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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
一章 閉じ込められたのダンション

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失いと得たものは



 あれからかなり奥へと進んだ。通路は迷路のようで、行き止まりもありややこしい。


 ただ小部屋だけじゃなく行き止まりにも宝箱があったりして、赤と青のポーションが思った以上に手に入ってる。


 本当は鼠と一緒にしたくなかったけど、すでに袋の中入りきらないので諦めてポーチに入れといた。マジックバックだから衛生問題も大丈夫だと信じることにした。


 もう魔石の目標も超えてる、あとは見えてる小部屋を覗いて戻ろう。


 奥に進めば進むほど小部屋は増え、毎回宝箱が出るわけじゃないけど、やっぱり期待してしまう気持ちは変わらない。

 モンスターがいる可能性もあり、あたしは壁につき中を窺う。やった、宝箱がある。



 しかし問題はその前にいる初めて見た動物。動物じゃなくてモンスターか。

 一言で言ってしまえば兎だ、白くて毛がふわふわしてそうな通常より一回り大きく見える兎。


 それだけなら触れ合い広場に居たら人気高そうに見えるけど、この兎、額に角が付いてます。絶対広場には放せません。

 角の長さは十五cmぐらいかな。鼠より体も大きくて見た目のわりに怖い。


 あたしはいったん顔を引っ込め考える。今あたしにある武器は伸びて広がったが優秀なカーディガン、防具も胴体にあるが傷一つない。

 ポーションもしっかりとあるし、(微)ってついてるけど効果は確認できてる。最悪ポーション数本使えば行けるかな?


 なんて楽になった戦闘から軽く考え、小部屋に入ったことを後で後悔することになる。



 小部屋に一歩踏み入れた瞬間、兎があたしに向き頭を下げて臨戦態勢をとる。

 こんなこと今までなかった。鼠もスライムもすぐにあたしに向かってきたのに、兎はあたしの動きを窺ってるように感じる。


 このまま前に進んでも兎の角が危険だ。あたしはカーディガンを前へ広げ持つと、兎の視覚を隠そうとした。なのに兎はそれを嫌がるように横へ飛び、あたしから目を離そうとはしない。


 まん丸尻尾ふりふりとさせながら、角を向け狙いを定めてくる兎。このままじゃ危ないと一歩下がろうとしたとき助走もつけずに飛んできた。


 思っていたより勢いのある兎を、紙一重でなんとか躱し距離を取る。皮鎧に掠めた衝撃があるが無視だ。考える暇なんて兎はくれない。


 右へ左へと跳ねながら距離を縮めてくる兎。あたしにできるのはカーディガンを広げ持つことだけ。なんでこれで勝てると思った自分。



 すでに後ろは壁。小部屋の入り口は右手に見えるが、辿り着く前に兎にやられてしまうだろう。せめてと精一杯の威嚇でカーディガンを前で広げ持つと、兎へ合わせて右へ左へと動かして。


 終わった、と思った瞬間に兎は角を突き出して、真っすぐあたしに飛んできた。恐怖から顔を背け、迫りくる痛みを想像しぎゅっと目を瞑ってしまう。


 なのにやってきたのは、手に伝わる衝撃と次いで重み。広げたままの状態で、両腕が自然と少しだけ下がってしまった。


 恐る恐る目を開けてみれば、カーディガンから突き出した角。それが左右上下に揺れたまにぐっとあたしに向かって押し出されるが、後ろに下がることはない。


 兎って下がることできないの?


 つい戦闘中に首を傾げてしまった。兎は変わらずカーディガンから逃げられないようで、顔を動かしては忙しなく藻掻いている。

 恐る恐る目線を下げれば、カーディガンの下から兎が背伸びするように後ろ脚を伸ばして立っているのが見える。


 もしかしてと、カーディガンをそのままに一歩進む。兎はカーディガンが壁になり、頭から押さえつけられるような形で藻掻く。


 この兎、力は弱い?


