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186.指輪を探すミッション その6

 亜香里たち3人と教皇は公園の記念碑前に立っていたはずだが、いや今も2本足で立ってはいるのだが、夕闇に漂う空気の雰囲気が今までとは明らかに異なっている。

 周りに感じられる空気は、21世紀のものではなく20世紀でもなさそう。

 目の前にあった記念碑は消えており、街灯や照明が一つも点いていない。

「なんだか嫌な予感がする」

「『世界の隙間』担当の亜香里じゃなくても、この場違いなところに来た感じは、私でも分かる(亜香里「『世界の隙間』担当って何よ! そんな担当無いから」)言葉の綾だから気にするな。で? 今度は何? 優衣が記念碑を読み上げたから、変なところに飛ばされたの?」

 異常事態の緊張を解れさせようと、二人に突っ込んでみる詩織であるが、逆に二人を余計に緊張させているだけである。

「エェッ! 原因は私ですか? 記念碑に書かれていることを読んだだけですよ。でも… ということは、またここは西南の役なのですか?」

 夏が訪れる前、太宰府天満宮から訳も分からずに「西南の役」が進行中の南九州の『世界の隙間』へ飛ばされた挙句、人吉で倒れ亜香里と詩織に助けられて、現代に戻ってからも一週間以上、意識不明の状態が続いたことを思い出し、優衣は立ったまま固まってしまう。

 優衣の隣で緊張感を感じた亜香里が声を掛ける。

「大丈夫よ。この前は優衣が頑張り過ぎて酷い目にあったけど、友達を二度も同じ目に遭わせたりしないから」

「亜香里さん… 」

 優衣が目をウルウルさせている。

「大丈夫だって。未成年の幼女には保護者が付いていないと変な人に連れ去られるでしょう? この前、アマゾンで『迷子防止 リード付き クマさん ぬいぐるみリュック』を見つけたからポチっておいたの。届いたら優衣にそれを背負ってもらうから」

「亜香里さん、私は亜香里さんと同い年です! 幼女ではありません!」

 怒った顔をしながら、ホントか嘘か分からない亜香里の冗談に気が紛れ、優衣はホッとしていた。


「さてと、それでこれからどうする? スマートフォンはいつもの通り使い物にならないし、この世界からどうやって元の世界に戻れば良いのかな?」

 教皇が精神感応で3人に問いかける。

「今の状況は、先ほどの島原の乱の頃とは違うのですか?」

「未だ分かりませんが、スマートフォンが使えないので、昔に遡っていることはだけは確かです」

 優衣が精神感応で答える。

『ウーム』と言いながら考え込む教皇。

「ここでじっとしていても仕方ないから、どこかに行ってみようよ。もしかしたらエアクラフトが駐車場にあるかもしれないし(詩織「『世界の隙間』だったらそれはないよ。駐車場もないんじゃない?」)そうかもしれないけど、今が明治十年の秋でなければ、歩き回っても大丈夫でしょう?」

「亜香里さん、『明治十年の秋』ってもしかしたら?」

「そう、優衣が人吉で倒れたのが明治十年の六月、この場所の今がその年の秋だったら、政府軍が薩軍に最後の総攻撃を掛ける激戦地。大砲と銃撃戦でね」

「日本国内最後の内戦かぁ、手持ちの武器だけでは対抗出来ないね」

 ジャンプスーツに装着しているブラスターとライトセーバーを確認している。

 詩織は明治政府と戦うつもりでいるのか?


 それ以上、話をしても先に進まないので、亜香里たちは城山公園からホテルの方に歩いて行くが、先ほど夕食を取ったホテルの建物はなく、道も舗装されていない。

「ここのホテルが出来たのは戦後だと思うけど、かなり昔に来ちゃったのは確かね」

 ホテル跡地(将来のホテル建設予定地?)まで来て、どうしたものかと立ち止まっていると、人の気配が近づいて来た。

「みんな、後ろにさがって!」

 詩織が叫ぶと同時に、キラリと光る刀が詩織に襲い掛かる。

 詩織は太刀筋に反応して半身で避け、ライトセーバーを抜くと、暗闇の中でライトセーバーが鈍く光り輝き、詩織が着ていた観光客姿の服が少し切れ、激しい動きでそれが破れ、振り払うと『組織』の黒いジャンプスーツ姿にライトセーバーを構えた詩織が、襲いかかった者の前に立っている。

