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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
一章 閉じ込められたのダンション
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始まりは突然に

初投稿、よろしくお願いします。




 父の介護で母が腰を痛めたのと、派遣社員の契約更新の時期が重なったのを機に、実家住まいのあたしは仕事を辞めた。

 復帰するときは言ってね、と優しい笑顔を見せてくれた社員の沢村さんには感謝したものだ。


 その後すぐ父が入院し、半年と経たずに亡くなった。


 その感傷に浸る暇もなく、抜け殻のようになった母の介護が始まった。



 仕事を辞めてからは、自分のことなど考える余裕もない、怒涛の日々を過ごすばかり。


 人間、亡くなって終わりではなく、葬儀の手配から役所まで。銀行なんかも終わらせなきゃ、なんて考える自分を薄情に思いながら母の介護。


 父の一周忌も終わり、ようやく少し生活が落ち着いた、と自分の身の振り方を考えようかと思っていたら、今度は母が亡くなった。


 まだ働いていた父の時とは違い、こじんまりと家族葬をしながら〝そんなに仲良かったっけ?〟なんて微妙なことを考えてしまう自分に呆れた。


 たぶん寝れていないのが原因だよね。三人兄妹の末っ子のはずなのに、って何度も思ったから。




 そして四十九日も終わり、終わってない父の遺品と母の遺品も整理しなければと、母の部屋の押し入れから衣装ケースだとかよくわからない箱だとか、埃被った紙袋なんかも全て引っ張り出し、ついでとばかりに押し入れの中も拭き、邪魔だからと観音開きの扉を閉めた。


 出した衣類だとか要る物と要らない物を思い出に浸らないように分けてると、気が付けば日は傾き夕方前。

 思ってた以上に集中してしまっていた。


 点けっぱなしだったテレビからは、いつの間にか夕方のニュースが始まっていて、最近また増えた異常気象と最近の行方不明者情報が流れてきてる。


 自分の周りを見渡せば、要るのか要らないのか判断つかない物たちで溢れかえっていた。


 このままでも仕方ないと、それらを押し入れに戻そうと重い体を動かして、普段と変わらない紙でできた観音扉を両手で開けて見渡した後、すぐに閉めた。


「疲れてんのかな」


 首をひねり、指で目頭を押さえる。

 あたしももう34歳だ、父は63で母は62で他界した。

 この一年以上、寝る間も少ないこと多々あった。


「今日は早く寝るかな」


 さっさとこの並んでる荷物を片付けて、今日は久々に湯船に浸かろう。

 あ、お気に入りの入浴剤あったよね。そうだそうだ、そうしよう。


 そんなことを考えながら、あたしは再度扉を開けるのです。



 一言で言うと、洞窟でした。



 扉に手をかけたまま押し入れ? 洞窟? を見渡す。押し入れの木枠はそのままで、その先が土でできた穴倉。

 日がまだあるおかげで見える入り口の先は、坂のように下って見える。


 あたしは扉を開けたまま一歩下がり、下から上へ視線をゆっくりと上げていく。


 下段には普通の押し入れ。襖タイプの横開きの押し入れ。長年、見てきたけど変わったところがあるようには見えない。


 一つ頷いて上段。


 なんだこれ? 穴倉? 洞窟? でいいのかな?

 え? てか荷物どうすればいいの? 収納可能?


 あたしは再度近づいて、今度は洞窟の壁に触れてみる。ざらりとした土の感触、なのに手についたりはしない。


 あたしは木枠に手をつくと、上半身を中に入れるように覗き込んだ。

 緩やかな坂になっていて、奥を見ようと目を凝らすけど暗闇が続き上手く見えない。


「しゃーない」


 あたしは独り言ちて玄関に向かうとスニーカーを持ち、父の物だった懐中時計をジーパンのポッケヘ。それから首からかけれる小さいライトをつけて再度、押し入れへ向かう。



 いや、介護とかいろんなことで本当に疲れてたんだよ。頭が働いてなかったんだよ。現実逃避みたいなものだよ。


 この日の行動をどれだけ後悔しても仕方ないけど、本当にただただ疲れていたんです。




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