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162.お盆休み前のミッション その3

 シークラフトに戻った2人はハッチを閉じシートベルトを締めて、詩織の操舵でシークラフトを発進させ、オイルの海とオイルフェンスを乗り越え、まともな海上へ戻りホーバークラフトモードを解除した。

 その間、優衣はタンカーの操作船室でキャプテンと精神感応でやり取りした内容を、詩織に説明していた。


「ということは、あのタンカーは今のところ『大きな鉄のタライ』状態なの? 穴の開いた」


「そうみたいです。あのタンカーのキャプテンらしき人が言うには、今座礁している鹿島灘から遠い沖で、動力系も含めて全ての電気系統がシャットダウンして、非常用電源もバッテリーも、おまけに携帯の電池まで全て使えなくなったそうです。そうなれば通信が出来ませんよね? それで助けも呼べずに海流に流されて鹿島灘に座礁して、どうしようもない状態なったとのことです」


「そうなると、今流れ出ているオイルの流出を止める方法も無いのね?」


「キャプテンの話によると、座礁して中のオイルが漏れ始めたら、そのタンカーが出来ることはそもそも無いそうです。 他のタンカーが近づいて来て船内に残っているオイルを抜き取るしかないそうです」


「じゃあ、早く空いている他のタンカーをここに呼んで、抜き取ってもらうしかないんじゃない?」


「それがそんなに簡単ではないようです。ビージェイ担当からミッションの説明を受けた時、非公式情報として『タンカーには原油以外の何か明らかに出来ないものも積んでいる』って聞きましたよね? キャプテンからも精神感応で同じことを聞きました、何を積んでいるのか探ってみたのですが、キャプテン自身もそれ以上の詳しいことは船会社から聞いておらず知らないそうです、出港前の積荷目録の報告では『マシンオイル』となっていたそうです。タンカーで機械油を運ぶとは思えませんけど… そのため関係機関がタンカーに近寄れないのだと思います」


「うーん、そうなると、オイルの流出阻止は打つ手なしですか」


 2人がどうしたものかと考えていると、シークラフトのディスプレイにビージェイ担当が現れた。


「藤沢さん、篠原さん、ミッション遂行お疲れ様です。お二人の行動と会話はモニターして確認させて頂きました。その中から必要と思われる事項を抜き出して『組織』依頼を受けた関係機関に連絡しました。『組織』に要請された最低限の依頼事項は完了ですが、依頼元では今後の対応について検討中とのことですので、しばらくそちらにいて頂けますか? タンカーの近くは危険ですので、シークラフトで何処かに上陸してください。 お二人が現場近くの海岸をウロウロしていると怪しまれますので、鹿島セントラルホテルの客室最上階を『組織』で確保しますので、そこで待機してください。あの辺ですと一番高い建物なので部屋から海上の様子も良く分かると思います。ホテルに行くには鹿島港の中を入って行き、シークラフトを近くの神栖中央公園に停めて置いてください。光学迷彩の起動をお忘れなく、よろしくお願いします」

 ディスプレイが消えた。


「とりあえず『待て』ですか、じゃあ、鹿島港までは優衣が操舵する?」


「はい、急ぎの用事はなさそうなので、ゆっくり進んで行きます」

 初めてシークラフトを操舵する優衣は、慎重に船を進めた。

 


