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191.教皇救出ミッション その1

「あとはこの旅客機について行くだけです。旅客機飛行機の後ろだとエアクラフトもゆっくりですね。いつもこれくらいの高さと速度だったら、強烈な加速Gを毎回我慢しなくても良いのに」

「でもこのスピードだと、世界中どこでも3時間以内では行けなくて不便です」

「そっかー、それは優衣の言うとおり。やっぱり加速Gがきつくても早いほうが良いよ」

 一旦、便利なものに慣れてしまうと、それまでのものに不便を感じるのはヒトのサガ。能力と寝坊に異常な値を持つ、亜香里も例外ではない。

 今回は旅客機を追いかけているだけなので、高度は1万メートルといつもより低く、新エアクラフトの光学迷彩は稼働中でも機内から外が見られるため、窓から下をのぞくと眼下に青い海が広がっている。

 亜香里たちは久しぶりの空からの景色を、観光気分で楽しんでいた。

「そろそろ日本領空が終わります。ミッション終了です」

「ようやくね。日曜の夜からまる3日間、昼は会社の仕事をしながらだから、長かったよ。いや、それ以上かな? 九州に半日以上いて2度も戦いに巻き込まれたのに、今の世界に戻って来たら5分しか経っていなかったし、長かった… アレッ? レーダーに未確認飛行物体!」

 詩織がレーダー画像を拡大しようとすると、モニターがオールレッドに変わり、機内に警告音が鳴り始めた。


「なになに!? UFOの襲来!?」

 亜香里は本社へ出勤し始めた5月初旬、多摩川で謎の円盤に襲われたことを思い出した。


「こっちを襲ってきては、いないみたい… アッ! まずい! 教皇が乗っている旅客機に向かっている」

 新エアクラフトが、オートバイロットで操縦できないので詩織はヤキモキしている。

 レーダーで見ていると、謎の未確認飛行物体は旅客機と接触するぐらい近づいていた。

「攻撃するのでしょうか?」

「攻撃するのなら、ここまでは近づかないと思う。何がしたいのかな?」

 謎の飛行物体は旅客機にピタリと寄り添うように一緒に飛行したまま、やがて旅客機から離れて反対方向へ向かって行った。

「レーダーで確認する限り、旅客機はそのまま飛んでいるから、宇宙人が様子見に来ただけなのかな?」

「私たちの新エアクラフトが、旅客機から離れ始めていますけど」

「エッ? 本当だ、優衣と同じように見える。いや? 離れているのではなくて、エアクラフトが謎の飛行物体を追いかけ始めている!」

 3人が注意をしながらレーダーを見ていると、亜香里たちが乗っているエアクラフトは、謎の飛行物体の追尾を始めていた。

 詩織が仮想コンソールを呼び出すが、オートバイロットが解除できず、なす術は無い。


 3人はレーダーや窓の外を見ながら、打つ手が無いのでどうしようかと話していると、スクリーンにビージェイ担当が現れた。

「ビージェイ担当! 新エアクラフトのプログラムが暴走しています。直ぐにマニュアルモードに切り替えてください」

 いつもはクールな詩織が、必死な表情で訴える。

「プログラムは正常に動いています。オートパイロットも問題ありません」

「そんなことを言っても、今、エアクラフトは旅客機ではなくて謎の飛行物体を追っていますよ!」

「それで正常です。エアクラフトは旅客機ではなく、教皇を追尾していますから」

 亜香里、詩織、優衣は、お互いに顔を見合わせた。

「「「エェーッ!!!」」」


「ビージェイ担当! ということは、教皇はあの謎の未確認飛行物体に乗っているのですか?」

 亜香里の顔は『マジかー!』の表情。

「はい、ですから小林さんたちに追いかけてもらっている訳です。先ほど入った情報によれば教皇が旅客機から突然消えてしまったそうです。教皇に付けて頂いている発信器を『組織』はずっと追跡しており、みなさんが乗っているエアクラフトも旅客機ではなく、教皇を追いかけています。情報が入った同じ時刻に発信器の位置が旅客機から謎の未確認飛行物体に変わりました」

「それは、謎の未確認飛行物体が、教皇を誘拐したということですか?」

「その飛行物体の中に教皇がいるのかどうかは確認できていませんが、旅客機から消えた発信器の位置が、謎の未確認飛行物体にあるので、未確認飛行物体に教皇が乗っている可能性は高いと考えられます」

「新エアクラフトが未確認飛行物体を追い続けていますが、私たちはどうすれば良いのですか?」

「篠原さんが心配するのも分かります。教皇と一番意思疎通をされていましたから。ここからはお願いになるのですが(亜香里「またお願い? 嫌な予感がする」)そう言わずに聞いてください。今発生している緊急事態は、日本が対処すべきかどうか微妙な防空エリアです。そのために自衛隊がスクランブルを掛けるには近隣諸国との関係から難しいところです。そこで複数の機関から、教皇を追尾している『組織』へ救出要請が来ております」

