった。お兄ちゃんも苦笑してないで助けてください。お姉は笑うな、労え。
「魔力使えるようになったら属性出る可能性はあるんですけどね、今のところ魔法も使ってないんでしょうね」
あ、止め刺しちゃったようで、石田さんが項垂れた。これどうしたらいいですかね? 秀嗣さんが石田さんの肩を叩いて慰めてる。
石田さんは失礼しました。と何とか再起動して仕切り直す。
「姫様のおかげで三人のレベルや色々なことが分かり助かりました、有難う御座います。それで指輪なんですが、あのレプリカは写真に写ったんですが、皆様のは写りませんでした」
「神が嫌がったんちゃいます?」
「わたしもそう思ってます。元々姫様は神に目立つことは嫌だとおっしゃっていたようですし」
そんなことまで宵闇は喋ってるのか、事実だけどさ。なんとも言えない顔されてもあたしも何も言えないよ。
「それで、この後なんですが」
「総理と会うんでしたっけ?」
「はい、できればお願いしたいです。国としては会見を開き、ダンジョンのことを発表するつもりです」
「そりゃまた大変なことで」
「はい。それでできればでいいんですが、この中でどなたかでもその場にいてもらうことは可能でしょうか?」
お姉は素直に首を振り、あたしとのり君が苦笑。たぶん目当てのお兄と秀嗣さんは嫌そうな顔をした。
「さっきの三人やったら喜んで行くんちゃいます?」
「たぶんそうなんですけど、それが嫌だから言ってるんですよ。せめて良識と常識を持つ、嘘つかない人じゃなきゃ安心できません」
石田さんの叫びは尤もだ。でもあたし達の答えは「ごめんなさい」で統一されていた。




