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181.指輪を探すミッション その1

 プロジェクターの光源が安定すると、昨夜遅くミーティングルームのディスプレイに現れたばかりのビージェイ担当が大使館広間の壁に登場する。

「アッ! なにか嫌な予感。『私たちに選択の余地無し』って感じがする」

 亜香里が大声で独り言を言う。

 スクリーンのビージェイ担当が話しを始める。

「小林さん、私が現れてすぐに『嫌な予感』という言い方はないでしょう? 選択の余地については、言われる通りかもしれませんが… 教皇からお話があったとおり、困っておられるので、助けてあげられませんか?」

「また、あの『遠心シミュレーター装置』に乗って一日前に行くのですか? 教皇も一緒に?」

「はい、今回は確実にみなさんが二十四時間前に行けるよう、4人乗りの装置を『組織』のフロアに準備しました。教皇は午後の便で帰国されますので、あまり時間がありません。直ぐに『組織』の施設へ行って下さい」


 大使館に来るまで、異常事態の発生原因は大使館の陰謀かも? と考えていた3人であるが、当初の想定と全然違う方向に話が進んでいるため、亜香里たちは戸惑っていた。

 亜香里は今朝(深夜)にビージェイ担当から説明を受けた、大使館消失の顛末内容を思い出し『アッ!』と声を上げると、みんなが亜香里の顔に目を向ける。

「ビージェイ担当、今から二十四時間前、火曜日のお昼に行っただけでは『漁師の指輪』は見つかりません。昨日、火曜日の午後十一時に大使館が無くなったと『組織』から連絡を受けて、二十四時間前の月曜日の深夜に大使館へ行くと既に大使館は無くなっていて、敷地に倒れていた教皇を助けたわけですから。指輪を見つけるためには、月曜日の夜遅くの大使館敷地に行かなければなりません」

「小林さんの言われる通りです。ですから一旦、今から火曜日の昼の『世界の隙間』へ行き、再度月曜日の夜の『世界の隙間』へ行って頂きたいと思います」

「あの装置に2度乗ると、元の世界に戻りますよね?」

「この前の日曜日は、時間を置かずに装置を使ったので、そうなったのだと考えています。今回は火曜日のお昼『世界の隙間』に入って、しばらくその世界で過ごして頂き、夜になってから再度装置に乗れば、月曜日の夜の『世界の隙間』に入れると思います。指輪を見つけたあとは、エアクラフトに乗って大気圏を突破すれば、前回と同様に今の世界に戻ってこられると考えています。

(本当かなぁ?)3人は顔を見合わせ、ビージェイ担当の言葉を半分疑っている。

 優衣が精神感応で『ビージェイ担当があそこまで言うので『組織』は何か掴んでいるのかも知れません。やってみませんか?』と提案する。

 亜香里と詩織は優衣の意見に、とりあえず同意して亜香里が返事をする。

「ビージェイ担当、やり方は分かりました。早速ですが、大使館から『組織』までどうやって行くのですか? 私たちは良いとしても、教皇を大使館から連れ出せませんよね?」

「心配には及びません。光学迷彩が稼働中なので見えないと思いますが、その部屋から見える庭に5人乗りのエアクラフトがスタンバイしています。スマートフォンで確認してみて下さい。みなさんの装備はミッションモードになっていますのでマップに表示されます」

 自分たちが知らないところでの『組織』の手際の良さに、ため息をつきながら亜香里たちはスマートフォンで確認する。

 確かに広間に入ったときから眺めている庭園にエアクラフトが駐機していた。


「よろしいですか? 今から2度『世界の隙間』に入り『漁師の指輪』を確保して、ここへ戻ってきてください。ミッションを無事終了する事が出来れば、みなさんは教皇とお昼の一時を何事も無く過ごしただけとなり、教皇は予定通り帰国の途につきます」

「(ビージェイ担当はサラッと言ってくれるなぁ。そんなに簡単にいくのかな?)大まかな段取りは、分かりました。気になるのは昨日、一昨日に飛んだとき、周りの人はビージェイ担当も含めて、私たちが少し先の未来から何をしに来たのか分からないと思います。 どのように説明したら良いのですか?」

