第五話 再会した!
今日の予定は、隣の街に寄った後、魔王城訪問だ。
王都から隣の街までは歩いて1時間ぐらいなので、現在街道を5人で歩いている。
『小説家を目指そう』では、異世界転移してから結構大変な冒険をする話も多いから、僕達はラッキーなのだろう。
クラスメイトの中には、パーティーで苦難を乗り越えたり、人々を救って英雄になったりする人がいるかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、街道から少し外れた所に魔物の死骸が数体ほど転がっていた。街道にも飛び散った血の跡が見られることから、ここで戦闘が繰り広げられていたのだろう。
ミオは興味本位で死体に近付いて観察している。
僕の彼女はグロいのも平気みたいだ。
獣人三人は怖がって近付かなかった。レンよ、お前は怖がってたらダメだろう…
「タクミ!タクミ!」
ミオが僕を呼んでいる。
ミオの所に行くと、近くに肌が緑色をした人型の魔物が横たわっていた。ゴブリンだ!
「こいつ、まだ生きてるっぽいんだけど」
よく見ると確かに傷は深く、全く動けない状態に見えるが息をしていた。
「ゴ…、ゴブ…」
ゴブリンが何か言っている。
「何言ってるか分かんねーな」
「『大魔導』に何かない?」
困った時の『大魔導』様だ!
「えーっと、あっ、あった!」
どういう仕組みなのかは解らないが何か見つけたようだ。
ミオはゴブリンに手をかざし、「『意志疎通』」そう言って魔法を使った。
「た、助けて…死にたくない…」
僕達にも分かる言葉になった。
ミオにどうしようか聞こうとしたら、すでに『再生』をゴブリンに使っていた。
「ミオ、ダメだよ!魔物なのに!」
僕が慌てて言った。
「だって助けてって言ってたし、別に何かされたわけでもねーし」
「でも、魔物は人を襲ったりする危険な存在なんだよ!」
僕はなんとかミオを説得しようとした。
「うーん。なあ、お前は私達を襲うのか?」
納得していないミオはゴブリンに直接聞いた。
ゴブリンは、『再生』で元通りになった自分の体を見ていたが、急に話し掛けられて慌て返事をした。
「い、いや。命を救って頂いた恩人を害するつもりはござらん」
『意志疎通』の力かこのゴブリンが頭が良いのかは分からないが、難しい言葉を平気で使っていた。
「ほら!やっぱり、悪いやつじゃないじゃん!」
ミオが得意げに言う。
「だが、確かに先程は人が乗っている馬車を襲っておった」
「あ、そーなの?まあ良いや、死にかけてたんだから、一回死んで生まれ変わったことにすればいいじゃん!これからは悪さするなよ!」
「拙者は他の生物を襲い、略奪する以外の生き方を知らぬ、ここで別れても生きてはいけまい」
しゃべり方が凄く渋い!
「それじゃ、私達の仲間にしてやるよ!助けちまったし、最後まで面倒みてやる!」
「良いのか?拙者はゴブリンだが…」
「コブリンもエイリアンもそんな変わんないだろ!エイリアン人気あるしな!…よく見るとエイリアンより可愛い顔してんじゃん!」
「えいりあんとやらはよく分からぬが…。改めてお礼を申す、助けて頂いて感謝致す。これからはミオ殿への忠義の証として、この命尽きるまでお仕え致す!」
お前武士かよ!
「おう!よろしくな!」
途中から話に入れなかった…。
それにしてもミオさん本当に男前!僕も見習わないといけない!
ミオにとっては人とか獣人とか魔物とか関係ないのだろう。
自分の気持ちに正直に、裏表ない感情でぶつかってる。
僕は改めてミオに惚れ直した。
そして、仲間になったゴブリンを獣人達に紹介。
「お前、名前は?」
「生憎、拙者は名前を持ち合わせており申さん。」
「ん~、それじゃあお前の名前は、ゴブリンだから『ゴブモン』な!」
ゴブリン+ゴエモンかな?
