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122.『世界の隙間』の負傷? その1

『組織』の日本本部、東京日本生命損害保険株式会社の本社があるビルの最上階で、行方不明になっている亜香里たちの実質的な捜索本部となっているミーティングルームのスクリーンに、アラートが表示され警告音が響き渡る。

 ミーティングルームに詰めていた江島氏が顔を上げ、目の前のスクリーンを見ると『組織』の高域レーダーが、亜香里たちが『世界の隙間』に持ち込んでいたマジックカーペットの現在位置を捉えて場所をマップに表示し、亜香里たちの居るところから最も近くにあるウェッブカメラが3人の姿をスクリーンに映し出した。

 ウェッブカメラから3人の居る場所は遠く、デジタルで拡大して補正を施しても3人の様子は、はっきりとは分からない。

 楼門の二階で鉢巻きをした巫女、巫女を背負った巫女の3人の形がぼんやりと見えるだけであった。

 江島氏はスクリーンで様子を確認しながら、スマートフォンで小林亜香里に電話を掛けると、スクリーン上で鉢巻きをした巫女がスマートフォンを取り出している。

『江島です、小林さんですか? Webカメラでそちらの状況を見ています。背負われている人がいる様ですが、大丈夫ですか?』

『何とか戻って来ましたが、大丈夫ではありません。詩織に背負われているのは優衣です。『世界の隙間』で意識不明になったままです』

『分かりました。その場にスペースがあれば、マジックカーペットで光学迷彩を起動させてその中で待っていてください。直ぐに救助に向かわせます。ところで小林さんは、なぜ日の丸鉢巻きをしているのですか?』

 『エッ! 日の丸? アッ! そっかー…、頭から血が出て、詩織が手拭で縛ってくれたのです』

『エッ! 大丈夫ですか? いずれにせよ、直ぐに救助に行かせますので、少しの間、待っていて下さい』


 江島氏は亜香里との電話を切り、本居里穂たち世話人3人が未だ、この世界の博多に居ることを確認して本居里穂に電話をする。

 1コールで里穂が電話に出た。

『本居です、小林さんたちの捜索に向け、必要なものを調達中ですが、何か緊急な連絡でしょうか?』

『江島です、小林さんたちが(現在に)戻ってきました。場所は人吉の青井阿蘇神社です。小林さんが頭を負傷して血を流しており、篠原さんが意識不明です。エアクラフトで至急救助に向かい、寮の医務室へ運んで下さい。私も直ぐに向かいます』

『エェッ! はい! 分かりました。至急、向かいます』

 本居里穂、香取早苗、桜井由貴の世話人3人は、太宰府天満宮での打ち合わせで『焦らずに構えよう』となり、食べられなかった昼食の栄養を補給するためにエアクラフトを天神中央公園に着陸させ(光学迷彩のまま)、天神で早めの夕食を取り、明日からの捜索に備えて衣服や備品を調達しようとしているところであった。

 里穂の直ぐそばにいた、早苗と由貴も江島氏との電話を脇で聞いていた。

「緊急事態です! 亜香里さんたちが重傷です!」

 里穂の言葉に今までのゆったりモードから、三人はミッション遂行モードに戻った。

「「「 急ごう!!!」」」と声を上げ、週末で混み合う天神の街を天神中央公園に向けて走り始める。

 走りながら、里穂が不安げな顔で言う。

「小林さんが頭から血を流しているって…、何かと戦ったのかな?」

「篠原さん、先週は上海で未来のロボットと戦ったけど、今度は何があったの?」

 由貴は2週連続『世界の隙間』で能力者補の篠原優衣を見失っており、世話人の能力者として自分自身が歯がゆいやら、悔しいやら、情けないやら、心配と不安も重なり複雑な感情が入り交じりながらエアクラフトに向けて走っている。

