第六話 魔王に会った!
食事も終わり、トーカさん達とお別れすることになった。
「レンちゃん!あの男に何かされたらすぐに『通信』で教えてね!地の果てまで追いかけて制裁するから!」
トーカさんはそう言いながら別れる最後までレンをモフモフし続けた。
制裁って何されるんだろう…
ライカさんに至っては、ムーちゃんをずっと抱きかかえたまま、さも「家の子ですが、何か?」と言わんばかりに頑なにムーちゃんを離そうとしなかった。
トーカさん達はこの町にあと2、3日滞在し、出発するそうだ。
因みにトーカさん達の装備も僕が触れて強くしておいた。
ミオの説明を聞く限りでは余程の事がない限り死なない筈だ。
特にカリンさんの腕のジャラジャラとピアスは異世界に来てから全部新調したらしく、全部が強くなったのでミオに見て貰おうとすると「面倒くさい!」と言って匙を投げた。
あれが全部強くなったとすると、たぶん訳が分からないことになっている筈だ。
今度『通信』で聞いてみよう。
トーカさん達と別れ、街中を歩く。
「カラス探さないとな~」僕がボソッと言うと、
「これのお陰で大体の場所はわかるぜ」
そう言ってミオは自分の腕輪を見せてくれた。
「そう言えばそれ、すごい腕輪だったね」
竜族と戦わなくて済むとはファンタジーをぶち壊してるな。
「もうちょっと行ったら、あっ。いた」
ミオが見ているその先に件の人物がいた。
カラスの前には女性が2人立っており何やら話し掛けているみたいだ。
勿論、女の子相手にナンパしているようにしか見えない。
「おい!何ナンパしてんだ!」
ミオはカラスの肩に手を置くと、振り向いたカラスにガゼルパンチを喰らわした!
吹き飛ぶカラス!
カラスは腐っても竜族だ。それを吹き飛ばすミオの腕力は一体?
「なぜ!?」
カラスが女の子座りみたいな状態になっている。
何が何やら分からないと言った表情でミオに訴えた。
「スカウトしろとは言ったが、ナンパしろとは言ってない!
あと私の悪口を言ってた分だ!」
たぶん後半の理由が全てだろう。
「なぜ、それを!」
「お前の行動はお見通しだ。次変なことしたらアッシー解任だからな!」
「……わかった」
カラス的には解任された方が良いのだろうが。
カラスのこの前の腕輪の説明だと、腕輪の持ち主に付き従うのは名誉みたいなことを言ってた気がするが、ミオの文句を言えたり今も渋々承諾しているのを見ると、効果も余りあてにならないのかな?
もしくは最初からアッシー扱いしたのがダメだったのだろうか?
深く考えようとして止めた!
どうでもいいことに気付いたからだ。
だってカラスだし…
「それより今から魔王城に行くから、よろしく!」
「今から!」
カラスが驚いている。ミオの行動が早すぎるからだ。
僕でも早いと思う。
それから僕達は街を出て、カラスに乗って魔王城に向かった。
「まさかゴブリンを乗せる日が来ようとは…」
カラスにゴブモンを紹介した時は唖然としていた。
確かにドラゴンに乗るゴブリンは想像出来ない。
「あとどれくらいですか?」
「そうですな、2時間ぐらいで着くと思いますぞ」
カラスの背中ではミオがミリルに『覚醒』を使い、モフモフのベッドで寛いでいた。
『覚醒』さんも早く実戦使用されたいに違いない。
「…んー!」
レンは『覚醒』を拒否し、小さいまま大剣を持ちあげようと必死だ。
ムーちゃんとゴブモンはアイスソードの刃がカラスの背に刺さらないかヒヤヒヤしながら見守っている。
レンよ、それはたぶん物理的に無理だぞ…
せめて剣が軽く出来ればとふと思い付き、ミオに聞いてみる。
「ミオ、レンの大剣軽く出来たりしないかな?」
「んー、やってみる」
ミオがレンの大剣に手をかざし『抑制』と唱えた。
抑制?重さを抑えるってことかな。
「…軽い!軽いぞ!まるで羽のようだ!」
レンは水を得た魚のように元気になり、大剣を振り回し始めた。
危ないから!カラスの背中少しかすってるから!
こいつは本番でも仲間を巻き込む可能性大だ。
『抑制』の効果が切れ、急に重くなった剣とレンが一緒にカラスの背中から放り出されるハプニングもあったが、レンには良い薬になっただろう。
眼下の景色は目まぐるしく変わっていき、やがて大きな城が見えてきた。
王都の城よりも遥かに大きく壮大で、端から端まで何キロあるの?って感じ。
城の塗装も暗い色を使っているみたいで、全体的に雰囲気が暗い、夜になったら普通の人には見えなくなるのではなかろうか?
