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171.見守りミッション? その1

 就業時間の定時後、会社と同じビルの最上階にある日本同友会のフロアへ3人は一緒に赴いた。

「会社で使っているエレベーターで『能力者だけが行ける階へ行く』というのは、便利なようで面倒な感じがしない?」

「だよね。『組織』のフロアは最上階にあるから、上りのエレベーターを待つことになるけど、そのエレベーターに普通の社員が乗っていたら、乗れないじゃない? ドアが開いて、こっちが乗るのを待たれても『スミマセン、下りボタンと間違えました』とか言い訳をしなければならないから」

「亜香里さんも詩織さんも、エレベーターを面倒くさがるようでしたら階段ですよ」

「優衣は階段で最上階まで上がったことがあるの?」

「私もエレベーターしか使ったことはありませんけど、初めてのミッションは、お昼休み前に『組織』からの呼び出されて桜井先輩から『5分でエレベーターホールに集合』と言われたときには驚いて『エッ!』と、なりましたけど『それが無理なら階段で上ることになるよ』と脅かされて、急いで机の上を片付けました」

「桜井先輩は、ああ見えて結構スパルタなのね」


『組織』フロアに着き、いつもの様にランプが点灯しているミーティングルームまで歩きドアを開けて入室する。

 椅子に座りしばらくすると、壁全面のディスプレイにビージェイ担当が現れた。

「こんばんは、みなさんにお会いするのは、半月ぶりかと思います」

「お昼にメッセージでお知らせしたとおり、今日はミッションの連絡です。皆さんも報道等でご存じかと思いますが、今週末から来週に掛けてローマ教皇が来日されます」


 スクリーンの左半分に来日後のローマ教皇のスケジュールが表示された。

1日目(日)夕方羽田到着、歓迎式、ローマ教皇庁大使館(講話)

2日目(月)東京-長崎-広島-東京 長崎爆心地公園、平和記念公園訪問

3日目(火)東京 各種集い 皇居、官邸訪問

4日目(水)東京 信者との集い、ミサ 午後離日


「実質3日間の滞在予定となっております」

 亜香里が手を挙げて質問をする。

「これだけの要人ですから、政府関係機関がしっかりと警備をしますよね? 今日、ミッションで呼ばれた私たちは何をするのですか?」

「小林さんが仰せとおり、ローマ教皇は国賓・公賓扱いで来日されますので、警備レベルは万全です。但し今回は特別な事情があり『組織』が警備に関わることになりました」

「先日、『組織』のネットワークが『教皇が襲撃される』との情報を受信しました。当局に通報し対応は国の機関がやることになっておりますが、『組織』にも万一に備えて待機して欲しいとの依頼がありました。教皇が移動する昼間はベテランの能力者が備えますが、教皇が宿泊施設から動かない夜間に、みなさんのバックアップをお願いしたいというのが、今回のミッションです」

「具体的には、何をするのですか?」

「ここ『組織』の本部に詰めて頂きたいと思います」

「月曜日から仕事ですが、昼間は会社で働いて、夜も寝ずに番をするのですか?」

 亜香里にとって睡眠は食事と並ぶ優先課題である。

「いえいえ、このフロアにある施設で寝て頂いて結構です。いつもの様に必要な設備と物資は全て『組織』で準備します」

「では、日曜の晩から火曜の晩まで、ここで3泊すれば良いのですね?」

「その通りです。おそらく何も起こらないと思いますが、念のためここに泊まって頂ければと思います。その間は『組織』のあらゆるツールが教皇の様子をモニターしていますので、異常があれば直ぐにこちらへ連絡が入る様になっています。よろしいでしょうか? 特に質問がなければ説明はこれで終わりにします、日曜の夜はお休み中のところですが、午後6時にこちらへお集まり下さい。車やバイクで来られても良いように駐車場の使用許可を出しておきます。それではよろしくお願いいたします」

