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128.篠原家でのお話 その3

 篠原家での午餐が終わり、部屋の壁際に飾ってある数々の美術品のうち、詩織が日本刀に興味を持ち、篠原昭人氏から由来の説明を受ける。

 説明している途中で、篠原昭人氏が思い出した様に言う。

「そう言えば、皆さんが蔵に入った後、蔵にあった刀剣の何本かが失くなっていたのを思い出しました。『組織』が勝手に調査で持ち出したのかも知れませんね」

 それを聞いて、詩織が(アッ、ヤバ、忘れてた)思い出す。

「篠原さん、スミマセン。あの時、二〇一〇年の世界に持って行き、そのままにして帰って来ました」


「なるほど… 皆さんが変な宇宙人と戦うときに持ち出したのですね。であれば問題ありません。藤沢さんが持ち出した刀剣の内の一本が、銃砲刀剣類登録証の無いままのものだったので、そのまま誰かが持って行ったらまずいなと思ったものですから。『世界の隙間』に忘れてきたのであれば、問題ありません」

 それでも詩織は『大切な刀を無くして申し訳ありません』と頭を下げていた。

 優衣が2人の間に口を挟む。

「詩織さん、蔵に入っている刀はどれもそんなに価値のあるものではありませんから大丈夫ですよ。あのあと翌週末に来ていただいたとき、詩織さんが竹を斬りたがっていた、あの刀に傷がついたりしたら、まずかったのですが…」

「そうだ! 篠原さんにあの刀のことをお聞きしようと思っていました。蔵に入った翌週にお邪魔した時、別の部屋に飾られていた太刀がとても綺麗で振った感じも良くて、思わず試技をしたくなり、優衣さんに止められて留まったのですが、自宅に帰ってから調べて見ると、三日月宗近にそっくりだったのです。まさか本物ではないですよね? 国宝ですし」

「そのことは優衣に聞きました。藤沢さんは道場で真剣も振られるそうで、そのような方には刀の良さが分かるのですね。仰るとおり三日月宗近は国宝ですし、東京国立博物館に保管されているはずですが、歴史のある刀ですから、本当に誰、というか何処の家が本来所有すべきものかとなると話は違ってきます」

「例えば、大英博物館に行ったことがあれば感じられたかもしれませんが、あそこに展示されている多くのものは、意地悪く言えば、大英帝国時代に余所の国から分捕ってきたものです。でもほとんどの国が『返せ』とは言いませんよね? 日本の美術品も浮世絵は有名ですが、あまり知られていないものとして数多くの印籠が、ガラスケースに展示されています。私は日本国内であれだけの数の印籠が一箇所で展示されているところを知りません。由緒ある品々というのは、それぞれの歴史によってその扱われ方が変わってくるものだと思っています」

「藤沢さんの質問から話の筋が逸れてしまいましたが、お尋ねになられた本物か否かの答えは保留ということにさせて下さい」

(えぇ! あれは三日月宗近だったの? じゃあ、博物館にあるものがレプリカ? うーん、分からない。でもやっぱり優衣ん家は謎だよ。あの時、もうちょっと刀を振っておけば良かったなぁ)詩織は驚き半分、残念半分である。

 篠原家が所蔵する美術品の説明を受けていると時刻は夕方になり、優衣がリハビリをする時間も近づいたので、亜香里と詩織は昼食のお礼を言い、篠原家を辞すことにした。

 篠原昭人氏から『またいつでも遊びに来てください。この様な家(古くて広い洋館)なので、皆さんに来ていただけると、雰囲気が華やかになって元気になります』という温かい言葉とともに、袋に入った小箱をお土産にいただき、二人はそれぞれの自宅へ帰っていった。


 篠原家を訪問した翌日、日曜日の夜、亜香里、詩織、優衣の3人は久しぶりに寮のジムに集まった。

 優衣のリハビリはとりあえず終わり、3人はメッセンジャーでやり取りをして一緒にトレーニングをすることになったのである。

「太宰府天満宮へ飛び立った日から数えると、2週間ぶりに寮へ戻ってきました。久しぶりに自分の部屋に入ってみたのですが、ホテルの様に綺麗に掃除されていて、部屋に置いてあったものも整頓されていました。この寮はそんなサービスもあるのでしょうか?」優衣が少し不思議そうな顔をして尋ねる。

「やっぱりそうなの? 私もオアフ島のミッションで1週間、部屋を空けて戻ってくると室内が綺麗なのよね。誰かが勝手に部屋に入ったのであれば嫌だけど、大事な私物も置いていないし、まあ良いかなと思っている」詩織はあまり気にしていない様子。

