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198.検査とインタビュー その1

「三人ともお疲れさま! さあ、検査の時間ですよ!」

 頭の上から響いてきた元気な声で、詩織が目を覚ますと、リクライニングにした座席で眠っている三人を見下ろす桜井由貴が立っている。


「桜井先輩、どうしてここにいるのですか?」

「朝早く『組織』から『三人を医務室へ連れて行くように』と連絡が入ったの。篠原さんは大丈夫?」

 会社では新入社員、篠原優衣のシスター『組織』では能力者と能力者補の関係にある由貴は、眠ったままの優衣を見て心配そうな顔をしている。

「こっちにも、目を覚さない能力者補がいますけど?」

 詩織は座席から立ち上がり、熟睡している亜香里を指差す。


「小林さんでしょう? 彼女はそれが普通の状態だと本居里穂から聞いています」

 由貴は当たり前のように詩織に答える。

「先輩たちの間でも、亜香里の眠りっぷりは有名なのですか?」

「あなたの上司、香取早苗も一緒に三人で話をして盛り上がりましたよ。午後の小林さんの様子を本居里穂が面白く説明してくれたから。ある時なんかは、小林さんは机に魔法陣みたいな紙を置いて眠らない呪文を自分に掛けようとしていたんだって?」

「その話は初耳です。私たち同期にもそのことは話していません。やった後、恥ずかしかったのかな?」

「ただ、小林さんの酷い眠気は能力の急な発現によるものかも知れないから要注意かも、って誰か言っていました。ところで篠原さんはどんな具合なの?」


 詩織は桜井由貴に、巨大宇宙船で起こったことを手短に伝えた。

「また篠原さんが、突然大きな能力を使ったのね。九州で使った能力のような影響は無さそうだけど、本人に過負荷が掛かったことは間違いないから、直ぐに診療室へ運びましょう。ストレッチャーをエアクラフトに横付けしているから、そこまで運ぶのを手伝ってくれる?」

 桜井由貴と詩織は眠ったままの優衣を座席から担架に乗せ、エアクラフトから運び出しストレッチャーへ乗せ替えて、由貴はストレッチャーを押してエレベーターホールへ向かいながら、詩織に亜香里を連れて2階の診療室へ来るように依頼した。


 詩織が新エアクラフトへ戻ると、亜香里はリクライニングした座席でまだ熟睡している。

「亜香里! 起きなさい! ご飯が無くなるよ!」

「んーっ、よく寝たぁ。 食事? 朝ご飯なの? あれ? そうか、エアクラフトで東京に戻ってきたのね。えっとー、優衣が居ないけどどうしたの?」

「桜井先輩が先に診療室へ連れて行ったよ」

「この駐機場って寮のだよね? 何で桜井先輩がいるの?」

 亜香里の話すことがハテナ?だらけなので、詩織はエアクラフトが駐機場に着いてからのことを説明する。


「なるほど、分かりました。じゃあ、私たちも医務室へ行けば検査と食事が待っているのね? 行きましょう」

 ビージェイ担当から診療室に食事を用意していると説明があったことを思い出し、勢いよく新エアクラフトを出てエレベーターホールへ向かう亜香里とそれを追う詩織。

「それで、優衣はどうなの?」

「桜井先輩には『組織』から連絡があったみたいだけど、どうなんだろう? 優衣のことを心配していたけど、検査をしてからでないと様子は分からないみたい」

 二人がエレベーターで2階に着くとホールのディスプレイに表示があり、亜香里は第2、詩織は第3医務室が割り当てられていた。

「前にここへ来た時、部屋がいっぱいあるなとは思っていたけど、医務室がいくつもあるのね。今日は医務室の表示があるよ」

 ホールから廊下を見ると第2、第3診療室の入口にディスプレイが表示されている。

 亜香里と詩織はそれぞれの医務室へ向かう。

「部屋に入って診察台で横になったら、壁からマシーンが出てきて、またいろいろ調べるのでしょう?」

「亜香里は入社してから何回もお世話になっている医務室だから、使い方は良く分かってるよね。私はここで診てもらうのは初めてだから、ちょっと緊張する」

「平気、平気。マシーンは痛い事をしないから。たぶん私はまた寝てしまうと思うけど、その前に何か食べないと。お腹すいたー。じゃあ、またあとで」

 亜香里は第2医務室へ入り、詩織は隣の医務室へ入って行った。


「前に入った部屋とは違うけど、中はほとんど同じね」

 亜香里が中に入ると壁際にある診察台と壁に設置されている医療用マシーンがいかにも『スタンバイしています』という感じで全ての機器に電源が入っており、横にあるディスプレイには『金属、プラスチック類を身体から外し、診察台の上で横になって下さい』と表示されている。