「その『追尾している『組織』』って、私たちのことですよね?」

「はい、小林さんたちに謎の未確認飛行物体に誘拐されたと思われる教皇を救出していただきたいと思います」

「ビージェイ担当、ちょっと待って下さい」


 スクリーンを背にして亜香里たち3人が顔を寄せる。

「何だか、今度も私たちに選択の余地はなさそうだけど」

 亜香里が仕方なさそうな顔をする。

「謎の未確認飛行物体から救出すると言ってもどうやるの? 亜香里には何か考えがある?」

 詩織の質問に亜香里は肩をすくめるだけ。

「でも、今のところ教皇を助け出せるのは私たちしかいませんから、謎の未確認飛行物体を追いかけてみるしかないと思います」

 優衣は教皇のことを心底心配しているようだ。

「じゃあ、今から円盤を追いかけて捕まえられたら、出来ることをやってみますか? 相手は渋谷で戦ったトライポッドみたいに大きくはないのでしょう?」

 今までエアクラフトの中で、寝ぼけまなこだった亜香里がようやく目を覚まし、勇者モードが発動しそうな勢い。

 詩織と優衣は亜香里の顔を見て『また無茶しなければ良いけど』と思っていた。

 3人はスクリーンの方を向き、亜香里が話し始める。

「分かりました。私たちの出来る範囲で教皇の救出へ向かいます。ただ相手が何者か分かりませんし、こちらを攻撃してくるかもしれません。この新しいエアクラフトが安全に教皇を追いかけられるように、そちらで設定をお願いします」

「分かりました。こちらからシールドを含めて最大限のプロテクトを掛けておきます。それとたった今『組織』から支援のエアクラフトが発進しました。間もなくそちらへ近づくと思います」


「今の追尾モードは、チンタラしていて謎の未確認飛行物体との距離が縮まりません。何とかなりませんか?」

 非常事態になり、詩織は新エアクラフトを操縦したくてウズウズしている。

「藤沢さん、了解です。今、操縦をセミオートマチックモードに変更しました。基本的には追尾モードですが、藤沢さんが操作をすればそれが優先します。よろしいでしょうか? だんだん高度が高くなっていますので、機内に持ち込んでいるアタッチメントを着用して下さい。それを着用すれば万一、宇宙空間へ放り出されてもしばらくは大丈夫です。以上、よろしくお願いします」

 スクリーンからビージェイ担当が消え、レーダーと機外カメラ映像に変わった。新エアクラフトは謎の未確認飛行物体を追い続けている。


「亜香里さんと詩織さんが思った通りでした。あのアタッチメントは宇宙服だったのですね」

「『組織』は私たちが宇宙に行くことまでを想定して『組織』の娯楽室にNASANのトレーニング設備を置いて、私たちを鍛えさせていたのかな?」

「今の事態を想定していれば、そもそも教皇が誘拐されることはないと思うけど」

 詩織が真っ当なことを言う。

「そうなのかなぁ? 私たちがトレーニングをしていたのは偶然なのかなぁ? まあ、考えても仕方ないから宇宙服を着て救出作戦を開始しますか」

 亜香里は事態の展開に疑問を抱きながらも、ボディスーツの上にビージェイ担当がアタッチメントと呼ぶ宇宙服を着込んだ。ボディスーツと同じようにワンピースでフロントに留め具があるので脱着は簡単そうだ。

 詩織と優衣もテキパキとアタッチメントを着用する。

 『組織』の準備室から持ってきたショルダーバッグを開けてみると、アタッチメントの上から取り付ける機器の数々が入っている。

 右腕、左腕、右足、左足、腰のベルト部分といった具合に装備する場所の説明がテプラで貼られており、如何にも急拵え感、アリアリの装備である。

「使い方も分からないのにこんなにたくさん装備をするの? こんなに装備したら動きづらくて、教皇の救助に行けないじゃない?」

 亜香里はバッグに入っている武器を装着しながら文句を言う。

「心配しなくても大丈夫みたい。アタッチメントに装着すると目の前のフードに機能が表示されるし、目で追えば使い方も出てくる。なるほど、この宇宙服にAIが入っていて、いろいろな事をやってくれるみたい。これは便利ね」

 装着が終わり座席に座るとアタッチメントは、新エアクラフトにつながり、仮想スクリーンを呼び出すことなく操縦が可能になっている。

「こんなに便利だったら、最初からこれを着るように言ってくれれば良いのに。機内ではこれを着ている方が快適ね」

 詩織はすっかりアタッチメントが気に入ったようだ。


 優衣も一通り身につけていろいろと試してみると、目の前のフードがスクリーンになることに気がつき、レーダーと外のカメラ映像を映し出してみる。

 新エアクラフトが、追跡している未確認飛行物体に近づいており、相手の機体がうっすらと見え始めた。

「やっぱり、謎の円盤です。中にいるのは宇宙人でしょうか?」

 優衣の声に詩織と亜香里もフードにスクリーンを映し出してみる。

「アッ! これ! 多摩川で襲って来た円盤!」

「亜香里が車ごと持ち上げられて、本居先輩に助けられた時と同じ円盤?」

 詩織は、5月の連休明けに亜香里が『組織』の医務室へ運ばれたことを思い出す。

「そうそう、あの時のと同じだと思うけど、謎の円盤なんてどれも同じに見えるから、同じかどうかは分からないよ」

 追跡している新エアクラフトを振り払うように謎の円盤はスピードを上げ、スクリーンから小さくなっていく。

 詩織は新エアクラフトの出力を最大にして、謎の円盤を追いかけ始めた。

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