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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
一章 閉じ込められたのダンション

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期待の後の落胆ほど辛いものはない



 んー、と悩みながらも、あたしの心はほぼ決まってる。まだお昼だし、午後も頑張ればいい。


 慢心する気もないけど食材なら安かったし、料理は嫌いじゃないので、ミニでもキッチンがあれば自分で料理ができる。


 本当は防具か武器を買うつもりだったが、潔く個人ルームを購入する。遅いか早いかの違いなら早いほうがいいし。


 どこにできるんだろうと周りを見れば、音もなくスッと壁に浮き上がった、どこかのアパートの扉みたいに見える物。

 あたしは急ぐ気持ちを抑え、荷物を全て持つと扉に向かう。ドアノブを握ると小さな音がして、そのまま引くことで扉が開いた。



 小さな玄関を上がるとすぐ右手にミニキッチン、その向かいには扉があり、ユニットバスになってる。

 奥を見ればフローリングの六畳間、家具も何もないから広く見え、ごろりとそこに寝転がった。


 オブジェの部屋は仕切りもなく広すぎて、こっちのほうが落ち着いてしまう小市民だ。

 このままお昼寝してしまいたい気持ちになるが、そうもいかない。あたしは勢いをつけ立ち上がるとお風呂へ向かう。


 狭い室内にトイレとシャワーと小さな浴槽、それでも気分が上がらないわけがない。

 どうせなら狭くてもお湯に浸かりたい。自然と鼻歌歌いながらお湯を出そうと蛇口を捻る。が、お湯が出ない。



「なんで? どうして?」



 どれだけ確認してもお湯は出ない。急いでキッチンに行きこっちでも蛇口をあけるけど、やっぱり出ない。


 期待させといて叩き落すとか、ありえない。キッチンで膝から崩れ落ち手をついた。


 こんな漫画的落ち込み方、人生でするなんて思ってもなかった。もっと言えば、ダンジョンの中でこんな理由で落ち込むのも想像すらしてなかった。


 怪我や戦う覚悟はあっても、お風呂を目の前にして入れないだなんて。どうやって立ち直ればいいのかわからない。

 あー、嫌だ。どうしよう。自分でも驚くくらいに落ち込んで、泣きそうだ。



 扉側を向き脱力してその場に座り込む。やりきれない気持ちを「あー」と声に乗せ、上を向こうとしたそのとき、扉の横の点灯に気付く。


 壁に埋まったようについてる赤い半球。オブジェの半球と同じに見えるが、大きさが半分ほどで点滅してる。

 あたしは力なく立ち上がると、誘われるようにそれに触れた。



 いつものようにステータス画面が開くと思っていたのに、それは違った。

 『個人ルームの使い方』と出てきた表示の下に、いくつかの項目が並ぶ。ざっと流すように項目を見れば、その中に『お風呂の』の表示。


 あたしは急いでそこを押す。諦めたものが手に入るかも、と望みをかけて読み込めば、顔がどんどんと曇っていってる気がする。

 早い速度でそこを読み切り、今度は上から他の項目も読んでいく。



 読み終わり、深いため息が出た。


 とりあえず今すぐはお風呂に入れない。けど入れることがわかっただけでもよかったのかな?


 そりゃダンジョンに水道もガスも電気も通ってないもんね。何らかの資源が必要なんだよね。


 でも、もっと早くに魔石が必要だって言っといてほしかった!



 説明を読んでわかったのは、この部屋では水道ガス電気すべて魔石で賄われること。部屋の扉は外からはあたしだけしか開けれず、中からは誰でも開けれるらしいこと。


 購入の道具欄に家具が増やされたらしいこと。施設の項目から部屋を拡張できること。無駄にカメラ付きインターホンが付いていること。


 この紅い半球は魔晶石と言うらしく、部屋の魔晶石を使って売買やステータス画面を確認できること。


 あたし一人しかいないのに、無駄なことが多すぎる!

 インターホンなんて誰が使うの? 誰が訪ねてくるの?


