194.教皇救出ミッション その4
一足先に教皇を連れてエアクラフトへ戻っていた詩織は、亜香里と優衣が戻って来るのをジリジリとしながら待っていた。
教皇が精神感応で詩織に話しかける。
『篠原さんの精神感応が伝わって来ました。二人は今、危ない状況にいます。私は大丈夫ですから助けに行って下さい』
「そうなのですか?(どうするか少し考えて)エアクラフトのプロテクトをそのままにしておきますので、しばらく機内で待っていて下さい。行ってきます」
詩織は戦闘に備えて能力を使わずに、パーソナルシールドを起動してエアクラフトから駆け足で出て来た。エアクラフトを出る前にストレージからオートマティックブラスターライフルとライトセーバー2本を追加で装備している。
走ってスペースドックから通路に入ると武装したアンドロイド部隊が、亜香里たちの居るホールへの通路に向かっていた。
「亜香里たちはアイツらに足止めをされているのね」
詩織はパーソナルシールドを解除し、ブラスターライフルをアンドロイド部隊に向けて連射し始める。
バタバタと倒れたり、逃げ回ったりするアンドロイド部隊。
散り散りバラバラになり通路脇に隠れ、銃を撃ち返し始めた。
(このまま、ブラスターを撃ち続ければ亜香里たちは何とかなるはず)
そう思いながら詩織はアンドロイド部隊の反撃を避けながら、ブラスターライフルを撃ち続けていると、突然アンドロイドたちの動きが止まった。
(そろそろ降参したのかな?)
と思っていると、通路脇に隠れているアンドロイドを邪魔にするように横にどけて、通路いっぱいの大きさがある物体が詩織の方へゆっくりと向かってくる。
「アッ! これはまずい」
詩織は通路から、急いでスペースドックに走って戻る。
近くにある円盤の陰に隠れると、通路から黒くて大きな見たこともない形のロボットが現れた。
ボディ全体がスペースドックに出て来ると、ボディから手足?がウネウネと出てくる。
「何これ? ちょっとグロくない?」
自他共に気の強さを認める詩織だが、見たこともない異様なロボットに鳥肌が立つ。
ボディ部分は黒光りをした楕円形の物体、そこから伸びて出てくる蜘蛛の足の部分は触手状になっていて、数えられない程の数が伸び、詩織が隠れている円盤まで触手を伸ばして来た。
詩織は慌てて、後ろに飛び下がる。
距離をとってブラスターライフルを連射するが、触手の先が少し千切れるくらいで、何本もの触手がジワジワと近づいて来る。
「やっぱりダメかー、逃げるだけなら何とかなりそうだけど、亜香里たちが戻って来ないから、どうするかな」
詩織は黒い大型触手ロボットとの間合いを取りながら、次の手を考えていた。
優衣たちに迫っていた武装アンドロイドは、スペースドックに繋がる通路側から攻撃して来るブラスターで半分以上が戦闘不能になっていた。
それを見た優衣は、詩織が応戦を始めたのだと思い
「詩織さんが、助けに来ました! 亜香里さん、もう少しですよ」
そう言って、亜香里を励ましていると武装アンドロイドの動きが止まる。
「詩織さんが全部やっつけたのかな?」
優衣が少し安心していると、スペースドックに続く通路の反対側から、通路を塞ぐ大きさの黒いロボットがスペースドックに向かってゆっくり移動して行った。
「エッ! あれは何ですか!? もしかしたらあれは戦闘ロボット?」
そのロボットが大き過ぎて、通路を曲がれないのが優衣と亜香里にとっては幸いであった。
大きな黒いロボットが通路を通り過ぎた後、また武装アンドロイドが優衣たちの方に近づいて来る。
「亜香里さん、エアクラフトへ戻れません。一旦、ホールに戻ります」
優衣は意識がはっきりしない亜香里を背負い、脱力状態の身体を引き摺りながら、亜香里が残骸の塊にした真っ暗なホールへ戻って行った。
スペースドックで大型触手ロボットに追い詰められて、ジリジリと後ろに下がる詩織は、瞬間移動で五十メートル程ある天井から半分の高さの位置にあるデッキに飛び移った。