「廊下にいつもお掃除ロボットがスタンバイしているじゃない? 長く不在の時は、勝手に入ってきて掃除をしているんじゃないのかな? 私は寮に入ってからあまり外泊をしていないから、わからないけど」

「そう言えばそうね、新入社員研修が終わってこの寮に入ってから、亜香里は色々トラブルに遭っているけど、ミッションで寮に居なかったのは、京都の一泊二日くらい?」

「そうなんですよー、唯一の海外もみんなと一緒に行った、ゴールデンウィーク最後の一泊二日のスコットランド弾丸ツアーだし、詩織と優衣はハワイと上海に一週間でしょう? 私もどこかに行きたいなぁー」

「亜香里さん、ミッションは観光旅行じゃないのですよ。私も詩織さんも現地では、変なところに入って大変だったんですから」

「それはそうだけど、先週、ゆったりと行くはずだった慰安旅行(亜香里の中で慰労兼合宿は未だに慰安旅行。終わった事なのでどちらでも良いが…)も、あんな風に終わってしまったし。九州まで行ったのに日帰りで、ケガもしちゃうし」

 亜香里の頭のケガは縫わずに、医療用テープでの処置となったが、大事を取って(キズが残らないように)、額の生えにテープを貼っている。

「でも良かったじゃない? あのまま、あの世界から戻って来られなくなるより。3人とも五体満足で戻って来られたのだから」

「詩織さんの言う通りですよ。お二人にお世話になりましたけど、私もピンピンしていますし」

「そうそう、あの神社で私が気絶したあと、優衣が凄い能力を使ったじゃない? あのお侍さんたちはどうなったんだろう?」

 亜香里に言われて『ハッ!』とする優衣。

 意識が戻ってから、普通の能力者では使えない『death』を使ったと曖昧あいまいに聞かされて『お侍さんたちを殺してしまった』のかと、優衣はずっと気にしていた。

(優衣の顔を見て『優衣にそれを言っちゃあ、ダメだろう』と、気がつき詩織がフォローする)

「あの時、みんなが境内に倒れているところを最初に見たのは私だけど、お侍さんたちは気絶している感じだったよ。息をしてそうなお侍さんもいたし。『組織』のA Iが物騒な判定をしたみたいだけど、そもそも誰も見たことのない能力だかあね、気にすることはないよ。百歩譲ってA Iの判定が正しかったとしても、あそこにいたお侍さんたちのほとんどは、可哀想だけど西南戦争が終わるまでの戦いで、命を落としているしね」

「そうなんですね。あそこにいたお侍さんたちは、歴史の上ではあのあと、ほとんどの方が亡くなられたのですね」そう言いながら、優衣は手を合わせていた。

「まあ、それで歴史が流れていくのでしょう? 私たちは明日からまた仕事が始まるし、とりあえず目の前にあることに取り組んで、明日に備えましょう」

 亜香里の建設的な意見で、3人はトレーニングを再開した。


 翌朝、詩織と優衣が駅で電車を待っていると、ホームから見える公園の中を突っ走ってくるスーツ姿の女性がいる。

「あれ、たぶん亜香里さんですよね?」

「たぶんじゃなくて、間違いなく亜香里よ。昨日ジムで『明日に備える』とか言ってなかったっけ?」

「言っていました。亜香里さんは備えすぎて、寝過ぎたのでしょうか?」

「人はそれを『寝坊』と言います。社会人になってからもうすぐ4ヶ月だけど、亜香里の寝坊だけは研修の時から変わらないね」

 暫くすると、電車がホームに入って来てドアが開くと同時に、ホームを駆け上がって来た亜香里は電車に飛び込んだ。

「セフ、セフ、アーッ、朝から疲れたぁ」

 詩織の肩に手を掛けて、下を向いてゼーゼー言いながら呼吸を整えている。

「亜香里が朝から走るからよ、その寝坊は何とかならないの?」

「何回も言ったと思うけど遺伝だから遺伝子治療をしなければ治りません」

「じゃあ、『組織』にお願いして何かやって貰う?」

「それはちょっと嫌かな。この前の一件で『組織』をあまり信用するのはどうかな?と思うのよね」

「そうですよ、父も『今まで通りに協力はするけど、場合によっては少し距離を置いた方が良いのかも知れない』と言っていましたから」

「まあ、今後の成り行き次第ということで」

 いつもの亜香里の『何とかなる的』発言で会話が終わり月曜日朝、会社へ向かう3人だった。

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