城の中を見渡すと色んなタイプの魔族が世話しなく動いている。飛行系の魔族もいたが、僕達が乗っているのは魔王軍幹部なのだから近付いて来る者はいなかった。
そのまま城の中庭みたいな所まで行って降りた。
「それでは作戦通りお願いしますぞ」
カラスはそう言って、竜人形態になった。
「りょーかーい!」
「あわわわ…」
「…つ、遂にここまで来たか。ま、魔王を倒し、み、皆の平和を取り戻す!」
「私はどうすれば…」
「何が起ころうとミオ殿は必ずやお守り致す!」
ミオにとっては魔王城も旅の一部でしかないのだろう、いつも通りに見える。
獣人三人は身を寄せあって震えている。
ゴブモンはミオの前に立ち、何があっても良いように備えている。
特に獣人三人の場違い感が凄い!
しかし震えながらでも虚勢が張れるレンには脱帽だ。
因みにお前、三日前は奴隷だったからな!
カラスが言う作戦とはこうだ。
カラスにそのまま一緒に付いて行っても怪しまれて囲まれるのがオチなので、カラスが捕らえた捕虜と言うことにして魔王の所まで連れて行って貰うことにしたのだ。
魔王からしたらカラスの裏切りになるのだろうか?
でも敵対するつもりもないから大丈夫だよね、
作戦は上手くいっており、カラスが時おり話し掛けられているが、「敵陣を抜け出す時に勇者を捕まえたので魔王様に献上する」と言って誤魔化していた。
「さすがカラカサス様だ!」
「よくぞお戻りになられました」
「なぜゴブリンが?」
「…なんだあの冴えない男は!」
最後のは誰だ!僕のことか!?
そして、豪華な扉の部屋の前に着いた。
玉座の間というやつだろうか。
「くれぐれも魔王様に無礼の無いようにお願いしますぞ」
「大丈夫!大丈夫!」
「あわわわ…」
獣人三人はびびって震えている。
「大丈夫だよ!何かあっても私が守ってあげるから!」
ミオが言うと大丈夫と思えてくるから不思議だ。
扉が開いたので中に入る。
異世界に最初に来たときの広間を思い出したが、やはりスケールが違った。
玉座までも300mくらいあり、天井も相当高い。
ここで集会でもするのだろうか?
玉座に近付くにつれて、部屋の両側にいる魔族の容姿が強くなっているように見える。
玉座のすぐ手前にいる魔族に至っては、もうお前がラスボスで良いじゃんって言いたくなるくらいだった。
肝心の魔王は人型タイプで、角や羽が生えたりはしておらず、普通の人間みたいに見えた。
もしかしたら三段階くらい変身するのだろうか。
そして玉座の前に着くと、カラスは足を折り膝を付いて話し始めた。
「魔王様!この度の失態、大変申し訳ありません!」
「良い。よくぞ帰ってきた、カラカサスよ!して、その者らは何だ?勇者と聞いているが…拘束しておらぬようだが?」
魔王は僕達を一瞥し、カラカサスに問う。
「い、いや…それが、その…」
矢継ぎ早に質問され、カラスが返答に困っている。
「魔王さん。カラカサスさんは今僕達が移動手段としてお借りしてまして、今日はそれをお伝えしに参りました」
僕は用件をそのまま伝えた。
敬語ってこんな感じだろうか?バイトとかしたことないので適当だ。
「「「「なっ!」」」」
魔王軍幹部らしき人達がかなり驚いている。
人族のアッシーになったと言うのだから当たり前だ。
「オレの耳が悪くなったのか?冗談にしては笑えんな。お前は戦力的には我が魔王軍のNo.3に入る猛者だぞ。それともそいつらがお前より強いのか?」
魔王がカラスを問い詰める。
「……………」
カラスが物凄い量の汗を流している。
カラスは悪くないから許して上げて!
魔王の言葉を聞き、周りの魔族達も僕達に警戒しているようだ。
「何か理由があるのか?…取り合えず試してみるか」
そう言うと魔王は指を僕達の方に向けた。
そしてその指が光ったかと思うと、光の矢が高速で飛んできて、
ミリルの左肩を貫いた。
「ああ悪いな、手元が狂った」
「あっ、ああ…」
ミリルが崩れ落ちる。
「ミリル!」
ミオはミリルを抱き締める。
「ごめんね!痛かったよね!ごめんね!」
守れなかったことに対してだろうか?ミリルに必死に謝るミオ。
「何かあるかと思ったが…拍子抜けだな。カラカサス!お前も腑抜けたか?」
「…………」
魔王のその一言で周りの魔族からも嘲笑が聞こえる。
カラスはまだ膝を付いた状態で固まっている。
僕は全く反応出来なかった。それだけあっという間の出来事だった。
魔族達の笑い声が聞こえる中、ミオがミリルを僕に預けて立ち上がった。
「あんた何してくれてんの?」