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187.指輪を探すミッション その7

 亜香里の武士道発言に、剣道有段者の詩織が諭す。

「明治10年だとしたら、もう武士は居ないよ。戦い方も刀より鉄砲や大砲が主力だったと思う」

「なるほど、明治時代だからいつ攻めてくるのもアリなのね。でもこのまま放っておいたら、私たちまで被害に遭うのでは? とりあえず大砲くらいは潰しておこうか?」

「そうね、ここでの戦いは、政府軍の兵力が薩軍の数十倍あったと日本史の授業で習った記憶があるし、どうせ最後は人海戦術で総攻撃をかけてくるのでしょう? だったら大砲だけなら壊しても戦況に影響が出ないから、潰しても良いと思うよ」

 詩織の言葉に隣にいる優衣も頷く。


「じゃあ決定ね。落ち着いてこの世界の出入口を探すためにも砲台は全部潰します」

 亜香里は羽織っていた観光客用の服を脱ぎ『組織』謹製ジャンプスーツ姿になって、飛翔でスルスルと上昇し、城山公園の百メートル上空から周辺の状況を確認してみる。

 市街地は彼方此方あちらこちらに灯が掲げられており、松明を持った兵士が動き回っている。

「なるほどー、これは島原の乱で見た討伐軍の数十倍の部隊ね。で? 大砲は何処にあるの? ここからだと見えにくいなぁ。少し近づいてみますか?」

 パーソナルシールドが光学迷彩モードになっていることを確認して、亜香里は飛翔で市街地へ向かう。

「何だか、戦国ものの映画で見るような景色。こんなに人がたくさんいると、遠くから稲妻を落としたら必ず兵隊さんに当たっちゃうよ。少し大砲に近づいてから稲妻を落としますか」

 亜香里は砲台のある場所を目指して高度を下げていく。

 砲兵は次の撃ち方のために筒の中の掃除をし、玉を込める準備をしており、亜香里は地表から10mくらいの高さまで降下して、狙いを定めた、

「兵隊さんたちが砲台から離れないから、攻撃できないよ。砲台の周りに稲妻を落として、兵隊さんたちを脅かしますかね」

 亜香里は神経を集中して、砲台の周りに小さな稲妻を次々に落としていく。

 光学迷彩が効いていて誰からも見られていないので、今回は稲妻の着地点を指差す、わざとらしいアクションはとらずに、空中から腕組みをしたまま、砲台を睨み、周囲に稲妻を落として行く。


 城山公園(になるはずの高台)から市街地を見ていた詩織たちは、稲妻が落ちる様子を眺めていた。

「亜香里さんは、小さな稲妻をたくさん落としていますね」

「おそらく政府軍の兵士がたくさんいて、砲台に大きな稲妻を落とせないからだと思う」

「そうですよね。亜香里さんが本気になって稲妻を落としたら、装甲車でも跡形が無くなりますから」

 2人が話をしている間も、亜香里が落とす稲妻は続き、一旦止んだと思ったら今度は大きな稲妻が続け様に落ち始めた。

「そうか、砲台の人払いが終わって、今度は砲台に稲妻を落として破壊しているのね」

 やがて稲妻の大きな音も収まり、市街地に静寂が訪れた。


「もう玉は飛んで来なそうだから、そろそろこの世界の出口を探し始めますか?」

「詩織さん、ちょっと待ってください… エェッ! 亜香里さんが政府軍に捕まりました!」

「何だって! 亜香里は飛翔で空中にいるはずでしょう? 何で捕まるのよ?」

「詳しいことは分かりませんが、精神感応で確認したら、すぐに救出しないと危ないみたいです!」

「分かった! 亜香里が居るのは最後に稲妻を落としたあたりよね?(優衣「そうです」)じゃあ、ちょっとここで待っていて。ここには薩軍の兵士いるから、教皇をお願いね」

 詩織の姿が消えた。瞬間移動で市街地に向かったようだ。


 教皇が優位に尋ねる。

「2人は兵士の中に飛び込んで行きましたが、大丈夫ですか?」

(大丈夫ですか? と聞かれても、それは私が聞きたいですよー)

「たぶん大丈夫だと思います。今まで2人とも、恐竜やロボットや宇宙人と戦って勝っていますから」

 優衣は『組織』のトレーニングや『世界の隙間』で戦ったことを思い出し、教皇に精神感応で答えた。

 優衣の精神感応を受けた教皇は、訝しげな表情をする。

(日本の『組織』は何処で活動しているのでしょう? 恐竜? ロボット? 宇宙人? 彼女たちは、いつもは地球にいないのでしょうか?)

