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140.フォローアップ研修(LOTR?)その8

 亜香里たちが『エルロンドの館』の探検を始めた頃、悠人と英人は亜香里が残した電動オフロードバイクに二人乗りをして、一度見た地図のうろ覚えな記憶を頼りにしながら、裂け谷にあると聞いた『エルロンドの館』を目指していた。

『いま何時だろう? さっき日が暮れたから、もうすぐ真っ暗になるけど何処かで、ビバークする?』

 うしろに乗っている英人が、周りの景色を眺めながら悠人に聞いてみる。

『目の前に山脈が広がっているから、走っている方角は合っていると思うけど、距離と場所が分からないからな。地図には山の手前に川が書いてあったと思うから、そこまでは走ろうと思っている。飲み水も無いし』

『寒くて気にしていなかったけど、ずっと水を飲んでなかったなぁ。取りあえず川を目指しますか? 悠人の運転が長いから代わろうか?(悠人『いつ言ってくれるのかを思って待ってたよ』)なんだよー、水くさいなぁ、代わって欲しけりゃ代わって欲しいって言えよ(悠人『初めて走るところが面白くて、腕のダルさと闘ってた』)だろう? だから早く俺にも運転させろよ、ニュージーランドの草原を』

 2人が乗ったバイクは途中、迷いながらも結果的に亜香里たちが走ったあとを辿っており、森を抜け草原を走っていた。

 悠人がバイクを停め、英人と運転を交代する。

『なんだよー、最初に走っていた森は大変だったけど、ここは走っていて快適じゃない? このバイクのヘッドライトは明るくて見やすいし』

 英人は鼻歌まじりに、暗くなった草原を軽快に飛ばす。

 しばらく走ると、ヘッドライトの先に水の反射が映って来た。

『川まで来たよ、と言うことは小林さんが言っていた、裂け谷の近くかな? 山の裾野も迫っているみたいだし』

『英人、左、左の方を見てみろよ、少し登ったところに灯りが見える』

『オオッ! あれが『エルロンドの館』? だとしたら今晩はビバークせずに済みそうだし、まともな食事にあり付けそう。とりあえずあの灯りを目指して走る』

 英人が運転するバイクは直ぐに川岸まで辿り着き、川沿いに『エルロンドの館』の灯りと思われる方向へ走って行き、幾つもの建物の灯りが確認できる距離まで近づいて来た。

 河岸でバイクを停め、2人はバイクを降りてみる。


「あの建物の灯りが『エルロンドの館』なのは間違いなさそうだな。暗くて良く見えないけど手前はずっと川が流れていて、近くに橋はなさそうだし、どうする?」

「ちょっと、バイクいい?」

 悠人はそう言って、ヘッドライトをつけたままにしているバイクのハンドルを掴んで、ヘッドライトの方向を川の水面に向けてみた。

「思った通り。この辺は浅瀬になっているから、このバイクだったらゆっくり走れば、そのまま渡れるくらいの深さだと思う」

「じゃあ、そうしよう。走れるところまで走ってダメだったら、あとは泳げばなんとなるな」

 この川の幅だったら、最初から泳いでも渡れると英人は思っていた。

 バイクのハンドルを掴んでいた悠人が、そのままライディングポジションをとり、英人はうしろに乗車する。

 ゆっくりとバイクで川の中に入って行く。

「悠人はオフロードの運転が上手いね、これは楽勝じゃない?」

 英人がうしろから煽てていると、優衣と亜香里が川を渡った時と同じ様に、上流から急な放水をした様な大量の川の水が2人を襲ってきた。

 周囲は真っ暗でバイクのライトの範囲しか、見えなかったため2人ともバイクごとあっけなく流されていく。

「アッ! なんだー!」

 うしろに乗っていた英人は掴むところもなく、そのまま流れていった。

「ちょっと! アー!」

 ハンドルを握っていた悠人は、とっさにハンドルを掴みなおした時にバイクのホーンボタンの位置を握ってしまい、大きなホーンの音を響かせながら、バイクと一緒に流れていった。



