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183.指輪を探すミッション その3

 亜香里たちが『あれは城壁なの?』とか『霧の蜃気楼じゃない?』とか話をしているうちに、濃霧が薄くなり周りの景色が少しずつ見えてきた。

 近くに人の気配がない事を確認して、パーソナルシールドの光学迷彩をオフにし、あらためて周りを見渡すと周辺は城壁で囲まれており、少し離れたところには小さな城が見える。

「ここは城内みたいだけど、どこに着陸したの?」

「さっき、亜香里がスマートフォンで調べた住所の通りにエアクラフトの行き先をセットしたのよ。もしかするとニューカレドニアに飛ばされた時のように、またエアクラフトの行き先がおかしくなったのかな?」

 『組織』仕様のスマートフォンで居場所を確認していた優衣が、小さな悲鳴を挙げる。「圏外です! GPSが使えません」

 優衣はリュックから個人用の衛星回線が使えるスマートフォンを取り出して確認してみるが、目を閉じて首を横に振るだけだった。


「また『世界の隙間』に入ったの?」

「それは無いと思うよ。『世界の隙間』に入れるのは私たち能力者と持てる荷物だけでしょう? 光学迷彩が稼働中だけど、エアクラフトもここにあるし」

 詩織は見えないエアクラフトの機体を、手でポンポンと叩いて見せる。

「じゃあ、ここは何時の何処なの? 携帯の基地局が無くて、GPS衛星も飛んでいないとすれば、また変な時代の変なところに入っちゃったのかな? とりあえずエアクラフトに戻らない?」

 亜香里が振り返り、みんなのいる方を向くと教皇の姿が見当たらない。

「教皇、光学迷彩を解除してください」

 教皇が精神感応で読み取ってくれると思い、亜香里は日本語で声を掛けてみる。

「亜香里さん、教皇の気配が消えました!」

「どういう事?」

「大使館でお会いしてから今まで、近くにいらして精神感応で強く教皇の存在を感じていたのですが、亜香里さんが教皇に声を掛けた瞬間に気配が消えました。えっとー、ちょっと待ってください。少し離れたところから教皇の意思が感じられます。私たちに助けを求めているみたいです」

「『少し離れたところ』って、どれくらい離れているの?」

「良く分かりませんが、歩いて行ける距離だと思います」

「では、歩いて探しに行きますか? 教皇が居なくなったら今回のミッション自体が成り立たなくなります。それでどっちの方向へ探しに行けば良いの?」

「精神感応なのではっきりとしたことは分かりません。たぶん前方?」

「優衣らしくないなぁ。こういう時はいつもだとパキパキ説明してくれるのに(優衣「そんなこと言われても精神感応の人探しは、初めてだから仕方ありません」)そっかー、お初の事案かぁ。無理言ってゴメン。じゃあエルフの耳を研ぎ澄ませて教皇のいる方向を探してください」

「だから、エルフじゃありません、ってば」

「あんた達、ウダウダ言っていたら教皇が居なくなっちゃうよ」

 詩織から注意されて、亜香里と優衣は口を閉じ、優衣が先頭になって教皇が居そうな方向へ歩いていくと、途中から霧が晴れ周りがハッキリと見えてきた。


 今まで何処に潜んでいたのか、刀を持った身なりがバラバラの集団がワラワラと湧いてくる。

「ハァー、思った通りじゃない?」

「亜香里さん、何が『思った通り』なのですか?」

「梅雨時に『世界の隙間』の霧島神宮から人吉の神社に行ったときのことを思い出したの」

「アァー! あの時は西南戦争のまっただ中に突っ込んじゃいましたよね? 今度は島原の乱ですか? なんでそんなところばかりに入ってしまうのですか?」

「私に聞かないの! 分からないのは優衣と同じです」

「さっきも言ったけど、今回はエアクラフトも一緒だから『世界の隙間』じゃないのは確かよ。教皇の信心深さで、この時代に来たのかな?」

「詩織はオカルト好きだっけ?(詩織「宗教はオカルトではありません」)まあそうだけど、現実に存在しないものを信じるところは同じでしょう? それにしても困りました。どうしよう?」