 試しにカーディガンで包むように手を動かし、兎の体を両手で押さえてみる。逃げ出そうと藻掻くが思った以上に弱い。後ろ脚が少し強いのかな。


 こうなるとどうしよう。このまま放すわけにもいかないし、決定打にも欠ける。でもずっとこうやってるわけにもいかないしな。


 その時、目についたのは黒いカーディガンから突き出たクリーム色の角。あたしはそれを掴み上げてみた。意外に持ち上げれるものだ。宙に浮くカーディガンの下、兎の下半身が見えてる。

 仕方ない、仕方ないことだ。そう思っても一瞬躊躇ってしまうのは、もふもふとしたお尻のせいか。あたしは振り切るように腕を振って壁に叩き付ける。



 一度では足らず、結局三度叩き付けた。体力より精神力が辛い。なんの苦行これ。


 できるだけ見ないようにしながら、カーディガンを外し兎をポーチに入れ、そのままカーディガンを広げてみれば真ん中に穴がぽっかりと開いてる。兎が角を動かしていたからか歪な穴。それを見てると自然と大きな溜息が出た。


 仕方がなかったとは言え、これじゃあ鼠にも逃げられてしまう。もう使えない。


 ダンジョンに閉じ込められてから本当によく働いてくれた。このカーディガンがなかったら、どうなっていたかわからない。あたしは切ない気持ちになりながら、カーディガンをポーチに入れた。



 まだ出そうになる溜息を止め、皮鎧を確認する。特に傷もなく変わりないことに安心した。体にも違和感がないことを確認し、宝箱へと向かう。


 カーディガンをを代償にしたんだから、いい物が出てほしい。できれば武器とか帰るための道具とか鍵だとか。そんな欲望に忠実なことが浮かぶが、すぐに世の中そんなに甘くない、どうせポーションでしょ。とやさぐれたような感情で宝箱を開ける。


 そこにあったのは三十cmほどの、シンプルな鞘に入った短剣だった。


 それは持ってみても思ったほど重くなく、あたしの手でも握りやすい。鞘から抜けば、切れ味がよさそうな両刃がきらりと光った。


 刃物など包丁ぐらいしか見たことも使ったこともないよ。あたしにこんなもの扱えるのだろうか? でも使うしかない。カーディガンがない今、他の武器だって使えないのは一緒だ。



 個人ルームに戻る途中、何度か試しに短剣を使ってみた。鼠の動きはもう見えるので当てることはできたが、思っていたより切れ味もよく、血が噴き出したことで暫く動けなくなったことぐらいだ。

 スライムは短剣使わずに蹴っておいた、溶けても嫌だし。



「やっと戻ってこれたー」



 玄関を閉めれば少しほっとしてしまう。やっぱりダンジョンとつながったままの部屋より個室が安心する。


 あたしはそのまま魔晶石を起動させ、今のポイントを確認する。倒した分と残っていた分だけで、430ポイントにもなっていて自分でも驚く。


 でもこうなると少し悩んでしまう。魔石は置いとくにしても他の物はどうするべきだろ。牙や皮もいつか使うことがあるんだろうか?


 あたしはポイントもあることだし、考えるのを一先ずやめて兎の確認をする。角兎の角30、角兎の毛皮30、角兎の肉20、角兎って言うらしい。すごいよ角兎。

 何よりびっくりなのがお肉、説明に食用って書いてる!


 え、食用?

 噂のジビエ料理? まず解体って誰がするの?


 そう思っていたら『全て』売るの横に『解体』の文字があった。あたしはそこを押してみると『解体には20ポイントかかります。また売れる素材以外は廃棄されますがよろしいですか?』にはいといいえの文字。


 20ポイントって微妙だな、と思いながらも、はいを押してみる。いつものように白い靄が現れ消えると、目の前にはクリーム色した角と真っ白な毛皮。それと何かの葉に包まれたお肉がそこにあった。


