久しぶり
あれからもあの巫女の女性はネット上を騒がしているらしい。中には信者と呼ばれている人たちもいるようで、言い争いなども起こっているようだ。
その関係で忙しいのか、最近石田さんの姿を見ていない。助けられることもないので今は気にしないようにしているけど。
そして今あたしは地上の居間で秀嗣さんと座ってる。たっちゃんたちを待つために地上に上がろうとしたら、顔合わせはしておきたいと言われ一緒に上がってきた。
チャイムが鳴ってあたしは立ち上がる。一緒に立ち上がろうとした秀嗣さんに座っていてもらい玄関に。
「姉さーん、お久しぶりです。元気ですか?」
「久しぶりやな、摩耶が元気なことはよくわかったわ。二人も元気そうで何よりやわ」
嬉しいと全体で表現してくる摩耶を抑えながら後ろに目をやれば、笑顔のたっちゃんと緊張気味の健也君が立っている。
今日も色々持ってきてくれたのか、二人の手には片手に二個づつの大きな袋。
立ち話もなんだと中に招き入れれば、たっちゃんは変な顔をした。
「なあ、向かいにがたいのいい人が何人も出たり入ったりしてたけど?」
「あー、あそこ丁度空き家やったから、国がお買い上げして隊員さんなんかがおるらしい。ダンジョン前にもおるし」
あたしの言葉にいい顔で止まるたっちゃん。摩耶は気にした様子もなくたっちゃんたちが持っている袋を渡してくる。
そのまま居間に行けば秀嗣さんが立ち上がった。動きが止まるたっちゃんと健也君は兄弟だなと思ってしまった。
「改めまして、姫巫女様の守り手になりました加賀美秀嗣です」
礼儀正しく頭を下げる秀嗣さん。その言葉に三人の顔が一斉にあたしに向く。そのまんまだから他に言い様もない。
「聞いたまんま、主神が気に入ってそうなった」
「おま、え? 気に入ってって」
慌てるたっちゃんを押しのけて、摩耶が顔を近づけてくるから驚いて身を引いてしまう。
「お付き合いしてるとか、結婚したとかではないんですね!?」
「う、うん、ちゃうよ。色々あって主神の無茶ぶりに対応したら気に入られた、ある意味可哀そうな人」
その答えになんでほっとされるのかはわからないけど、摩耶は秀嗣さんに向き挨拶をしている。
「おまえの嫁さんの質問、どういうこと?」
「あれはお前のファンやからな。拓ちゃんは?」
「下で待ってる。荷物置いて準備できたら呼べやって」
挨拶を終わらせてお母さんの部屋に行くと、またたっちゃんたち立ち止まった。押し入れの観音扉の前に立つ二人の隊員さん。
目で聞いてくるけど見たままとしか言い様がないから、あたしはその隊員さんにお疲れ様ですと言いながら先に行く。
恐る恐る頭を下げてついてくるたっちゃんを笑えば小突かれた。
「先、言っとけや」
「えー、摩耶は平気やん」
気安いやり取りにどこか嬉しく感じながら神社前に行けば、戸上さんや他の隊員さんと話す胡堂がいた。胡堂は下りてきたあたし達にすぐ気づいてやってくる。
「おー、元気そうやな」
「拓ちゃんもなー、てか普通に喋ってるんやな」
「拓さんも、お久しぶりです」
健也君は少し頭を下げて挨拶をする。
「そりゃここおったらな、お前らって三階ボス倒したよな? 今のレベルなんぼ?」
「うん、前に倒せてるで? 俺と摩耶は7で健也が4やな」
「魔法は?」
「あたしが火と水使えます、達也は土やけど攻撃としては使えんぐらいで、健也君はまだわかりません」
「なら今日は隊員たちと一緒にダンジョン行ってくれん?」
やっぱり驚いた顔はそっくりな兄弟。摩耶は肝が据わっているのか驚いた様子もなく不思議そうにしている。
「いいですけど、なんでですか?」
「民間人がダンジョンでどこまでできるか知りたいねんて、やからよかったら撮影なんかもさせてほしいって」
「それってどっかで放送されるとか、使われるってことないですか?」
「気になるんやったら戸上さんと一緒におる人らに聞いて」
胡堂は後ろにいた三人を見れば、こちらの目線に気付いたのか頭を下げてくれた。摩耶は臆することなく三人に近寄っていく。たっちゃんは胡堂に何か言ってるし、あたしは摩耶について行くか。
挨拶を交わすとすぐに摩耶は話を切り込んだ。
「胡堂さんから聞いたんですが、撮影って何を撮りたいんでしょうか?」
「できれば戦い方や魔法の使用についてです」
「それはどこかで使われたり、あたし達の素性が知られることは?」
「隊内部や上層部に見てもらうことはあっても外部に出ることはありません。ですのでそのようなことにはなりません」
「姫様の友達を利用するのは怖いから、そんな不安にならなくても大丈夫っすよ」
あたしに対してかなり気安くなってきた戸上さん。とりあえず姫様呼びには睨むけど、三人の扱いはそう悪くならないみたいで安心した。