 3人が無駄話をしていると刀を持った集団がジワジワと近づいてくるが、3人とも今まで経験した『世界の隙間』で、武士に慣れてしまったのか、焦っていないようだ。


「お互いに怪我はしたくないから、稲妻で追っ払いますか?」

 亜香里は自分たちと刀を持った集団との間に、小さな稲妻を何度か落としてみる。

 小さな稲妻でも距離が近いので、落雷の音が凄まじい。

 刀を持った集団は蜘蛛の子を散らすように、亜香里たちの前から居なくなった。

「やっぱり亜香里さんの稲妻は強力ですね。近くにいると雷鳴で耳鳴りがしてきます」

「人払いができたから早く教皇を見つけようよ。ここが城内なら居る人たちはキリシタンだから教皇に危害を加えないとは思うけど、さっき優衣が『助けを求めている』と言っていたのが気になる」

 再び優衣が先頭になり、教皇の意思が感じられる方へ歩いて行くと、その先には霧の中で微かに見えていた小さな城がハッキリと見えてきた。


「おそらく、あのお城の中だと思います」

「では、あのお城の天守閣に飛びます。亜香里は自分の能力で行ってくれる? 私は優衣を連れて瞬間移動するから」

「了解。優衣だけがここに残ったりしたら危ないからね」

 亜香里が答えると、詩織は優衣の腕を掴んで亜香里の前から消えた。

「それでは遅くならないよう私も行きますかね。下から鉄砲で撃ってきたりはしないよね? とりあえず防御しておきますか」

 亜香里はパーソナルシールドを起動させ、ブラスターピストルとライトセーバーの位置を確認してから飛翔で徐々に地面から浮かび上がり、城の天守閣に向かって飛び始める。

 上空から周辺を見渡すと、城内には先ほど亜香里たちに迫った集団と同じ風情の刀を持った侍たちがあちらこちらにいるが、城外には数倍の人数の武装集団が整列しており、格好も集団ごとに整っていた。

「あの人たちは幕府に頼まれてここに来た九州の大名の部下なのかな? ご苦労さんです。これは絵に描いたような『多勢に無勢』の戦況ね。この数の違いだと、天草四郎がどんなに必勝祈願しても勝てないよ。天草四郎は最初から負けるのが分かっていたのかな?」

 亜香里はドローンのように空中をフワフワと飛び『一人 島原の乱 実況中継』をしながら天守閣の窓から中に入って行く。


 天守閣に舞い降りると中にいるのは、先に到着している詩織と優衣、居なくなっていた教皇、見るからに天草四郎のような青年というより少年のような小綺麗な男子が、鎧を着け胸には十字架を掛けている。それに四郎の付き人らしき兵士が2名、四郎の後ろに控えていた。

「来る途中で城外の様子が見えたけど、城内の数倍の兵がいるよ」

「ここにいる人たちは、とっくに承知しているみたいです」

 優衣は亜香里に答えながら、天守閣にいるみんなに精神感応でのやり取りを伝える。

「そこまで分かっていて何故、降伏しないの?」

 ミレニアム世代の亜香里としては、勝てない戦いはやりたくないところである。

 教皇の精神感応が入ってくる。

「ここの者たちは、自分の運命が分かっているので、この城で籠城をしているのです。城の外に出て降伏しても結果は同じだということも分かっています」

 教皇の精神感応に、天草四郎と兵士たちは深く頷く。

「そうなの?(何だか納得いかないなぁ、そういう歴史だから仕方がないの?)考えていることは分かりました。それで今からどうする?」

「天草四郎さんたちは、時空を越えてローマ教皇がここに来られたことに深い感銘を受けており、お言葉を頂いたので充分だとのことです。『幕府軍が城内へ攻め込んでくる前に教皇を連れて元の世界へ戻ってください』と仰っています」

 優衣が説明をしながら精神感応で教皇と天草四郎たちに送ると、天草四郎と兵士たちは深く頭を下げていた。

「なるほど、自分たちの行方は分かっているので、神に一番近い教皇をしっかり守って連れ帰ってください、ということですか? 分かりました」

 亜香里たちが天守閣からエアクラフトまで教皇をどうやって連れて行くかの相談をしていると、遠くから『ドーン』と大きな轟音が響き、城内で『ガシャン! ガラガラッ』と物が壊れる音が聞こえてきた。

「なになに? 今度は何なの!」

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