 ポーチに入れてた角兎なのに、目の前に出てくるんだ。変なところで感心してしまった。念のためポーチを確認するが、角兎は消えている。



 とりあえず角と毛皮は部屋の隅に置いておこう。お肉はどうしようかと思いながら、いったんキッチンに置いた。


 せっかくお肉が手に入ったし、そのまま道具を確認。フライパン200ポイントと塩50ポイント、あとはフォーク10ポイントがあれば食べれるかなと購入しキッチンへ置いておく。



 ポイントはかなり減ってしまったが、ここからが本命だ。魔晶石に魔石を押し付ける。説明通りにすっと溶けるように消えて行った。


 どれぐらい必要かわからないから、とりあえず十個入れとく。最初のオブジェの部屋のように薄暗かったのが、これで電気がつく。


 次はコンロの隅にある四角の蓋をあけ、その中に五個。あとは水道にも五個入れて、最後にお風呂に十個魔石を使った。


 試しに蛇口を捻れば、湯気をたてすぐにお湯が出てくる。それだけで幸せになってくるから不思議。

 あたしは浴槽にお湯を貯め始めると部屋に戻り、着たままだった皮鎧やポーチを外しお風呂へと向かった。



 さっぱりした―! 幸せー!!


 途中でお風呂道具もタオルもないことに気付いて、床を濡らしてしまったけど大満足。ポイントも足らなくて鼠を二十匹分売っておいた、後悔は何もない。まだ鼠十匹残ってるし。


 ただここで問題が、服をどうしよう?

 ポイントはお風呂の一式でかなり使って、残り580ポイント。できればあとの鼠は置いときたい。けどあたしも腐っても女だし、誰もいないからと言って、裸族でもないのでこのまま部屋をうろうろするのは気が引ける。


 魔晶石の前で誰もいないからバスタオル姿で悩む。下着が女性用で上下あるのは、有難いから気にしたら駄目なんだろう。あとはタンクトップかTシャツか、どっちもポイントは変わらず100でTシャツは(小)(中)(大)と選べる。


 あたしは少し考えて下着とTシャツ(大)を450ポイントで買う。短パンやズボンもあったけど、ポイントを考え寝るだけならTシャツでいいかと(大)にしといた。


 すぐに着替え、元々着ていた服をお風呂場に持っていく。他に着替えもないし、洗って干しとくつもりだ。


 湯船の横にある小さな洗面台にぬるま湯を貯め、洗剤はないから代わりに石鹸を使おう。

 Tシャツは横が小さく裂けてしまっているので優しく、ぬるま湯が濁るたびに何度も何度も換え、全て洗い終わるのには思ったより時間がかかった。

 あとは軽く絞って、浴槽の淵と洗面台にかけておけば乾いてくれるだろう。



 お風呂を出ると「く〜」とお腹が鳴った。今日はよく働いたしいつもより時間ももう遅い。

 あたしはキッチンに向き、コンロの火が着くのを確認してフライパンを置いた。


 兎とか調理したことない。なので塩をして普通に焼いてみる。すぐにいい匂いがして、お腹が鳴ってしまうが気にしてられない。


 早く食べたいけどモンスターのお肉だし、怖いから両面しっかりと焼いておいた。


 さあ焼き上がり食べようとなってから、お皿のことをすっかり忘れてるのに気づいた。でもお腹も減って我慢できそうもないし、ポイント節約で行儀は悪いけど、今日はフライパンのまま食べてしまおう。


 温かい食事ってだけでテンションが上がる。フォークを突き刺すとじわりと肉汁が溢れてきた。熱そうに湯気を上げるお肉にふうふうと息をかけ一口齧る。


 美味しい、めっちゃ美味しいよう。

 少し硬く感じるけど臭みは感じない。それによく焼いたのにパサつきも感じなかった。普通の鶏肉よりあたしは好きかもしれない。


 久々の温かい食事に一気に食べ終わってしまった。満足感からお腹を撫ぜながら寝転がる。

 できることなら角兎を頻繁に食べれようになりたい。でもその前に冷蔵庫購入したほうがいいのかな? あ、それより先に防具の充実が先かな。 


 これからのことを考えていると、自然と瞼が下がり眠くなっていく。  



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