大型触手ロボットの触手は、デッキまで届こうとしている。
「ここに居ても時間の問題かぁ、あの手はどこまで伸びてくるの?」
ロボット本体はスペースドックの床に鎮座している状態だが、そこから無数に伸びてくる触手でドック全体が覆われる形となっていた。
「逃げ場所がなくなったよ、このままだとエアクラフトも触手に取り込まれてしまうし、どうしよう?」
打つ手無しの詩織であった。
亜香里を背負い真っ暗なホールに入った優衣は、アタッチメントのフードを暗視モードにして、残骸となったロボットやアンドロイドを避けながら先に進む。
後ろから追ってくる武装アンドロイドたちは、前をライトで照らしながらホールに入り、残骸にぶつかりながらもガチャガチャとこちらへ進んでくるのが分かる。
「アンドロイドは暗いところが見えにくいのかな? でもライトで照らされたらすぐに居場所が分かって捕まります」
優衣は残骸に隠れながら先を進んでいくと、やがてホールの壁にたどり着いた。
数メートル上にはデッキがあるが、そこへ登る方法がない。
大きなロボットの残骸の陰に隠れているが、優衣たちの隠れている場所が最初から分かっているかのように、武装アンドロイドが近づいて来る。
アンドロイド部隊は、壁を背にした優衣と意識が虚ろな亜香里をライトで照らし銃口を向けた。
優衣は何とか逃げようとして亜香里を引っ張り、残骸の陰に隠れるとアンドロイドの撃つ弾が、ロボットの残骸に当たり『カンッ! カンッ!』と金属音が響いてくる。
弾の当たる音で亜香里がようやく意識を取り戻しかけた時、アンドロイドが持つ銃口が亜香里に向かい、弾が発射された瞬間、それを見た優衣が大声で叫んだ。
「やめてー!!!」
アンドロイドが撃った弾は、亜香里の手前で止まり、それまで二人に近づいていたアンドロイドたちも停止した。
ようやく意識を取り戻した亜香里が声を発した。
「今、何か叫んだみたいだけど、どうしたの?」
息が絶え絶えになった優衣が、途切れ途切れに答える。
「弾が当たりそうになって… 叫んだら… 止まり… 」
今度は優衣の意識が朦朧としている。
「(どうしたの? 優衣のことだから私を助けようとして、また無理な能力を使ったの?)攻撃が止まったみたいだから、エアクラフトに戻りましょう。詩織が待っているよ」
今度は亜香里が気絶している優衣を担ぎ、全てのものが停止している暗く静かなホールから、通路を通ってスペースドックに向かって歩き始めた。
詩織はスペースドックのデッキで、大型触手ロボットの触手がデッキの手すりを掴んだため、何処へ瞬間移動をするのか考えていたところで、手すりを掴んだ触手の動きが止まった。
「アレ? 電池切れ?」
スペースドックを見渡すと、ドック全体に広がっている触手は、動きを止めていた。
「故障したのかな? 亜香里たちはどうなったのだろう? 助けに行かないと」
フロアへ瞬間移動しようと下の方を覗くと、通路の入口から亜香里が優衣を抱えて飛翔でフワフワと出て来るのが見えてきた。
「亜香里! エアクラフトまで行って! 私も直ぐに戻るから」
「(詩織は何で、あんな所に居るの?)分かった! 戻ります」
広いスペースドックの中でお互いに離れていたが、ドック内が静まり返っていたため、大声を出せば声は届いていた。
瞬間移動で先にエアクラフトへ戻った詩織はプロテクトのロックを解除して入口で待ち、亜香里が優衣を背負ってエアクラフトに辿り着くと直ぐに中に入れ、再びエアクラフト全体をプロテクトした。
機内に入るとスクリーンにビージェイ担当が現れた。
「10分ほど前から、そのエアクラフトが確認できるようになりましたが、またいつ通信が切れるのか分かりません。教皇も含め、みなさんが機内にいることも確認しました。その場所を脱出するプログラムをエアクラフトにセットしました。直ぐに座席についてシートベルトを締めて下さい。それから… 」
スクリーンがノイズだらけになり、音声が途切れてしまった。