 今日はテンションの上り下がりが激しくて辛い。だからってお風呂を諦めるわけにはいかないけど。

 こうなればさっさとダンジョンに行こう。飽きた干し肉を購入し、いつもより早く昼食を終える。


 準備は最初から終わっている。忘れ物するほど物もない。

 お風呂というご褒美があるんだ、午後の目標は今まで最多の三十匹と頭を切り替えればやる気は出てきた。


 だからって勢いに任せて怪我をするのも馬鹿らしいから、玄関で深呼吸を数回して落ち着かせた。


 扉を開けるとき、後ろを振り返って「行ってきます」と言う。またここに戻ってこれるように願いを込めて。





 何度目かの戦闘を終えると頭の中で鐘が鳴った。レベル上がったみたいだ。

 ここまで順調で怪我もなく進んでる。ただ気になるのはそろそろカーディガンが危なそうなこと。今、使えなくなっても武器はないし、買うのも魔石を売れないこと考えると結構きつい。


 ぎりぎりまだ使えそうだし、このまま進んでみようか。レベルも上がったから大丈夫だと思いたい。


 そう思っていると小部屋が目に入った。中を窺うと珍しいことにモンスターがいる、しかも鼠二匹。その奥には宝箱まで見える。



 鼠二匹ならやるしかない。まだあたしに気付いていないことを確認すると走って小部屋に入り、カーディガンを広げた。


 驚いたのは自分の体の軽さと速さだ。いつもより体が軽く感じ、思った以上の速さで鼠までたどり着いてしまう。


 いつもなら飛び上がった鼠をカーディガンで捕まえるのに、すでに鼠の目の前まで来てしまった。どうする、なんて考える暇もない。


 あたしは走った勢いそのままで、鼠を蹴った。


 思っていたより大きな音を立て、鼠が壁に当たった気がする。あたしはそれを確認する暇なく、すぐに二匹目の鼠に向かいカーディガンを広げた。鼠は丁度飛び上がったところで、そのまま包み捕まえることができた。


 いつもと違い片手でも押さえていられるカーディガン。中で藻掻く鼠を気にしながら、あたしは一匹目の鼠が飛んで行った方向を見る。


 すぐ見つけることはできた。けどいつもと違いすでに壁の下でぐったりと横たわったまま動かない。

 だったら先に、とカーディガンを地面に叩き付け終わらせ、あたしは横たわった鼠に近づいた。


 死んでる? 一撃で?


 つい首を傾げてしまった。だって鼠って簡単に死ななかったんだよ? これまでの苦労を浮かべながら、ポーチに鼠を入れていく。


 レベルが上がったおかげとしか思えないけど、一日目と違いすぎる。


 さっきの鼠の走りを見ていたら、簡単に躱せそうだし捕まえられそうに見えた。

 自分の腕や体をまじまじと見るが、特にどこか変化しているようには見えない。筋肉にしたって大きく変化するほどついたとは思えない。


 レベルアップ、マジすごい。


 それしか言いようがないんだから仕方ない。ダンジョンには不思議がいっぱいだからね。だったらお風呂に魔石がいるシステムも不思議で片付けといて欲しかったけど。


 気持ち切り替えて宝箱だ。前にモンスターがいたのなんて初めてだし、どうしても期待が大きくなる。

 わくわくしながら宝箱を開ける。そこにあったのは見知った物と、色違いの物が一本ずつあった。


 ひとつはわかる、あたしも持ってるポーションだ。もう一つが問題で、それは全く同じ形で中に液体が見えることも一緒。ただ違うのは、その色が青いことだ。


 頭を捻るがわからない。でも宝箱に入っていたんだからきっといい物だと思おう。

 あたしはその二つを袋へ入れ、先に進むため小部屋を出た。




 レベルアップ、マジすごい。


 俺Tueeなんてする気なかったのに、そんな気になってきそうでちょっと怖い。気を付けてるのに高揚感で気分が上がりそう。

 鼠二匹がカーディガン使わずに、簡単に倒せてしまう。三匹出たときは最初焦ったけど、やってみれば余裕で倒せた。


 これなら今日の目標を簡単に越せるかな。鼠の率が多くなってるし武器も買えちゃう?


「あー、駄目だ駄目だ。油断大敵、安全第一、命大事に。これ重要」


 頭を振り小さく呟く。油断して怪我するのも死ぬのも絶対に嫌だ。

 最終目標は帰ることで、ここで生活することじゃない。


 ポッケの上から父の懐中時計に触れた。ダンジョンに来てから癖になったようで、無意識に触ってしまうこともある。

 あたしは「よし」と気合を入れ直し先へ進む、今日の目標まであと少しだし頑張ろう。 



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