 光る刀と黒いジャンプスーツ姿に驚く人影、よく見ると武士と兵士が混ざったような着物とズボンをはいた格好をしている。

 詩織は中段の構えで相対した。

 詩織に斬りかかった人影の他に、その後ろに2,3人、同じ格好の人影がある。

 亜香里と優衣はブラスターピストルを構え、優衣が精神感応で亜香里と詩織に提案する。

『ここで斬り合いをすると、怪我人が出ますからブラスターのスタンモードで気絶してもらいませんか?』

 2人は頷き、立て続けにブラスターピストルを発射し、計4人の兵士はその場に倒れた。

 教皇は優衣の精神感応を受け取っていたため、静かに様子を見守っていた。

 詩織は倒れた兵士に近づいてみる。

「この人たちは薩軍の兵士ね。夜の見回りかな?」

「ということは、今はやっぱり明治十年なんだ。迂闊にウロウロ出来ないけど、じっとしていてもこのままだし、困ったね」

 亜香里はそう言いながら、リュックから何かを取り出して食べ始めた。

 端から見ると緊張感もなく、困った様子も感じられない。

「夕食を食べたばかりなのに、今度は何を食べているの?」

「『腹が減っては戦が出来ぬ』と言うでしょう? ホテルのお土産コーナーで、明石屋の軽羹饅頭を見つけたから買っておきました。準備が良いでしょう? 優衣も食べる?」

 そう言いながら軽羹饅頭を食べている亜香里を見て、詩織と優衣は呆れた顔をして(暗くて亜香里からは表情が見えないのは幸いであったが)何も言えなかった。

「ここは薩軍が籠もっているところだし、外に出ると政府軍がワンサカ居るのでしょう? 動こうにもこの世界から出られる場所が分からないから動きようが無いよ」

 ブラスターで倒れた兵士たちを見ながら、立ち止まったままの詩織たち。

(亜香里は軽羹饅頭の2個目を食べるかどうか迷っていた)


「詩織さん、ここはもう一度、最初の場所に戻りませんか?(詩織「記念碑があったところ?」)そうです。記念碑に書かれていた文字を私が読んだら、この世界に来てしまったのですから、今のところ出入口として考えられるのは、あそこしかありません」

「そうね、他に行くところも思いつかないから振り出しに戻りますか?」

 教皇を含め4人は、現在城山公園であるところへ歩いて戻ってみることにした。

 途中、夜の見回り兵士?らしきグループに遭遇したが、詩織が迷うこと無くブラスターピストルを発射して兵士たちを倒していった。

 瞬殺ならぬ瞬停なので、兵士たちが応援を呼ぶ事態にはならなかった。

 歩きながら2個目の軽羹饅頭を食べ終わった亜香里が優衣に聞く。

「スタート地点に戻って来たけど、ここでどうするの?」

「それを今から考えるのですよ。元の世界の記念碑みたいに読むものもありませんし」

 3人が「あーだ、こーだ」と言っていると、教皇は目を閉じてお祈りを始めている。

 亜香里はそれを見て「苦しい時の神頼みですか?」と遠慮のない発言をする。

 相手はローマ教皇なのに。

「亜香里さん、教皇は日本語が分からなくても精神感応で、私たちが話していることや考えていることが分かるのですよ。発言内容を少し慎んだ方が良いと思います」

「了解。日本とバチカン市国の仲が悪くなったらまずいものね」

 出発地点に戻ってきて、どうして良いかわからない亜香里たちである。

「空気が綺麗なせいか、星がよく見えるのね」

 亜香里はやる事がなくなり、星空を眺めていた。

 すると城山公園から離れた市街地の方から『ドンッ!』という大きな音とともに、火の粉を纏った黒い玉が飛んで来て、近くで何かが、ガラガラと壊れる音がした。

「ヤバイ! 政府軍が大砲を撃ち始めた。夜に攻撃してくるとか、卑怯でしょう? 武士だったら正々堂々と名乗りをあげて、陽の下で戦えば良いじゃない?」

 明治になったことを忘れて武士道を宣う、亜香里である。

 そういうことを言う余裕はないはずなのだが。

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