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147.フォローアップ研修(LOTR?)その15

「湿地帯に入ってきました」

「この辺が『死者の沼』だと思います。優衣、少しスピードを落として見晴らしの良いところで停めてくれる? 出来ればこのバギーカーは下の土が乾いたところに停めて、追ってくるトロルたちは足元が悪い場所で。停めたバギーカーとの距離は百メートル以上離れたところを目安に」

 沼地に入ったところで亜香里が、細かい注文を出してくる。

「了解です」

 優衣は亜香里のリクエストに応え、沼地の中で少し高くなったところにバギーカーを停めた。

 亜香里は急いでシートベルトを外し、腕の力を使ってバギーカーのルーフによじ登る。

 7〜8頭のトロルが近づいてきたところで亜香里は集中力を高め、トロルたちに向かって長く大きな稲妻を落とすと、一瞬あたり一面が真っ白になる雷光と、沼地全体が大きく震える雷鳴が響き渡り、トロルマシーンたちは長く感電したまま回線の多くがショートしたのかバタバタと倒れていった。

 トロルが全部倒れるのを確認してから亜香里はルーフから後部座席に降り、シートベルトを装着して発進の声を上げる。

「さて、いよいよ『モルドール』です。ここをサッと通れば、着いたも同然です。優衣、運転よろしくね!」

「了解です。では出発!」

 優衣は力強くアクセルを踏み込み、電動バギーカーは再び沼地を飛ばし始めた。

 優衣と詩織は亜香里の稲妻を何度も見ており、一度にたくさんのトロルを倒しても驚きはなく、電動バギーカーが走り始めてから『お疲れさま、片足ギブスで良くバギーカーのルーフに登れたね』と、違う意味での慰労をしていた。


 しばらく走ると沼地が終わり、地面は黒い大地に変わっていた。

 目の前には両側を崖に挟まれた大きな黒い門がそびえており、門は開かれていた。

「おお! ここが『モルドールの黒門』です。警備は居ないみたいなのでチャッチャと行っちゃいましょう」

 亜香里たちが難なくモンドール内に入ると、中は固くフラットな土地が続き、優衣はバギーカーを軽快に飛ばした。

「亜香里さん、左の方に煙っている山が見えてきました」

「オォ! アレが『滅びの山』です。今回のトレーニングのゴールです。周りにサウロンの軍団も居ないし、指輪を放り投げた後で火山見物くらい出来そう!」

「そんなに簡単には行かないみたいです。右上から、また変なのが飛んできました」

 3人が乗るバギーカーの右手上空からプテラノドンが急降下して来る。

「だからぁー、なぜ『指輪物語』に恐竜が出てくるわけ? 昨日と同じタイプだし。『組織』の技術グループは創造性に欠けているのかなぁ? 日本に帰ったら意見しよう」

 亜香里が余裕をこいて意見している間に、プテラノドンは鋭い爪を持った足でバギーカーを掴み、持ち上げたまま上昇する。

「ヤバイ! 昨日と同じ展開だ! 私につかまって!」

 詩織は亜香里と優衣が自分に掴まったのを確認して、瞬間移動で地面に降り立つ。

 3人は地面に降り立った。はずが… 実際に地面の上に降り立っているのは、瞬間移動をした詩織本人と亜香里だけだった。

「エッ! 優衣がいない!? どこへ行ったの?」

 2人が周りを見回しても優衣は居らず、空を見上げるとプテラノドンに持ち上げられたバギーカーの運転席に優衣がそのまま座って助けを求めている。

 プテラノドンの片足が外れ、バギーカーはプテラノドンの片足、2つの爪に引っかかった状態で空中をブラブラしている。

「マズイ! この能力は続けて使えないし、バギーカーが落ちそう…」

 詩織は青ざめ、言葉が震えている。

 亜香里はバギーカーに乗ったままの優衣を見つめ『何とかしないと!』と強く思うと次の瞬間、身体が地面から浮き上がり、そのままバギーカーに向かって飛翔する。

 上空へ上っていくプテラノドンとバギーカーに追いつき「優衣、シートベルトを外して!」叫びながら優衣を捕まえた瞬間、バギーカーを掴んでいたプテラノドンの爪が外れ、バギーカーは地上まで真っ逆さまに落下して大破し、プテラノドンは上空へ去って行った。

 亜香里は優衣の身体を捕まえたまま、ゆっくりと詩織が立っているところまで降りてきて地面に立つと『痛ッ! ギブスしてた!』と、大声をあげて優衣の肩を借りながら、何とか立っていた。

「亜香里、フォローしてくれてありがとう。さっきはなぜ優衣だけが一緒に瞬間移動が出来なかったんだろう? ところで亜香里は、いつから飛べるようになったの?」

「確かに今、私は飛んでいましたね。何でだろう?」

「香取先輩からそういう能力があるというのは聞いたことがある。たしか飛翔とか言っていたかな」

「亜香里さん、ありがとうございます。助けてもらわなかったら、今頃、あのバギーカーの様になっていました」

 3人が立っているところから数十メートルの場所には、バギーカーの残骸が散乱している。

 バギーカーの残骸まで歩いて行き、積み込んでいた荷物の確認をする。

『組織』支給のリュックは中にあるものも含めて無事、パーソナルムーブも基本的には堅い板なので大丈夫、亜香里のスマートクラッチも『組織』謹製だけあってほぼ無傷、内蔵されているブラスターライフルを亜香里が無駄に試射してみるが問題はなかった。