 部屋の中央にあるテーブルにはサンドイッチやオニギリ、ジュースやミルクといった軽食が準備されている。

「これだけ? まあ、何もないよりはいいか」

 亜香里はボディスーツを脱ぎながら、サンドイッチやオニギリを頬張り、ミルクで流し込んだ。

「満足感は低いけど仕方ないね。インタビューの時に何か豪華な会食をビージェイ担当にお願いしてみよう。だってローマ教皇を助け出したのだもの」

 亜香里が診察台の上で横になると、壁から複数の医療マシーンが出て検査を始めたが、亜香里本人はすでに眠りについていた。


 桜井由貴にストレッチャーで運ばれてきた優衣は、医務室に入ってからも目を覚さなかったため、由貴は診察台を動かしてその位置にストレッチャーを固定した。

 壁から医療マシーンが次々に出てきて優衣を調べ始め、由貴は横でそれを見守る。

 MRIやCTは画像とともに結果が表示される。

 全身のエコー診断、心電図、脳波検査の結果が次々にディスプレイに表示される。

「身体は異常なしね。他の検査結果は時間が掛かるから待つしかありません。あとは何? 血液検査結果? 小林さんだったら『ミディ=クロリアン値が急上昇してフォースがヤバいです』とか言いそう」

 本居里穂から聞いた小林亜香里のスターウォーズネタを思い出して一人でニヤッとしながら、由貴は部屋にあるテーブル横の椅子に座って、ジュースを飲みながらスマートフォンで『組織』に亜香里たちの様子を報告した。


 詩織は初めて自分が受ける診療室での検査に最初は戸惑ったが、仕組みを理解したあとは、サクッと診察台で横になり検査を受けながら、その内容を観察する。

 ディスプレイに次々と検査結果が表示される。

「こんな検査も全部自動でやってしまうのね。これで手術もロボットで出来れば医者要らずじゃない?」

 表示される検査結果がどれも良好なため余裕の詩織である。

 1時間もかからずに検査は終了し、血液検査や時間のかかる診断結果はあとでスマートフォンへ通知されるとのことであった。

 診療室に備えてある簡易着を羽織り、テーブルにあるジュースを飲んで一息つくと、優衣と亜香里の様子が気になってきた。

 上の階にある自分の部屋へ戻ろうかと思ったが、二人の医務室を覗いてみる事にする。


 隣の亜香里がいる医務室の引戸を開けてみる。

 ちょうど検査が終わるところであったが、亜香里は熟睡中だった。

 中に入り診察結果が表示されているディスプレイをスクロールバックしてみると『異常無し』が続く。

「健康優良児そのものね。アレ? 心電図と脳波計が”NR”だけど… もしかすると亜香里の能力が影響しているのかな?」

 穏やか表情で寝息をたてる亜香里を見ながら、詩織は呟いた。

「起こすのも悪いから、優衣のところへ行ってみるかな。無理に起こすと機嫌が悪いし」

 詩織は第2医務室を出て、優衣が検査を受けていると思われる隣の医務室のドアをソッと開けると、テーブルにいた桜井由貴が手招きをするので、そのまま中に入った。


「藤沢さんは検査が終わったの?(詩織「ええ、異常なしです」)そうですか。篠原さんも今のところ異常なしです。小林さんは?」

「今見てきましたが異常なしです。熟睡していたので、そのままにしておきました。心電図と脳波計が” NR”なのが気になりますけど」

「おそらく彼女の能力の関係で測れないのだと思います。小林さんの能力は特殊だから。普通に計測するとたぶん機械が壊れます。その辺は今後『組織』と相談です。あとは篠原さんの意識がいつ戻るかですね」

 詩織は優衣がストレッチャーのまま横になっている診察台まで行き、寝息に耳を側立てる。

 頷いて優衣の耳に息を吹きかけると、優衣はビクッと動き『ヒヤァ!』と叫んで目を覚ました。

 目の前に詩織の顔がドアップで現れる。

「詩織さん! 何なんですか! ビックリするじゃないですか! 眠りを覚ましてくれるのは王子様でしょう?」

 いきなり起こされて、変なテンションの優衣である。

「あら? 心配して損をしたのかな? すごく元気そうじゃない?」

「アッ! 桜井先輩、おはようございます。えっとー ここは何処ですか?」


 詩織がエアクラフトで東京に戻るところから、診療室で検査を受けたことまでを説明する。

「そうなんですか? それは大変お世話になりました。エアクラフトのディスプレイでビージェイ担当が今週の勤務の取扱いを説明している途中から覚えていなくて、ずっと長い夢を見ていた様な気がします」

「長い夢ですか? まだ内容を覚えていたら忘れないうちにメモを残しておいてください」

「桜井先輩、どうしてですか?」

「篠原さんや私のような精神系の能力者は、ミッションで能力を多く使った後は、頭をちゃんとクールダウンしないとその影響が澱のように溜まってしまい、それが増えると神経に悪い影響を及ぼすそうです。ミッション直後に見る夢によってそれが分かるそうなので、覚えていたら『組織』にメモを送ってください」

「承知しました。詩織さんはもう検査は終わったのですか?」

「取りあえず異常なしみたい。亜香里も異常なしで隣の部屋で寝てるよ」

「三人とも大丈夫そうだから、私は会社に戻りますね。今から行けば午後の始業開始には間に合いそうだから。3人とも今週はユックリしてください」

 桜井由貴は、ニコッとして椅子から立ち上がり医務室を後にした。

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