第九話 出発した!
途中物凄いハプニングに襲われたが、何とか終わった親善試合。
大分時間が経っており、今日はそのまま魔王城に泊まることになった。
夕食は豪華な広間で魔王と幹部と僕達パーティーを交えて行われた。
座る順番はメチャクチャでミオの隣はミリル、その隣は魔王。
元々の僕を強引に代わらされた。
僕の右隣にはレンが居て、左隣にはムーちゃんがいる。
両手に獣人だ!
ゴブモンの隣にベリオルさんが居てあとはランダム配置だ。
「さ、ささ。これなど如何ですか?魔物の中でも極上の味と言われているオークキングの霜降り肉です!」
「あ、ありがとうございます。っ!美味しいです!」
「っっ!なんて表情を…。オークキングの養殖計画を立てねば!」
魔王の暴走が留まるところを知らない。
最初に見たときの威厳は最早木端微塵だ。
他の連中も和気あいあいと会話している。
元からこんな感じにはとても見えなかったが、良い方向の変化だと思いたい。
流れで幹部から外れることになったカラスとタマは、他の幹部連中と別れの挨拶をしており、ゴブモンはベリオルさんから熱心なスカウトを受けていた。
途中、ティアラートさんがムーちゃんに母性本能を刺激されたらしく、ライカさんと同じ状態に陥っていた。
そんなこんなで人間観察をしていた僕だが、ふと隣を見るとレンが食事していなかった。
「どうした?食べないのか?」
「…あんまり食欲がない、…胸も苦しくて」
まださっきのを引き摺っているのだろう。
最初の戦いであれでは確かにトラウマになりそうだ。
「それじゃあ、もっと楽しいことを考えようぜ!そうだな…自分が今したいことを優先させてみたら楽になるかもしれないな!」
「…今したいこと…」
気持ちを楽にさせたかったから言ってみたら、レンは僕の腕にくっついて来た。
「?」
余計に混乱させちゃったかな?しばらくは気にしておいてあげよう。
食事が終わるまで、レンはくっついたままだった。
ミオは魔王がミリルに手を出さないように威嚇しつつ、オークキングの霜降り肉を食べ続けていた。
その後、大きなお風呂で汗を流し寝る時間になった。
やっと!やっとだ!狭いベッドや寝袋なんかで寝なくて良い、快適な睡眠だ!
一人一部屋の割振りだったが、ミリルはミオの部屋へ行き、レンとムーちゃんが同じ部屋、ゴブモンはレン達の警護の名目で部屋の扉の前で座って寝ることになった。
侍装束で刀を肩にかけ、座って壁に寄りかかっている姿を想像してしまった。
何それ!何かカッコイイ!
真夜中、僕がぐーすか寝ていると扉を叩く音で目が覚めた。
「誰ですか?」
こんな時間に誰だろうと思い声をかける。
「…レン」
何の用だろうと思ったが直ぐに起きてドアを開ける。
「どうした?」
「…一緒に寝たい」
まだ気持ちが沈んでいるのかもしれない。
そなまま二人で布団に入る。
「…ありがと」
「気にしなくていいよ、それより元気だせよ。何かレンに危害が及ぶような事があったら全力で守ってやるから」
殆ど被害がなかったとは言え、普通に考えたら全滅事案だ。
後からいちゃもんつけられても不思議ではない。
「今日は怖かったよな。頭撫でてやるから、安心して眠りな」
しばらくレンの頭を撫でていたが、途中で眠気に負け意識を手放した。
「…タクミ、好き…」
そんなレンの呟きが聞こえたような気がした。
朝目覚めるとレンは居なかった、部屋に戻ったのだろう。
元気になっていると良いけど…
皆を呼びに行こうと廊下に出ると、ティアラートさんに出くわした。
パジャマ姿のムーちゃんを抱き抱えている。
「あら、タクミ様。もうご出立ですか?」
「ティアラートさん、ムーちゃんを連れて何処へ?」
「ええ、今から私のムーちゃんを幹部に加えて貰うよう魔王様にお願いに行く所ですの」
突っ込み所が多いな…
私のムーちゃん!?
ハムスター獣人の子供が魔王軍幹部ってなんだ!?
強そうな魔族達が並ぶ中、ぽつんと立つランドセル姿のムーちゃんを想像してしまった。
あと、ムーちゃん!少しは抵抗しろ!