 クッキングマシーンが作ったランチボックスの中身は、ごった煮状態になっている。

 詩織は『もしかしたら?』と思い、バギーカーの座席があったところを捜してみたが、マジックカーペットは見つからなかった。

「もう、お昼過ぎでしょう? お腹空いたよぉ。このランチボックス、形は崩れているけど食べられないことはないよね?」

「元がどんな料理だったのか分からないくらい崩れているけど、ケースに入ったままなので衛生面はOKだし、あとはこれを見ながら食べられるかどうかよね」

 ランチボックスは中に入っているパン、サラダ、肉・魚類がグチャグチャになっている。

「今日はトレーニングが終わるまで食事をするところや、休むところがなさそうだから、私は美味しくいただきます」

 亜香里は、ごった煮状態になったランチボックスをフォークで口に運び、それを見て詩織と優衣も気にせずに食べ始める。

 見た目はともかく味は良く、3人ともランチボックスを食べ終わり、次の行動を話し合う。

「少し距離はありますが、もうここまで来たらパーソナルムーブで『滅びの山』を目指すしかありませんね」

「あそこに見える煙っている山でしょう? 割と距離があるけど、そこまでのロケーションはフラットだからパーソナルムーブを飛ばせば山の麓までは1〜2時間で着きそうね。その後、どうするかだけど」

「それは山に着いてから考えようよ。少し日が傾いてきたから急いで出発しましょう。ここは暗くなったら変なモノが出そうだから」

 亜香里の説明に2人は異論がなく、3人はリュックを背負いパーソナルムーブで『滅びの山』に向けて出発した。


 1時間ほどすると、あたりは急に暗くなってきたが亜香里が言っていた『変なモノ』に遭遇することもなく、3人は山の麓までたどり着いた。

 山が活火山のためか、周りは蒸し暑く草木も生えていない。

「この山をどうやって登るの? 登山道は無さそうだし、山の表面は砂礫みたいになっていて登りにくいし、そもそも何処を目指して登れば良いのか分からないよ」

「詩織さん、匂います。高橋さんが来た跡があります」

「優衣の例の能力? ということはそれに頼って行けばゴールたどり着けるのかな?」

「そうなの? 優衣がその能力を使っているところは初めて見るけど、他に行き先の当てはないから、優衣について行けば大丈夫じゃない?」

 亜香里の言葉で、3人は優衣の先導で山を登り始めることにした。

 最初は砂礫ばかりだと思っていた山の表面も、それが固まって舗装路の様になっているところもあり、優衣の能力でたどる高橋氏の跡はその道を登っていた。

「亜香里ぃ、足は大丈夫?」

「とりあえず何とか… スマートクラッチの使い方にも慣れてきたから、まだしばらくは登れそう」

 亜香里は思いっきり前傾姿勢をとり、左足の負担を抑えて登って行く。

 後ろを歩く詩織は亜香里が転げたりしないか気をつけながら登って行った。

 3人は途中休憩を挟みながら、優衣が能力で追う高橋氏の跡を登って行き、本人たちは時計がないため時間が分からなかったが、現地時刻は日付を越えていた。

 3人に疲れが増し、3度目の休憩を山の中腹で取っていた。

「優衣、まだ高橋さんの跡は続いているの?」

「ええ、間違わないように注意して、能力を度々使っていますが、間違いなく高橋さんはここを登っています」

「そうなの? 高橋さんは登山が趣味だったりして… そうじゃないと、こんなところをゴールに設定しないよ」

 亜香里はスマートクラッチに体重を掛けているため、両手の皮が剥け始めている。

「優衣の能力は、今回のトレーニングで何回も使っていて間違いないから、それを信じるよ。じゃあ登山を再開しますか」

 詩織もヘトヘトであったが、ジッとしていると再び立つのがイヤになりそうなので、みんなを鼓舞して立ち上がる。

 それからまたしばらく登り続けると優衣が突然、大声を上げる。

「ここです、高橋さんはここに居ました」

 真っ暗闇で目を凝らさないと良く分からないが、少し離れたところに恐竜の島で亜香里と優衣が一晩過ごしたものと同じ、待避壕がある。

 3人が待避壕に入ると中央には小さなテーブルがあり、真ん中は指輪型に凹んでいる。

「そうかぁ、私たちが火口に指輪を投げ込んでも『組織』はトレーニングが終了したかどうか分からないから、ここをゴールにしたのね」

 亜香里が封筒から取り出した指輪をテーブルの凹みに嵌めると、待避壕のどこからかフィナーレ音が鳴り響いた。

「ようやく終了です。今回のトレーニングは長かったなー」

「たしかに今回のトレーニングは長かったし、何度も能力を使ったから、『能力者のトレーニング』って感じだったね」

「そうですよ、詩織さんと私は今まで練習していた能力がここで発揮出来ましたし、亜香里さんは新しい能力が出せましたから」

「そうだ! さっき詩織が言ってた飛翔って、初めて知らずに飛んじゃったけど、いつでも飛べるようにするにはどうしたら良いのだろう? あの時は『優衣を助けなきゃ!』という一心だけで飛べたけど」

「優衣に、何回も高いところからぶら下がってもらえば、出来るようになるんじゃない?」

「詩織さん! 酷いです! そんなことを何回もやっていたら命がいくつあっても足りませんよぉ!」

 詩織のユーモアで、疲れ果てながらも3人に笑いが広がっていた。

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