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196.教皇救出ミッション その6

 ヒソヒソ話で詩織が状況確認をする。

「『教皇より先に旅客機に乗り移る』ということは『最初は能力者補が試してみる』って事よね。ビージェイ担当がCGアニメで説明した内容は『うまく行ったらこうなります』という失敗を全く考慮していない技術者が作った説明資料じゃないの?」

 詩織はビージェイ担当の説明を冷静に分析している。

「萩原さんや加藤さんも製作に関わったのかな? たぶんベテランの技術者が作ったのだと思うけど、説明用のCGアニメ作成くらいは新入社員に任せたのかも? だとしたら、この装置で旅客機に乗り移るのは怖いね『ぶっつけ本番』ということでしょう?」

 亜香里は半分忘れていた、同期二人の技術者の名前を思い出していた。

(そう言えば、最近見てないなぁ。最後にいつ会ったっけ? 思い出した! 巨大スワンボートでクルーズの旅をした時)

「でも『組織』が今回のような事態を想定して、VIPの利用を前提に作った装置であれば、安全性は考えてあるはずよ」

「詩織は割と積極的だけど、もしかしたら旅客機に乗り移ってみたいの?」

「亜香里こそ、やってみたいんじゃない? 亜香里の好きなミッション:インポッシブルに出て来そうなシーンでしょう? 新エアクラフトという謎の宇宙船から旅客機へ、高度1万メートルでの乗り移りとか」

「少し興味はあるけど、もしも落ちたら助からないかなと思って... アッ! 分かった。詩織は落っこちても瞬間移動で何とかなるよね? そっかー、だから詩織は飛行機の乗り移りに積極的なのね」

「一応、それは考えている。でも落っこちたとき、このスピードで飛んでいる旅客機と新エアクラフトに瞬間移動で飛び移れるのかどうかの不安はあるよ。何とかなりそうな気もするけど。まあ、これ以上話をしても先に進まないから、やってみる。もしも落っこちたら、新エアクラフトを推進力全開にして助けに来てね」


 詩織の言葉でヒソヒソ話は終わり、スクリーンのビージェイ担当へ向き直った。

「ビージェイ担当、お待たせしました。亜香里と相談の結果、私が旅客機に乗り移り、教皇を先導します」

「藤沢さん、難しいお願いを引き受けて頂きありがとうございます。万が一に備えて、藤沢さんと教皇にはパラシュートを背負って頂きます。『組織』が開発したので、旅客機への乗り移りに邪魔にはならないと思います。ストレージに入っています。装着して待機してください。しばらくすると新エアクラフトが旅客機に接近します。仮設通路を使うとき、スクリーンと扉のディスプレイに指示が出ますので、それに従ってください。よろしくお願いします」

 スクリーンからビージェイ担当が消え、目的の旅客機の位置が簡易表示された図と、先ほどビージェイ担当から説明のあった旅客機への乗り移りのCGが繰り返し表示されている。

 詩織がストレージの中を確認すると今までミッションで使っていた薄型リュックと同じ形で色違いのものがあり、よく見る『パラシュート』と書かれたテープが貼ってある。

「こんなに薄いリュックに入っているパラシュートで大丈夫なの?」

 詩織が疑心暗鬼でリュックを手に取ってみると、何処にもリュックを開けるところがない。

 肩ベルトに赤い文字で『使用するまで開封禁止、必要な時には自動的に開封されます』と書かれている。

「パラシュートを開くヒモが無いの? 大丈夫なの? ほんとに自動で開くの?」

 日頃は動じない詩織もさすがに不安を抱いていた。

 それを見て亜香里が元気づける。

「いざとなったら、落っこちていく詩織に追いつけるように、エアクラフトをダッシュで急降下させるから大丈夫よ」

「亜香里の操縦で?」

「そう! 私の操縦で」

「それって、ますます不安。そうならないことを願うよ」

 詩織は薄いパラシュートリュックを担ぎ、教皇にも手渡した。


 しばらくすると窓の外に旅客機が見え始める。

 エアクラフトはさらに加速して、旅客機の真上に機体をピッタリと寄せる。

 機内のスクリーンに『移送プログラム開始』の文字が表示され、先ほどビージェイ担当から説明があった内容と同じものがステップ毎に表示され、機外カメラの映像が、エアクラフトから仮設通路が伸びていく様子が映し出される。

