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021.研修4日目 代行トレーニング その3

 詩織が運転する車は駐車場から道路に出たばかりだが、この時点で優衣は『もう勘弁』状態だった。

 優衣は詩織に勝るとも劣らぬくらいワイルドな運転をするのだが、他の人が同じような運転をして、それに同乗するのは乗り物酔いをするくらい全然ダメダメであった。

「スゴーい! 街並みもアメリカ映画のセットみたい。詩織の運転もワイルド・スピードみたい。詩織はアクション系なら何でもOKね!」

 助手席の亜香里はノリノリである。

「運転は車好きの従兄弟の影響かな? 一時期、従兄弟に付き合って茂原のサーキットにはよく通ったから… ねえ、ゾンビが出てきたよ。どうする?」

 ゾンビが大の苦手な詩織だが、クルマを運転していればとりあえずは大丈夫のようだ。

 警察署裏手の地下ガレージ出入口から道路に出て、角を回り込んでメインストリートに出る手前のところに、数体のゾンビが道を塞いだ形で立っていた。

「ゾンビを轢いても、殺人罪にはならないよね?」

 詩織は車のスピードをやや落としながら亜香里に聞いてみる。

「ゾンビって、もう死んだ人でしょう? 誰かの所有物ではないから器物損壊罪には当たらないし、近い法律は死体損壊罪だと思うけど刑法講義でこの法律は公衆や死者に対する敬虔感情を保護法益とするものだと習ったから、おそらくゾンビは対象外です」

 就活対策でセッセとA評価を取り、内申の成績は優秀な亜香里である。

 亜香里が説明をしている途中で、詩織が運転する Ford Crown Victoria Police Car はヘッドライト近くのバンパーでゾンビを2~3体、弾き飛ばしながらメインストリートへ出て来た。

 左側のヘッドライトが割れ、まわりのバンパーが少しへこんだが走るのに問題はなさそう。

「詩織さん、なるべくゾンビは避けて走ってくださいよぉ。チョットグロいです」

 優衣が座る後部座席左側の窓には、ゾンビの血と肉片がベットリと付いている。

 作り物にしてもかなりリアルである。

「ここから先はゾンビがあまり集まっていないと思うから、たぶん避けられると思う」

 と言っていると、車の音に気がついたゾンビがワラワラと車道に出て近づいて来る。ガランとした交差点を大回りに曲がり、ゾンビの群れを振り切ってメインストリートを北上する。