 繁華街を歩く人たちが驚いて振り返るほど3人は全力で走ったため、公園まで五百メートルの距離を2分足らずでたどり着くことができた。

 急いでエアクラフト2台に分乗すると、行き先は既に青井阿蘇神社へセットされている。

 エアクラフトのフードが閉じ、起動中の光学迷彩に加えステルス機能も稼働し、一直線に人吉を目指す。

 途中で江島氏から追加情報が入り、香取早苗が詩織に電話をしてみる。

「藤沢さん? 香取だけど、ウンウン、もうすぐそっちに着くけど、小林さんと篠原さんはどんな具合? うーん、そうかぁ、小林さんは大丈夫そうね。篠原さんは? あーっ…  分かった。直ぐ着くからもうしばらく待っていてね」

 早苗は電話を切り、溜息をついた。

「今の話だと、小林さんは『頭をチョットぶつけた』ぐらいの怪我みたいだけど、篠原さんはどうしちゃったのだろう? ケガは無いみたいだけど小林さんも藤沢さんも、篠原さんが倒れるところを見ていないから、どうして意識不明なのか状況が分からないそうです」

 早苗と一緒のエアクラフトに乗り、電話を横で聞いていた由貴は、ますます不安になる。

 直ぐにエアクラフト2機は、青井阿蘇神社楼門の前に着陸した。


 世話人3人はマジックカーペットを使って楼門の2階へ飛び、光学迷彩のままの亜香里たちがいるマジックカーペットへ入って行く。

 3人は、カーペットに横たわったままピクリともしない優衣と、頭に巻いた手拭に血で滲んでいる亜香里を見て、言葉を失う。

 気を取り直して(先輩能力者だし、会社の上司だし、と改めて自覚して)『とりあえず『世界の隙間』から戻って来られて良かった』、『直ぐ東京に戻って治療を受けられるから』と言いながら、自分たちも気持ちを落ち着かせようとしていた。

 6人は2つのマジックカーペットに別れて乗り、そのままエアクラフトに乗り移った。

 一機は意識不明の優衣と世話人の由貴、優衣を背負っていた流れで詩織、もう一機は亜香里と里穂、早苗の組み合わせ。

 東京へ戻る途中で『組織』は亜香里たちが『世界の隙間』に持ち込んだ『組織』の各種ツールが記録した活動状況のデータを、エアクラフト経由で通常のミッション以上に事細かく収集し、行動記録として再構築していた。

 三十分ほどで2機のエアクラフトは、寮の駐機場へ到着した。

 機内に到着のサインが出てフードが開くと駐機場のドアが開き、江島氏と初めて見るマスクをして白衣を着た男性2人が、ストレッチャー2台を押しながら駐機場に入って来る。

「みなさん、お疲れ様でした、さっそくですが、小林亜香里さんと篠原優衣さんをストレッチャーに載せて、2階の医務室まで運びます。手伝いをお願いします」

 江島氏が依頼すると、世話人3人が手際良く2人をストレッチャーに載せる。

 亜香里は(大したことないから、そういうのは良いんだけど)と思い「私は頭をチョットぶつけただけなので、大袈裟にしなくても大丈夫です」と断ろうとしたところで、白衣を着た男性の一人から

「頭から血を流すような怪我をしている能力者は、まず精密検査と絶対安静が『組織』の基本です」と諭されたため、亜香里は黙ってそれに従った。

 エレベーターで2階に降り、亜香里と優衣を載せたストレッチャーは、別々の医務室に入り、それぞれの部屋に白衣の男性(医者?)が入り、付き添いは各室1名のみとなったため、二人の世話人、本居里穂と桜井由貴がそれぞれの部屋に入室した。

 廊下に残った藤沢詩織、香取早苗に江島氏が声を掛ける。

「精密検査の結果が出るまで少し時間が掛かると思います。戻ってきて早々ですが、ミーティングルームまで来てもらえますか?」

 2人とも疲れてはいるものの、廊下で診察結果を待つのも心配なだけなので、江島氏の申し出を了解した。

 江島氏と詩織、早苗はエレベーターで十階へ戻って行った。

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