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185.指輪を探すミッション その5

「暗くなってきたから、そろそろ東京へ戻って、もう一度あの『遠心シミュレーター装置』に乗り、ミッションを終わらせますか?」

 亜香里は『またあの機械に乗るのかぁ』と少し嫌気がさしていた。

「ここは東京より日の入りの時刻が1時間くらい遅いですから、東京はもう真っ暗です。大使館近くでスタンバイしていても大丈夫だと思います」

「いや、ちょっと待って。思い出したのだけど、火曜の夜、私たちは会社の仕事が終わってから『組織』のフロアで何をしていた?」

 詩織は記憶をたどって思い出そうとする。

「何をしていたかって? えっとー、午後6時に『組織』のフロアに上がって多目的室で食事を取って、しばらくしてから例の部屋でトレーニングして、午後9時の夜当番開始の時には部屋に入ったでしょう? 私は直ぐに寝ました。せっかく良く寝ていたのに、直ぐに『組織』から起こされたけど」

「そうよね。ということは午後9時まで、この『世界の隙間』の私たちは『組織』のフロアをウロウロしているから、その時間にあそこへ戻ると鉢合わせをしてしまうでしょう?」

「そうでした。ビージェイ担当から『『世界の隙間』の自分に会わないように』と言われたのを忘れていました。今、午後6時過ぎ? このままエアクラフトで『組織』に戻ったら、間違いなく昨日の自分に遭遇するね。どこかで時間調整する?」

「どこかで夕食を取りませんか?」

「優衣にそう言われたら急にお腹が空いてきた。危なくなさそうで、教皇が一緒でも目立たないお店を探してみるね」

 亜香里がスマートフォンで検索をする。

「うん、ここが良いよ。鹿児島市内のホテルだけど、ここなら大丈夫だと思う。 ホテルの駐車場は広そうだし、近くに公園もあるからエアクラフトを停められそう」

「じゃあ、亜香里ご推奨のホテルに行きますか」

「アッ! ちょっと待って忘れていたよ、ここでちょっと待っていてくれる?」

 亜香里は走って教会の敷地から外へ出て行き、10分ほどして走って戻ってきた。

「お待たせしました。では夕食に行きましょう」

「何処に行ってきたの」

「ウン、時間外だったけど、さっきエアクラフトで話した世界で唯一の御朱印をもらってきたの」

「亜香里って、宗教を信じていないのではなかったっけ?」

「御朱印は別です。観光記念みたいなものだから。ここには世界で唯一、神社とお寺と教会の3つの御朱印が入った専用の御朱印帳が手に入ります。詩織と優衣の分も買ってきたよ。教皇の分も」

 3人に御朱印帳を渡すと教皇は御朱印帳を開いてみるが、全部漢字なので内容は分からず、優衣が精神感応で説明する。

『左のページが崎津教会、真ん中が曹洞宗普應軒、右のページが崎津諏訪神社の印です』

『初めて見ました。日本ならでは、ですね』

 教皇は、感心しながら3人に精神感応で感想を述べ、それから亜香里たちと教皇はエアクラフトに乗り込んだ。

 観光客姿のまま、光学迷彩が起動中のエアクラフトに乗り込んだため、知らない人が見ると観光客4人が教会の敷地内で神隠しにあった状態。

 夕暮れの散歩をしていた老人が教会の側を歩いており、消えてしまう4人を見て驚き、腰を抜かしそうになる。

 騒ぎにならなければ良いのだが…

 そんなことを知らない亜香里たちは、エアクラフトの座席に座りシートベルトを締める。

「えっとー、城山観光ホテルだっけ? マップに出てきたから、これでオーケー」

 詩織が仮想コンソールを操作して、エアクラフトを発進させた。


 今回のフライトも天草から鹿児島市内というエアクラフトでは至近距離のため、すぐに到着のサインが出る。

 エアクラフトの光学迷彩が起動中なので、詩織が虫型ドローンを出し周囲を確認する。エアクラフトはホテル駐車場の端の方に駐機したようだ。

「他に車も駐まっていないし、周りも暗くなっているから気をつけて外に出れば、平気だと思う。みんな観光客の格好をしているからたぶん大丈夫。亜香里はホテルのどのレストランに行くつもりなの?」

「実は決めかねているのですよ。ここに着くまでの間、レストランのメニューを見ていたのだけど、どれもおいしそうで。和洋中揃っていて、和食はお寿司、天ぷら、鉄板焼き、割烹は2つ、それ以外の和食屋さんもあって目移りするのよね」

「食事に時間が掛かりすぎても、その後のことが気になりますから、時間の融通が利きそうな、鉄板焼きにしませんか?」

「なるほど、それでは優衣のアドバイスの通りにしてみましょう。ここからお店に予約してみるね」

 ホテルの駐車場(光学迷彩起動中のエアクラフトの中)から、お店に電話する亜香里。

「はい、今から4名で。3分くらいで着くと思います。極上コースで。えっ? 前日の予約が必要なのですか? そうおっしゃらずに、海外のお客さんと一緒ですので。少しくらい中身が変わってもかまいません。はいはい、それではのちほど」