 1人で自家用車通勤をしていた亜香里に、メッセージが入って来た。

 スマートフォンと連動しているカーナビのディスプレイがポップアップして、フロントガラスに優衣からのメッセージが映し出される。


「2人は鹿島灘に行っているの? 今までで一番近くのミッションじゃない?」

 カーラジオから聞こえてくるニュースが、タンカーの座礁事故による原油の流出が続いていることを報道していた。

「詩織たちは、これを止めに行ったの? そんなことできるのかなぁ? でもニュースの様子だと、未だ止められないってことよね」

 車を運転しながら、亜香里はしばらく思いを巡らす。


『うん、そうしよう!』と思い付き、ハンズフリーフォンで本居里穂に電話を掛けると、留守番電話が応答する。

『そうだった。本居先輩は今週、夏季休暇よね。じゃあ、グループリーダーに電話しよう』亜香里は電話を掛け直す。

「もしもし、小林です、おはようございます。急で申し訳ありませんが、足が痛むので今日はお休みを頂けますか? はい、はい… よろしくお願いいたします」


 ハンズフリーフォンを切ると、最寄りの首都高入口を駆け上がり、首都高湾岸線に向けてハンドルを切る。

 そのまま東へ向かって走り東関東自動車道に入ってからは、終点の潮来まで止まらずに走り抜け、潮来インターを出たところで道路脇に車を停めて、詩織に電話をした。

「もしもし詩織? うんうん、ニュースで聞いたよ。なるほど… とりあえず『待て』ですか? ちょっと思いついたことがあるから、今から鹿島神宮まで来られない? 私? 今、潮来インターを出たところ。良いじゃない? お盆前なので今日は有給休暇にしました。じゃあ、鹿島神宮の駐車場で」

 電話を切ると亜香里は、鹿島神宮に向けて車を走らせた。



「詩織さん、今の電話は亜香里さんからですよね? なんで潮来インターにいるんですか?」

 優衣は鹿島港内でシークラフトを慎重に進めながら、ハテナ顔で詩織に質問する。


「ほんとに亜香里には驚かされるよ。さっき、確か2時間くらい前に優衣から亜香里にメッセージを送ってもらったじゃない? 亜香里が通勤中にクルマのディスプレイでそのメッセージを読んでいたら、カーラジオからタンカー座礁のニュースが流れてきたんだって。原油の流出が止まらないから、私たちが手こずっているんじゃないかと思ったそうよ。まあそれくらいは思いつくよね、今までいろいろ一緒にやってきたから。でもさぁ、骨折も治っていないのに有給休暇まで取って東関道を飛ばして、ここまで来る? ミッションを手伝ってくれるのはうれしいけど。『解決策を思いついたから鹿島神宮まで来て下さい』だって、優衣、悪いけどここ(鹿島港)から一度外洋に出て鹿島灘から直接、鹿島神宮に入ってくれる? 海岸から直接だったら2キロもないと思うから」


「了解です、それにしても亜香里さんって不思議な人ですね。『組織』からミッションのオーダーも受けていないのに有給休暇を取って、わざわざ茨城県まで車を飛ばしてくるなんて。そういうとんでもない事をいきなり実行するところが亜香里さんらしいし、一緒に居て飽きませんよね、映画を見ているみたいで。でも勝手にそんな事をしたら、あとで江島さんから注意されたりしないのでしょうか?」


「確かに亜香里は『組織』以上に不思議な存在なのかもしれないし、一緒に居て楽しいよね。今回はオイルの流出事故を解決出来れば『組織』からは、お咎め無しじゃない?」

 優衣はシークラフトの操舵を一旦沖に向け、しばらく海岸線と並行に進み、鹿島灘から鹿島神宮に近い砂浜へ上陸した。そこは海水浴場から近く、海辺で遊んでいる人がチラホラ見える。


「この海水浴場から真っ直ぐ伸びている道路を行けば鹿島神宮です。交通量も少なそうですし、ホーバークラフトモードで光学迷彩を稼働すれば直ぐに着きます」


「そのルートしかないと思うけど、交通信号はどうするの? 赤信号で停まったら後続車両から追突されるよ」


「その時は、その時ですよ、周りにビルは無いし民家も少なそうですから。赤信号だったら左右を見て無視して突っ切るか、車が向かってきたら脇の畑に避けます。シークラフトは車じゃないですから交通ルールは適用されないのでしょう?」


「まぁ、そうだけど。西海岸のカースタントスクール仕込みの優衣の操縦だからなんとかなるでしょう」

 いつもは遠慮がちな優衣なのに四輪車以外の操縦を始めると、人が変わるなぁと改めて思う詩織である。

(6点式のシートベルトは締めているし『組織』のジャンプスーツも着ているから大丈夫、大丈夫)

 そう自分に言い聞かせる詩織を隣に乗せ、優衣が操縦するシークラフト(ホーバークラフトモード)は光学迷彩を稼働させたまま、鹿島灘の砂浜から一般道に入り、鹿島神宮に向けて疾走し始めた。


 走り去った後に道路脇の看板が、風圧で捲れてしまったのはご愛嬌。

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