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180.見守りミッション? その10

 就業時間中のお昼前、3人が待ち合わせの時刻に地下駐車場へ行くと『SCV 1』のナンバープレートが付いたMazda3が停車している。

「マセラティ(Maserati)のセダンが待っているのかと思ったら、なんで Mazdaなの?」

「詩織さん、ナンバープレートの『SCV 1』はローマ教皇専用車ですよ」

 3人は今回のミッション期間中に、教皇の来日関係のニュースには目を通していたが、教皇が広島市内を移動した自動車のニュースまでは目を通していなかったようだ。

『ローマ法王は平和記念公園で行われた「平和のための集い」に参加の際、移動車は「マツダ3(セダン)」を使用しました。「広島繋がり」で選ばれた様ですが「マツダ6」や「CX8」でなかったのは、庶民派として知られる教皇が移動時には小さなモデルを要望されることが多く、バチカン市国内の移動はフォード「フォーカス」を使用しているからだと思われます。(くるまのニュース)』

「まあ、大使館に着けば、どんな車でも良いよ」

 詩織は後部座席のドアを開けて乗り込み、2人もそれに続いた。

 Mazda3の運転手は日本人であったが、3人が話しかけても『特に何も聞いていません』の一点張り、無駄な話はしないようにしているらしい。

 道路は昼時で混雑しておらず、大使館まで十五分ほどで到着した。

 大使館の門は開いており、建物の玄関前でMazda3が停車すると待ち受けていた日本人の大使館員が車のドアを開け「教皇がお待ちです、こちらへ」と案内される。

 亜香里が建物を見上げて「へぇー、瓦屋根だね。外国の大使館なのに不思議」と言うと、優衣が「ここは旧鈴木邸で個人のお宅だったみたいです」と篠原家らしい知識を披露する。

「優衣って、普通の人が知らないようなことをよく知っているよね」

 詩織は(やっぱり篠原家は特殊なんだなぁ)と思いながら、大使館員の後について玄関を入って行く。

 玄関に入ると天井の高いホールから廊下が伸びている。

 3人は初めて訪問するローマ法王大使館であったが、初めて訪れるワクワク感よりも『何処にトラップがあるの?』という警戒の目で館内を追いながら、早足に歩く大使館員の後をついて行く。

 廊下の突き当たりのドアが開けられ、そこは広間になっていた。

「教皇が来られますので、この部屋でお待ち下さい」

 日本人大使館員がそう言い残し、部屋を出て行く。


「今のところ、大丈夫そうね。優衣、何か感じる?」

「いえ、近くに人の気配はありません。探る心が見あたりませんし、最近ここへ知っている人も来ていないようです」

 亜香里たちが壁に掛かった絵画や窓から見える庭を眺めていると、ノックする音がして教皇と従者が3人が広間に入って来た。

 教皇は3人の方へ近づき、話しを始める。

 " Grazie per il tuo salvataggio."(助けてくれて、ありがとうございます)

 優衣は精神感応で教皇に返事をする。

『お礼には及びません。ただ、今のお礼の言葉、私は精神感応で理解できますが、横の2人は精神感応が使えませんし、私たち3人はイタリア語が聞き取れません。通訳して頂けませんか?』

 教皇は『なるほど』という表情をして、従者の一人に話しかけ従者は頷き、教皇の言葉を聞きながら通訳を始める。

「大使館と私を助けていただき、ありがとうございます。私の側にいる能力者から、みなさんが能力者であると聞いていたので、全員、精神感応が出来るものだと思いイタリア語で話しました」

「お気遣いなく。自己紹介が未だですので、紹介させていただきます」

 優衣は翻訳してもらうのが面倒なので、日本語で話しながら教皇と従者には精神感応で伝える。

「私は、篠原優衣と申します。今年大学を卒業して保険会社に勤務する二十二歳です」

 教皇が少し驚いた表情をして、思わず優衣にイタリア語で話しかける。

 " Mi dispiace chiamarti ragazza. "(少女呼ばわりして、すみません)

「教皇が『不思議な少女に会った』と言われたことですか? 同僚からも度々同じようにからかわれていますから問題ありません。では教皇と同じように私を子供呼ばわりする人が自己紹介をします」

 亜香里が『優衣、私?』と小声で聞くと、優衣が『亜香里さん以外に誰がいますか?』と答え、亜香里は教皇に向かい自己紹介を始める。

「小林亜香里と申します。篠原優衣と同じ年で同じ保険会社に勤めています。(これは言わなくても良いかなと思いつつ)能力者補に成り立てです。主に使える能力》は稲妻です」