 ガードレールにぶつかったままの車や、横倒しになった車を避けながら、詩織は街中を時速60マイルのスピードで運転する。

 バスとトラックが横倒しになり通行止めのところは、歩道に乗り上げて駆け抜けて行く。

「危ない、危ない、消火栓を飛ばすところだった」

 ワイルド・スピードな詩織である。

 亜香里は何かを考える顔をしながら外を見て「アッ!」と声をあげる。

「思い出した! そこを道なりに左に行くと時計塔と病院があって、時計塔の鐘を鳴らすと病院のヘリポートにお迎えが来るのよ」

「亜香里、いつのバイオハザードのゲームか映画なのか知らないけど、やっと車でゾンビから逃げてきたのに、また車を降りて建物に入るのは危険じゃない?」

「うーん、確かにそうだけど、このトレーニングのミッションを終わらせないと、元に戻れないのでしょう?」

「詩織さん、亜香里さん、前の方に救急車が走ってます。ゾンビはクルマの運転が出来ないはずですから、人間だと思います」

「そうかも知れない、追い掛けてみよう。もしもアンブレラ社だったらヤバイから、亜香里と優衣は銃で打てるように準備をしておいて」

 二人に指示をして思いっきりアクセルを踏み込む詩織の顔は微笑んでいた。

 助手席の亜香里に影響されたのか、頭の中がハリウッド映画の設定になっているようだ。

 救急車の左後方へ一気に追いつき、助手席の亜香里がM16の銃口を窓から出しながら、救急車を見てみると運転席には英人、助手席には悠人が座っている。

「ストップ! ストーップ! 撃つなぁ!」

 英人は運転席の窓から叫びながら、急ブレーキをかけて救急車を停める。

 詩織は追い越し加速をしていたため、急停車出来ず面倒になり「ヨイショッ!」と言いながらサイドブレーキを引きスピンターンをして、救急車の停止位置まで戻ってきた。

「詩織さん、急にスピンターンをするとかビックリですよ。心臓に良くないので前もって言ってください」

 優衣も日本以外では同じ事をするのに文句を言う。

「悪い悪い、時間の節約です」

 周りに注意しながら5人はそれぞれの車から降りてきた。

「更衣室を出てからここまで、3人も同じようなトレーニングをこなしてきたのでしょう? 怪我が無さそうで良かったです」

 悠人は亜香里たちを気づかう。

「おかげさまで。怪我というほどでもないけど優衣が洞窟でスッコロンだくらいかな? 2人はどうでしたか?」

 亜香里があっさりと返事を返す。

「ラクーンシティーに来るまでは順調でしたが、この街に来てからは最悪ですよ。なんとか救急車を見つけて逃げて来られたけど、それまではゾンビに追いかけられっぱなしです。英人は素手で戦ったりしたけど」

「このウエアはすごくて、グローブとブーツは、殴ったり、蹴ったりする時、表面が硬くなるし、ジャンプスーツはゾンビに噛まれても、その瞬間に表面が硬くなるからゾンビの歯が立たないんですよ。ヘルメットは薄いのに頭を打っても痛くないし、この薄さでどういう構造なのか気になるなぁ。持って帰って調べたいけど『組織』が許してくれないだろうなぁ」

 英人は『組織』謹製支給グッズに興味津々である。

「武器とか、無かったの?」

「病院には、メスとハサミぐらいしかありませんでした。藤沢さんたちはパトカーに乗って来るぐらいだから武器は装備していますよね?」

「警察署に逃げ込んだから中にあった武器を適当に持ってきました。亜香里は手慣れた手榴弾より、もっと凄いものを持ち歩いています」

 詩織が説明する。

 パトカーの中を覗く悠人と英人。

「かなり硝煙の匂いがしますが、これで戦ってきたの?」

 英人がまさかという顔で聞いてみる。

「習うより慣れろでM16はかなり撃ちました。ロケットランチャーは未だ出番がありませんが」

 亜香里は英人の質問に『シラッ』と答える。

(『組織』のトレーニングとはいえ、この人たちは大丈夫なのか?)と思う英人と悠人である。

 気を取り直して悠人が聞く。

「一応、ゾンビから逃れたわけだけど、ここから脱出するための何か良い考えはありませんか?」

 詩織が、先ほど車の中で亜香里から聞いたゲームの攻略法を説明する。

「時計塔の中はどうなっているのかわからないけど、病院の中はゾンビだらけです」

 英人が『もう懲り懲り』という表情で説明する。

「では、原点にもどりますか」

 亜香里が一人、知っている風な顔で語る。

「原点ってどこよ?」

 詩織が少し『イラッ』として聞く。

「 “Resident Evil“ がスタートした研究所つきの洋館です。最初にミラ・ジョヴォヴィッチが裸で現れるところ」

 自慢げに話す亜香里だが、ゲームと映画の内容が既にごちゃ混ぜになっている。

「小林さん、そこはラクーン・シティーから山に入ったところで、少し市内から離れていませんか?」

 英人は昔見た映画の記憶を頼りに質問する。

「少し離れているかもだけど、このパトカーはガソリンが満タンなのでなんとかなると思います。詩織の運転は上手いし」

「ではそう言うことで。ここにいても仕方がないから、その洋館とやらを目指しますか? 5人でパトカーに乗るのは窮屈だけど」

 亜香里から運転をほめられて詩織はまんざらでもないようだ。

「一台だと不安だから、救急車でついて行きますよ。途中でガソリンが無くなったらパトカーに乗せてもらいます」

 悠人はここに来ても慎重である。

 5人はパトカーと救急車に乗り込み、パトカーの助手席に乗る亜香里の合図で、右手に見える山に向けて出発した。

「亜香里、道はコッチで合っているの?」

 曲がりくねった山道が続き標識もない。

 詩織は運転自体を楽しいと思ってはいるのだが、ナビもないので運転の配分が分からない。

「市内から北に十数マイルだったと思うから、そろそろじゃないのかな? 救急車も付いてきているから大丈夫でしょう。加藤さんはこのゲームのことを少し知っていそうだし。アッ! あそこ! バイオハザードの洋館じゃない!」

 亜香里が指し示す方向に、人類を滅亡させた(ゲームと映画の中で)アンブレラ社会長の邸宅、実は秘密研究所という施設が姿を現した。

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