「どうなっているの? 巡航しているジェット機と同じ速度で飛んでいて、あんな邪魔なものが機体の横から出てきても何ともないのは、おかしくない?」

「それはですねー、大事な詩織さんがこれから通られる通路なので、神の御加護によって守られているのです」

 個人的には無神教の亜香里が厳かに宣うのを、精神感応で受けとった教皇がニヤリと笑う。

『小林亜香里さん、今度、バチカンで洗礼を受けますか?』

 教皇は亜香里たち3人の心を一通り読んでおり、キリスト教徒ではないことを知っていて提案する。

「バチカン市国で洗礼ですか? いえいえ、小林家は代々仏教徒ですので(小林家がどの宗派なのかも知らないが)遠慮しておきます」

 亜香里と教皇が精神感応でそんなどうでも良いことをやり取りしていると、新エアクラフトと旅客機との間で仮設通路が出来上がった。

 スクリーンにビージェイ担当が現れる。

「藤沢さん、今から両機の扉を開きます。通路はスロープになっていますので、リラックスして身体を真っ直ぐにして滑って下さい。そのまま旅客機に入れると思います。では扉を開きます」

 エアクラフトの扉が開くと説明にあった通り、ツルッとした円筒形の滑り台が出来上がっている。

「じゃあ、行ってくる」

 詩織は扉口に座ってスロープを滑ると、直ぐに旅客機の扉口に辿り着いた。

 詩織は旅客機の扉口に立ち、スロープの上に向かって大声で叫ぶ。

「大丈夫! 問題ないから直ぐに教皇も滑り降りて下さい」

 詩織の声を精神感応で受けとった教皇は、躊躇なく、スロープを滑り降り旅客機の扉口に辿り着いた。

 旅客機の中で教皇を待ち受けていたバチカン市国の関係者が、教皇を中心にして歓喜の渦となった。

 教皇は機内にいる詩織に改めてお礼を言い、詩織が返答する。

「教皇が無事に戻れて良かったです」

 詩織は堂々と日本語で答え、教皇はそれを精神感応で受けとった。

「ところで滑って旅客機へ降りて来るのは上手く行きましたが、私はどうやってエアクラフトへ戻れば良いのでしょうか? 仮設通路はツルツルで登れませんけど」

 しばらくすると、新エアクラフトの扉口にいる亜香里が、仮設通路越しに大声で叫んでいる。

「詩織! 今からロープを下ろすから、それに捕まって! 引き上げるから!」


 ミッションで使用する装備の準備には怠りのない『組織』だが、今回はミスを冒したようだ。

 もしもに備えて、要人の移送まで万全を期して準備をしていたのだが、急遽、能力者補の詩織が一緒に滑り降りることまで想定していなかったようだ。

 詩織が不在の新エアクラフトの中で、亜香里がディスプレイのビージェイ担当に向かって、怒りまくったのは想像に難くない。

「まったくぅ、私たち能力者補の扱いをどう考えているの! VIPが助かれば私たちはどうでも良いのですか?」等々、ビージェイ担当はディスプレイの中で平謝り。

 亜香里とビージェイ担当が話し合った結果、旅客機にいる詩織にロープを投げて、機内にある非常用ウインチで引き上げることにした。

 詩織は垂らされてきたロープの先に輪を作り、自分の身体に回し、両手でしっかりとロープを掴んだ。

「亜香里! OK! 引き上げて!」

「了解!」

 亜香里は電動ウインチのスイッチを入れ、ロープを引き上げ始めると、詩織はツルツルとした仮設通路の中を上り始めた。

 仮設通路の途中、旅客機と新エアクラフトの中間まで詩織が上って来たところで、急に旅客機の扉が閉じられて仮設通路の一端が無くなり、仮設通路はエアクラフトの吹き流し状態になってしまった。

 吹き流し状態になった仮設通路の中で、ロープにぶら下がったままの詩織は、鯉のぼりの中に迷い込んだ燕の状態。

 新エアクラフトの扉口にいた亜香里は、機内から仮説通路を通じて噴出する急な気流に、身体を持っていかれないよう手摺に捕まっているのが精一杯で身動きが取れない。

 機内のスクリーンとディスプレイには真っ赤な『緊急事態』が表示され、警報音が機内に響きわたる。

 新エアクラフトは大きく傾き、あっという間に旅客機から離れて行った。

「どうすればいいの? このまま高度を下げて、海に不時着すれば何とかなるの?」

 亜香里は身動きが取れない状態で対応策を考えてみるが、両手で掴んでいる手摺を離すと新エアクラフトから飛び出してしまうため、何も手足を出せないままであった。

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