 亜香里の自己紹介に、教皇と従者は『oh!』と声を上げる。

(なんで驚くの? 稲妻って珍しいの?)と思う亜香里であった。

(なんで能力の紹介までするの?)と思いながら詩織が自己紹介を引き継ぐ。

「藤沢詩織です。2人と同じ年で同じ会社に務めています。今のところ使える能力は瞬間移動です」

 教皇と従者は詩織を見ながら『なるほど』という表情をする。

 教皇は思い出したかのように、3人を部屋の奥にあるテーブルへ招き、従者へ目配せをする。

 従者は一礼して部屋を出て行った。


 通訳が居なくなったので、優衣が精神感応で教皇が話す内容を亜香里と詩織に説明する。

「この大使館と私を救ってくれたことを改めてお礼を申し上げます。今回の来日では、能力者も同行したのですが、異常事態を防ぐことが出来ませんでした」

 優衣は『同行した能力者』が気になり尋ねてみた。

「教皇の側にいる能力者は、どのような能力をお持ちなのですか?」

「あなたと同じ精神感応や精神系の能力を持つ能力者がほとんどです。そちらの方が持っている稲妻の能力は、そういうものがあるとは聞いた事はありますが、その能力を持つ能力者に会うのは初めてです。さぞかし凄い能力なのでしょう?」

 教皇の話を通訳した優衣の説明を聞いて、満更でもない表情をする亜香里が口を挟む。

「では、ちょっとだけ火花を出してみましょうか?」

 直ぐに詩織が日本語で亜香里を諭す。

「止めておきなさい。ここの疑惑が晴れたわけではないし、火花を出し過ぎて教皇が怪我をしたら、それこそ大事になるでしょう」

 教皇は二人のやり取りを聞きながら首を傾げる。

 優衣が気付かれないように精神感応で教皇に説明する。

「稲妻の能力を教皇にご覧頂きたいと思いましたが、大使館では危ないから無理ですね、という話をしていました」

「なるほど、せっかく元に戻った大使館で火災を起こしたくないですね」

 会話を続けていると、先ほど部屋を出て行った従者がワゴンを押しながら部屋へ入って来る。教皇は亜香里たちと昼食を取ることにしていたようだ。

 当初の日程では、別の会食のスケジュールが組まれていたはずなのだが。

 ワゴンからテーブルに皿が並べられる。

 メニューは、野菜スープや肉のローストといった簡素な内容で、これは教皇の食事の好みを反映したもののようだ。

 お祈りを捧げる教皇の姿を見よう見まねで真似をして、亜香里たちは食事を始める。

 食事があらかた終わりデザートのティラミスを食べ始めたところで、教皇が話しを始め、優衣にテレパシーでの通訳をお願いした。


「『大使館と私を助けて頂いたばかりですが、一つお願いがあります。助けて頂いた経緯は『組織』から聞いています。そこでもう一度、二十四時間前の大使館敷地に行って頂きたいのです』と言っていますが、どうしましょう?」

 亜香里と詩織は『ハッ!? 何言っているの? このおじいちゃんは』という顔をする。

「あんな変なところから、何とか普通の世界に戻って来たのに、また行きたいとか… このおじいちゃん、大丈夫? 惚けてない?」

 信者が聞いたら怒り出しそうなことを亜香里が遠慮なく言う。本人は(日本語は分からないよね?)と、高をくくっているようだ。

 優衣が気を遣い『どうして、あそこにもう一度行きたいのですか?』と精神感応で教皇に聞くと、声を潜めて説明を始め、優衣は同時に亜香里と詩織に精神感応で伝える。

「あの世界の敷地に『漁師の指輪』を置いてきてしまった。敷地からエアクラフトが飛び立つ時、暗闇の中で光っているのが見えたとのこと。ちなみに『漁師の指輪』はローマ教皇の象徴で『漁師であった初代教皇・聖ペテロの後継者である』との意味を示します。教皇が変わるたびにその教皇専用の指輪が作られますが、その教皇が亡くなる時、集まった枢機卿の前でハンマーを使って指輪を壊す儀式が行われます。これは教皇座が空席の間に偽造された文書の発行を防ぐために行われます。それから『私はまだ惚けていない』と言っています」

 優衣の説明が終わると、教皇は亜香里の方を見て、ニヤリと笑う。

(エエッ! 日本語は分からないはずよね? 精神感応が出来る能力者なの?)

 亜香里は日本語で『冗談です、冗談です』と言いながら頭を下げた。

「なるほど、指輪を無くしたままだと教皇が亡くなったとき、壊す指輪が無いから、亡くなった教皇は本物だったの? とか、お家騒動になるわけね」

 詩織が優衣の説明に納得して頷く。

 教皇の動静は常にメディアが捉えているので、指輪をしていないと直ぐに騒ぎになると思うのだが。

 亜香里が2人に尋ねる。 

「で、どうする? ミッションは終わっているし『組織』の招集がないと勝手には動けないよね?」

 初めての事なので、詩織も優衣も思案顔である。

 3人が顔を見合わせて『どうしよう?』と困っていると、広間の天井に埋め込まれていたプロジェクターが降りてきて、白い壁に映像を映し始めた。

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