 優衣の説明は、教皇の理解の範囲を超えており不思議な顔をしていたのだが、優衣は教皇の表情を見て『私の精神感応が上手く伝わっていないのかな?』と別の心配をしていた。


 市街地に瞬間移動で飛んだ詩織の目の前には、政府軍の兵に取り押さえられ地面にねじ伏せらている亜香里が居た。自分に光学迷彩が効いていることを確認して、大声で声を掛ける。

「亜香里、助けに来たよ! どうして捕まったの?」

「(詩織が助けに来てくれたんだ)稲妻を使い過ぎて、空中でフラッとして気が付いたら捕まっていたの。アーッ! そんなに地面に押さえつけないでよぉ。腕が痛いし、左足首は骨折が未だ完治していないんだからぁ」

 亜香里は取り押さえている兵に文句を言う。

 詩織がブラスターピストルに手を掛けるが、パーソナルシールド使用中は武器が使えないことを思い出し、どうしたものかと迷っている。

(暗がりとはいえ、ここで光学迷彩を解くのは危険だし、しばらく使っていないけど、念動力を使ってみるかな)

 詩織は精神を集中して壊された砲台の近くにある、消火用の水桶を念動力テレキネシスで動かし、亜香里を取り押さえている兵士たちに水を浴びせかける。


 驚いて怯む兵士たち。

 次に、念動力テレキネシスで水桶や近くにある長棒を兵士たちの頭や顔めがけて投げつけた。

 兵士たちは引っくり返ったり、尻餅をついたりして亜香里を取り押さえるどころではなくなった。

 両手が自由になった亜香里はパーソナルシールドで光学迷彩を起動させ、飛翔で空中に舞い上がる。

「詩織、ありがとう。もう大丈夫。砲台はほとんど壊したから、優衣のところに戻ろう」

「了解、じゃあ先に戻っているから」

 詩織は瞬間移動で優衣と教皇が居るところへ戻って行く。


 詩織が戻ると、優衣と教皇は無事、城山公園(将来予定地)に居た。

「お疲れ様です。亜香里さんは大丈夫でしたか?」

「ええ、政府軍に取り押さえられていたけど、兵士を軽くやっつけたから、そろそろ戻ってくるよ。ほら帰って来た」

 亜香里は光学迷彩を解き、飛翔で公園に着地する。

「良かった安心しました。精神感応で亜香里さんの助けを聞いた時は、どうしようかと思いましたから。アレッ? 髪の毛が濡れていますよ。どうしました?」

「詩織に水をぶっ掛けられたの(優衣「エェッ!詩織さんに助けられたのではないのですか?」)ウソウソ、助けてもらう時に兵士にかけた水が私にも掛かっただけ。詩織、本当にありがとう。政府軍に捕まったときには『私、西南の役で死ぬのかな?』と思ったもの」

「亜香里があんな事で死ぬわけがないじゃない。さっきはここで兵が出てきても軽羹饅頭を食べていたし」

「アッ! 思い出した。まずい、まずいよ!」

 亜香里は慌てて背負っていた『組織』謹製の薄型リュックを開けてみる。

「やっぱりダメだ、せっかく後で食べようと思っていたのに。軽羹饅頭が政府軍に取り押さえられて、グチャグチャだよ。アーッ、頭に来た! 政府軍に大きな稲妻を落としちゃおうかな」

「亜香里さん、それはやめて下さい! 歴史が変わります。それより、この世界から出る方法がわかりました。ここに来たときと同じことをやれば元の世界に戻れます。あの場所に立って記念碑に書かれてあった文字を唱えれば戻れます」

「何それ? そんな簡単なことで行ったり来たり出来るの?」

「理由は分かりませんし、いつまでそれが可能なのか分からないので、直ぐに戻りましょう」


 優衣の言葉に従い4人は記念碑が将来できる予定地のところへ集まり、優衣が未だ出来ていない記念碑に書かれる文字を唱えると、周りの空気が変わっていく。

「ほんとだ。空気が二十一世紀ですよ。こんな危ないところからは早く逃げよう」

 亜香里たちは急いでホテルのある方へ戻って行く。

 ホテルの脇を通って駐車場に向かおうとすると、亜香里が「お土産コーナーで軽羹饅頭を買い直す」と主張するが、詩織が「あんたも私も黒のジャンプスーツ姿だよ、この格好でホテルに入れる?」と諭され、亜香里は残念そうに軽羹饅頭を諦めてエアクラフトへ向かうことにした。

 光学迷彩が稼働中のエアクラフトは駐機した場所にあり、ハッチを開けて4人は乗り込んだ。

「大変な夕食でしたね、そろそろ急がないと指輪を無くした時間に間に合いません」

「本当だ、急ごう」

 詩織はエアクラフトの仮想ディスプレイを呼び出し、目的地を『組織』日本本部にセットする。

 エアクラフトはいつもの通り、垂直方向に急上昇し、成層圏を超えると水平方向に急加速して東京を目指して行った。

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