 亜香里たちは『エルロンドの館』にある部屋を幾つか探ってみたが、期待していたエルフが歓待してくれる豪華な食事は見つけられなかった。

 そもそもエルフが豪華な食事をしているという前提が違うと思うのだが。

 ほどんどの部屋には扉が無く近くの部屋から順番に調べていくと、ある部屋にだけ扉があり、扉を開けると中は寮の多目的室と同じ作りになっており、クッキングマシンと冷蔵庫が完備されている。

「医務室と同じで、何だかこの辺は手抜きですね。研修センターのトレーニングA棟ロビーにあったものも同じ設備だったし、まあ使い慣れているから楽と言えば楽だけど折角ニュージーランドに来たのだから、その土地のものも食べてみたいよ」

「亜香里さん、ここのクッキングマシンはスマートフォンが使えませんけどマシンのディスプレイメニューには見慣れないものがたくさんありますよ」

「あっ! ホントだ、アラカルトで選べるじゃない? えっとー ハンギ、ラムシチュー、ブラフ・オイスター、ホワイトベイト・フリッター、マッスル(ムール貝)、パブロバ、ホーキーポーキー(Hokey Pokey)」

「ハンギってマオリ族の料理でしょう? 電子レンジでは出来ないと思うけどどうやって作るんだろう? ホワイトなんとかって何? ホーキーポーキーはニュージーランドの有名なキャラメルアイスクリームね。日本で食べたことがあります。適当にオーダーしてみよう」

 亜香里はそう言いながら、ディスプレイに表示されたほとんどのメニューをタッチしていく。

 しばらくすると、クッキングマシンから続々料理が出てきて、3人の夕食には十分過ぎる量となった。

「タッチパネルを押す亜香里を見ていて、こうなるんじゃないのかなと思ったんだ」

 目の前にたくさん並ぶ料理を見て『ハァー』と溜息をつきながら詩織が言う。

「でも、ここのクッキングマシンは寮にあるのとは少し違いますね。寮のマシンだとこんなに続々と出てきませんから」

「チョット頼みすぎたかも知れないけど、足りないよりは良いのでは? さあ、食べよう食べよう!」

 亜香里が食べ始め、詩織と優衣もそれに慣れっこになっていて、マナーを気にせずに食べ始めると2人の食欲は亜香里のそれとあまり変わらなかった。

 一日動き回ったせいで3人とも食欲は旺盛で、テーブルの上の料理をあらかた食べ終わり、ホーキーポーキーをスプーンで口に運んでいると、少し離れたところか警笛音が聞こえて来る。

「今、警笛が聞こえませんでしたか?」

 優衣が耳を澄ます。

「そう? 鳥の声じゃない?」

「いや、私にも警笛に聞こえた。今の音は私たちが乗っている電動オフロードバイクの警笛と同じだと思う」

「詩織さんにもそう聴こえますか? だとしたら、萩原さんたちじゃないですか?」

「今の警笛は萩原さんと加藤さんが、『エルロンドの館』の近くまで来て鳴らしたっていう事? 外は真っ暗だし、館全体が、光に包まれていて分かりやすいから、そのままバイクで登ってくれば良いのに。なんでわざわざバイクの警笛を鳴らしたりするの?」

「着いた合図にしては、長く鳴らしながら音が小さくなっていった様に思います。何かあったのでしょうか?」

「何かあったのかも知れないね。優衣、ちょっと見に行こうよ。亜香里は、その足だと夜は危ないから、ここに居て」

「了解です。食べ終わったら、ベッドのある部屋を探してみます」

「亜香里さんはギブスを付けたばかりですから、無理しないで下さいね。インターカムを付けて行きますので、何かあったら連絡してください」

「分かりました。今日は散々二人に迷惑をかけたので、自重して行動します」

 亜香里はそう言いながらまだ、ホーキーポーキーを食べ続けている。

 詩織と優衣は食事をした部屋を出て、医務室で見つけた非常用ライトを持ち、『エルロンドの館』から警笛が聞こえた川の方へ下って行った。

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