「!、…ふるふる!」
僕が表情だけで考えを伝えると、ムーちゃんは首を振り潤んだ瞳でこちらを見てくる。
ごめん、ムーちゃん!僕は無力だ…
そのままムーちゃんは連れ去られて行った。
最初に魔王が居た広間に皆が集まっている。
床は綺麗に直っており、元通りになっていた。
「ミリル嬢、もう行ってしまわれるのですね…。これは少ないですが旅の資金にされて下さい」
ミリルが大きな袋を受け取る。全部金貨だった!
「何かあれば直ぐに駆け付けますので、これも一緒に」
綺麗なネックレスをミリルの首に付ける魔王。
何でも、持ち主の位置が解るので『転移』で一瞬で来れるのだとか。
ミオと魔王に守られてるミリル、実は最強説!
「ムーちゃん!ママを置いて行かないで!」
一方こちらはティアラートさん。
勿論全力でスルーした。
「タマ!今度から語尾にニャだぞ!」
「えっ?私ですか?…わかったニャ…」
「我にも何かないのか?」
「そうだなぁ~、じゃあ語尾にカーな!」
「!わかったカー!」
ミオに無茶ぶりされて困っているタマと鳥類扱いなのになぜか嬉しそうなカラス。
「今のパーティーに不満は無いのか?それなりの地位を用意するぞ!」
未だにスカウトされているゴブモン。
「…ムフフ、タクミ大好き!」
そう言って僕の首に抱き付いているレン。
なんだこのカオス…
何とか終わった魔王城訪問、数々の問題を残しつつ出発した。
今はカラスの背中で次の目的地を決めている。
「モフモフと言えば!ウサギでしょー!」
「団員も増えたし、気を引き締めないと!」
「…スンスン、タクミの匂い大好き!」
「ティアラートママ…」
「貧しい人々を救いに行くでござる!」
「ターニャよ、今夜一杯やらぬか?カー」
「ええ、良いわよ!飲んで全てを忘れたいニャー」
誰でもいいから目的地を言え!
「よーし!わかった!先ずはウサギの獣人を仲間にする。ミリルは各個大隊隊長の振り分けを計画。レン!取りあえずお前どうした?ムーちゃん!お前の母親は一人だよ!ゴブモン!お前はもうゴブリンじゃない!カラスとタマ!僕もその飲み会参加したい!こんな所だな!」
「流石!私の彼氏だな!」
はっ!突っ込みが彼氏の必須スキルだったのか!?
そんなわけあるかーーーい!
何もしてないのに疲れたよ!
「ウサギの獣人って何処に居るのかな?」
「兎獣人の奴隷は、観賞用や愛玩用で価値が高いらしく、帝都などで取り引きされていると聞いたことがありますな。カー」
僕が周りに聞くと、カラスが答えてくれた。
困ったときのカーラス先生だね!
あと、語尾の意味が違う気がする。
「帝都…!我が同族を苦しめる元凶!この傷の恨みは絶対に晴らすニャ!」
タマはそう言うと顔にかかった半分の髪を持ち上げた。
顔半分が火傷で酷く爛れており、とても痛そうだ。
「『再生』」
「!傷が!!特殊な呪いで焼かれたから魔王様でも治せなかったのに…」
「痛そうだったから、勝手に治したけどダメだった?もしダメだったらまた戻すけど?あと語尾!」
「いえ…!と、とても嬉しいですニャ!」
「良かった!タマを傷付けた奴は許さねーから、安心しろ!あとモフモフさせて!」
「は、はい!喜んでニャ!」
タマの眼には涙が浮かんでいた。
帝都に移動中。
ミリルは他の獣人がモフモフされていても嫉妬しなくなったようだ。
軍団長の貫禄が出てきたね!
今はうんうん唸って編制を考えているようだ。
「おいレン!いつまでくっついてるんだ?」
「…死が二人を分かつまで」
それは結婚式の時の言葉だろう…
「…タクミ、タクミ!」
「何だよ!」
「…呼んでみただけ~♪」
レンがおかしくなっている。まあ、前からおかしかったが…
ミオに助けを求める。
「ミオ、どうにかして…」
「…ミオさん!タクミさんを私に下さい!」
「タクミはお前にはやれん!あと、お前にミオさんと呼ばれる筋合いはない!」
…なんだこの茶番は!
僕は諦めた。
「…えへへ、タクミ…」
甘えたいのだろうか?
僕はレンを隅々までモフモフした!
「…タクミ、テクニシャン」
やかましいわ!
ミオも何も言わないので、僕は気にしないことにした。
レンも元気になったみたいだし。