「深夜に説明したとおり、Bプログラムが発動されているので、昨日に飛んでも『組織』は直ぐに対応できます。今日これから二十四時間前に飛んで直ぐに『組織』のミーティングルームへ行き、私に概要を説明頂ければ結構です。それから本ミッションでの注意事項を説明します。まず1点目、『世界の隙間』で自分に会わないようにしてください。『世界の隙間』で自分自身に遭遇した事例はありません。どうなるのか『組織』も把握しておりません。SFのタイムトラベル小説にはいろいろと書かれておりますが、本当のところは誰にも分かりません。もしかすると、昨日の小林さんと話が出来るかもしれませんし、最悪の場合、小林さんが消えてしまうかもしれません。ですから昨日と一昨日、小林さんたちが『組織』のフロアに居た時間に鉢合わせをしないようにしてください。2点目に『世界の隙間』で顔見知りの人に会わないようにしてください。『世界の隙間』で、みなさんは本来存在していないはずですから。知人等に会うとそこから『世界の隙間』が改変され、もしかすると、この世界にも影響が及ぶかもしれません。これから入る火曜日の昼間の『世界の隙間』では次に月曜日の夜に行くまでの間、出来るだけ都心に居ないようにしてください。退屈するかもしれませんがエアクラフトをホバリングさせて機内にいるのが一番安全です。注意して頂きたいことは以上です。危険を感じたときはパーソナルシールドの光学迷彩をうまく利用してください」

『ますます面倒なことになってきた』と思う3人であったが、ここまで来るとミッションをやらないという選択肢は残されておらず、ビージェイ担当の念押しに『了解』と頷くだけだった。


 プロジェクターが映し出すビージェイ担当が消えたあと、亜香里たちは立ち上がり、エアクラフトに乗る準備を始める。

 教皇の前であったが他の部屋へ行く余裕は無く、その場でオフィススーツを脱ぎ、いつものミッション遂行の出立ちである黒のジャンプスーツ姿となった。

 教皇は最初『彼女たちは何を始めるのか?』と驚いた表情だったが『世界の隙間』で一度見たジャンプスーツ姿になった亜香里たちを見て納得する。

「うちらは、ここからパーソナルシールドの光学迷彩でエアクラフトまで行けるけど、教皇はどうするの? 教皇が一人で庭に出て急に姿が消えるのを大使館員が見掛けたら大騒ぎじゃない?」

 詩織の言うことを理解したかのように、教皇は右手の薬指にはめた、形が指輪らしくない指輪をそっと撫でると姿を消した。

 3人は驚き、優衣が慌てて精神感応で教皇に話しかけると、思わず「なるほどー」と独り言を言う。

「優衣、何が『なるほどー』なの?」

「バチカン市国側の『組織』と私たちの『組織』がどこまで打ち合わせをしているのか分かりませんが、私たちが大使館に到着する前に、側近の能力者から指輪の形をしたパーソナルシールドを渡されたそうです」

 優衣が説明をしている間に教皇は姿を現した。

「でも、『組織』が提供するツールは、能力者しか使えないはずよね? 教皇は能力者なの?」

 詩織の疑問を優衣が精神感応で教皇に説明する前に、教皇が精神感応で3人の頭の中に入ってきた。

「私は能力者ではありませんが、同じようなことが出来ます。神のご加護のおかげです」

「優衣と同じくらい精神感応は出来るのね。あとは何が出来るのだろう?」

 教皇の能力に亜香里は興味津々である。

「私のことはともかく、早くあなたたちの『組織』へ行きましょう」

「アーッ、教皇から注意されてしましました。では、ここはそのままにしてエアクラフトに乗り込みましょう」

 亜香里たちがパーソナルシールドの光学迷彩を起動させると、教皇は広間の扉まで歩いて行き、扉に鍵を掛けた。

 広間から庭に出る扉を開け、透明人間モードの3人と教皇はエアクラフトまで歩いて行き、ハッチを開けて乗り込んだ。

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