「亜香里さん、『極上コース』ってなんですか?」

「スマートフォンでメニュー見ていて、一番高そうなものをオーダーしてみました。経験上、ホテルのメニューは値段と中身が比例しますから。1人 22千円です」

「時間調整の食事にしては、ずいぶんなお値段ね。そっかー、ミッション中だから、亜香里は『組織』のカードを使うことを考えてお店とメニューを選んだのね」

「当然です。今日だって時間外手当も出張手当もつかないし。考えてみたら、私たちは今までミッション中に『組織』のプラチナカードを使ったことがないでしょう?(詩織・優衣「そう言われればそうです」)でしょう? このカードが配られた時、ビージェイ担当が『ミッション中は使いたい放題』みたいなことを言っていたけど、そもそもミッションではカードが使える場所なんかに行けないじゃない? 今日は教皇もいらっしゃるし、国賓をもてなすのに2万2千円の鉄板料理は安すぎるくらいです」

 亜香里が手当の出ない新入社員の主張をしていると教皇が笑い出し、笑いながら3人に精神感応を送る。

「みなさんの活躍は聞いていますが、私への気遣いは要りません。教皇と言っても毎日贅沢な料理を食べているわけではありませんから。それよりも早くお店へ行きましょう」

 教皇に促されて3人は教皇と一緒にエアクラフトを出ることにする。


 駐車場の隅に停まった光学迷彩が稼働中のエアクラフトから外に出てみることにした。4人は急に現れたのだがあたりは薄暗く、周りには誰も居なかった。

「大丈夫ですね。では鉄板焼きを目指しましょう」

 全員が初めて入るホテルだが、亜香里は来たことがあるかのようにズンズンと中へ入っていき、お店に着いた。

「先ほど電話をした小林ですけど」

 店員が席に案内する時、亜香里が料理を巻きで出すようにお願いすると、コース全体の時間を聞かれたため「デザートまで1時間くらいで」と答えていた。

 店員が下がった後、お茶を飲んでホッとする亜香里たち。

「食事のあとが本番ですね」

「そっかー、大使館で『漁師の指輪』を探すのがそもそものミッションよね。島原の乱から抜け出せて、満足していました」

 教皇が精神感応で亜香里たちの会話に入ってくる。

「おかげで、日本で最初のキリスト教徒に会うことが出来ました。満足しています」

「教皇からそう言われると、あそこに行ったのも悪くはなかったわね」

 直ぐに料理が運ばれてきて、亜香里の『巻き』が入った鉄板焼きコースがメニュー通りに続き、デザートとなる。

「まだ8時過ぎですね。東京に戻るには少し早いかも知れません。エアクラフトでしばらく東京上空ホバリングしますか?」

「優衣、せっかく鹿児島まで来たのだから、ここは食後のお散歩でしょう? このホテルの周りは見て回るところがいろいろあるみたいだし」

 亜香里の言葉に教皇が反応して『日本に来てからあまり外に出ていないので歩いてみたいです』と精神感応を送ってきたので、ホテルの外に出て食後の散歩をすることにした。

 席でチェックをする時、亜香里が少し得意げに『組織』のプラチナカードを出して「これで」と言うとお店の人から「領収書はどうされますか?」と聞かれて「「「アッ!」」」」と声を上げる3人。

 見るからに新社会人が地方出張で来ましたという風情で、歳を取った西洋人を伴っており、見れば直ぐに分かるコーポレートカードで税サ込十万円以上の支払いをすれば、ホテルの従業員は自腹とは思わないだろう。

 優衣が精神感応で亜香里と詩織に聞いてみる「『組織』でも経費で落とすから領収書は必要ですよね? ビージェイ担当は何も教えてくれませんでしたけれど。でも『組織』の名前で領収書をお願いするとかとか変ですよね。前株か後株かも分からないし」

 優衣のテレパシーで亜香里が『ハッ!』と思い出す。

「『社団法人 日本同友会』でお願いします。カッコの社に,同友会は同じ友達の会です」

 亜香里は新入社員研修のトレーニングで能力者補になりたての頃、ビージェイ担当から聞いた『組織』の外向きの名前を思い出したのである。


 亜香里たちは駐車場から入って来た出入口とは反対側の出入口からホテルを出て、直ぐ側にある城山公園展望台へ行き、鹿児島市内の夜景を眺めることにする。

「ここは標高百メートルくらいしかないそうですが、眺めがいいですね」

「そうね、港も見えるし。暗くてよく分からないけど、海の向こうは桜島でしょう?」

 4人は暫く夜景を眺めたあと、隣にある城山公園へ行ってみる。

「何かの記念碑みたいなものがありますよ。暗くて読みにくいのですが、えっとー、『西南戦争薩軍本営跡』と書いてあります」

 優衣が記念碑の文字を読み終わると、4人の周りにある空気の雰囲気が変わり始めていた。

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