 スクリーンと共にビージェイ担当が消えた。


「なんだか、ハッキリとしないミッションね」

「『3日間、ここで待機していなさい』ということでしょう?」

「ビージェイ担当は『このフロアの施設で寝ていて良い』と言っていたけど一度寝てしまったら、急に起こされても起きられません」

「亜香里はそうなるね。何かあったら起こしに行ってあげるよ」

「お願いします。それにしても今日が水曜日でしょう? 次の日曜日からここにお泊まりですか? ここの宿泊設備は、どうなっているのかな?」

「ビージェイ担当が『いつもの様に必要なモノは全て『組織』で準備します』と言っていましたから、着替えだけを持ってくれば良いのではないでしょうか?」

「アッ! 思い出した。九州に『慰労を兼ねた合宿』に行く前日の説明会のあと、香取先輩が『このフロアで食事をしてから仕事に戻る』と言っていたから食事をするところはあるはずよ。明日、本居先輩に聞いてみよう。能力者だったら知っているよね?」

「亜香里にとって最大の心配事が解消されて良かったね。でもこのフロアと下の階にある会社との往復だけを毎日続けたら運動不足で身体が鈍りそう。このフロアにジムはないよね?」

「詩織さん、分かりませんよ。ジムが無くても身体を鍛える設備があるかも知れません」

「例えばナニ?」

「このフロアは、ビルの最上階でしょう? 屋上からスカイダイビングをしてみるとか?」

「何それ? スパイダーマンでなければ、そんなことはできないでしょう?」

「詩織さんが、これを機会に新しい能力を身につけるとか」

「そっかー、ダイビングはともかく『組織』の施設なのだから、能力を付けたり高めたりする設備があってもおかしくないよね」

「じゃあ、待機中に運動不足にならないように日曜日の夜、このフロアを探検しましょう」

 亜香里の言葉でこの日3人は『組織』のフロアを退出し、亜香里は久しぶりに自宅へ、詩織はジムへ、優衣は父親の来客対応のため自宅の洋館へと帰って行った。


 日曜日の夜、亜香里と詩織は寮からGLA45(『組織』改)で、優衣は自宅からレンジローバー イヴォーク コンバーチブルで、会社と『組織』があるビルの地下駐車場に到着した。

 優衣から『時間を待ち合わせて一緒に行きませんか』とのお誘いが、金曜日のお昼休みにあり、午後6時に地下駐車場で待ち合わせることにした。

 先に到着した亜香里と詩織が、小型のキャリーバッグを車から降ろしていると、優衣のオレンジ色の車が到着した。

 エンジンを止めたあと、優衣が困った顔をして車から降りてくる。

「亜香里さん、詩織さん、こんばんは。着いてさっそくで申し訳ないのですが、チョット手伝って貰えませんか?」

「もしかしたら、いつもの優衣の淑女仕様の持ち物が、車から降ろせないとか?」

「スミマセン、荷室に積めれば自分で下ろせるのですが、この車の荷室は狭くて後ろの座席にバッグを載せていますから」

 亜香里と詩織が車の中を見ると後部座席には、優衣が新入社員研修で研修センターに持って来ていたRIMOWAのTrunk XLが鎮座している。

「なるほど、確かにこの大きさだと、この車の荷室に入れるのは微妙ね。でも後部座席に載せるときはどうしたの?」

「家に出入りしている業者さんに手伝ってもらいました」

「じゃあ、バッグを出しやすいようにまず屋根をオープンにしてくれる? 上から引っ張り出すから」

 優衣はスイッチでルーフをオープンにして、3人でバッグを車から降ろした。

「優衣が泊まりがけで何処かへ行くときの、荷物の多さはどうにかならないの? スコットランドの弾丸ツアーの時だって、キャリーバッグを持って来たのは優衣だけだったじゃない? 私たちはショルダーバッグだけだったし」

「それは、会社に入ってから『組織』に関わっていると時々そう思います。『いきなり泊まりがけで出発』ということが多いですから。今まではこんな感じで荷物を用意していて、周りの人から何か言われたことがなかったものですから少し考え方を変えないとなとは、思っています」

 やっぱり優衣とその家族は少し特殊なのだなと改めて感じる詩織である。

 3人はキャスターバッグを転がしながら、地下駐車場のエレベーターホールへ向かって行った。

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