ミオが命名したかと思うと、ゴブモンの体が光だした。
光が収まると侍の装束に身を包んだゴブモンがいた。
まあ、拙者とか言ってたしね。背も大分伸びている。
ミオが命名したから、魔力で進化したのかもしれない。
獣人三人も最初の戸惑いはどこへやら、身綺麗になったゴブモンを見て感嘆し話しかけたりしていた。
ついでにミオにゴブモンを調べてもらった。
『ゴブモン』
ゴブリン侍:ゴブリン種ユニークモンスター
総合ランクA
スキル:『無音の居合い』
加護:ミオの加護
ついでに『覚醒』もしてもらった。
『ゴブモン』
ゴブリン大将軍:ゴブリン種スペシャルモンスター
総合ランク:SS
スキル:『無為無明』『仕事人』『殺陣』『騎乗・馬』
加護:ミオの加護
『無為無明』
生きるとは煩悩であり、変化である。自然の流れに身を任せ、迷いを捨てよ!状態異常無効、必中付与。
『仕事人』
貧しい者達の無念は必ず果たす!低報酬のクエスト達成率100%。
『殺陣』
敵に囲まれるほどステータスがアップ。最後の一体を倒すまで効果持続。絶対回避、絶対切断付与。
『騎乗・馬』
馬に乗る場合、自由自在に乗りこなせる。
なんか色々混じってるなぁ~。
それにしても、『無為無明』と『殺陣』が強力すぎる!『覚醒』したら無敵モードだ。
『仕事人』も内容に寄ってはかなりデタラメだし。
明らかに僕より強い…無性に悲しくなった。
否!多分僕は今からの筈だ。頑張ればやれる筈だ。まだ頑張っていないだけなんだ!
僕は心の中で叫んだ。
新しい仲間を加え、漸く街に到着した。
門番が居て簡単なチェックがあった。
最初ゴブモンを見て驚いていたが、キッチリとした侍装束を身に着けていたお陰で使役モンスター扱いになった。
第一印象って大事だね!
街に入るとトーカさん達との待ち合わせ場所に向かう。
そう言えばカラスとどうやって落ち合うか考えてなかった…
まあなんとかなるだろう。
「街の真ん中の広場の噴水の所だっけ?」
「うん、そう」
この街も王都に近いことから結構発展しているみたいで、メインストリートの両側には店がずらっと並んでおり、屋台も多かった。
暫く歩くと噴水が見えて、こちらを発見したトーカさん達が手を振っている。
「お待たせー、イェーイ!」
「3日ぶりー、イェーイ!」
2人でハイタッチしている。テンション高いなぁー。
初対面ではないが説明しておくと、黒髪で知的な感じのギャルがトーカさん。ほわわんとして胸が大きい子がライカさん。アクセサリーをジャラジャラ身に着けて、ピアスもいっぱいつけているのがカリンさんだ。
3人とも三年生になってから知り合ったらしく、トーカさんは2年生まで委員長をやっており、ライカさんはイジメられており、カリンさんは不登校だったそうだ。
一体何があったのか気になる所ではあるが、まあミオと知り合ったからなのだろう、今ではメチャクチャ仲が良いみたいだ。
「こっちは人数が増えたから紹介しておくね」
「は、初めまして。ミリルと言います!キツネ族の獣人です」
「…Sランク冒険者のレン」
「ムーと申します。宜しくお願い致します」
「ゴブモンと申す。拙者、先程パーティーに加わったばかりだが宜しく頼む」
舐められまいと平気でウソをつくレン。だが相手側が誰もそのウソに気づかないので見事にスルーだ。
紹介が終わると3人から黄色い声が上がる。
「キャー!ちっちゃくてかわいー!」
「ペットみた~い!すご~い!」
「拙者とか言ってる!武士だ!武士!」
「…わぁー!冴えない男ー!」
最後の言ったの誰だ!僕のことか!?
「獣人ちゃん達モフっていい?」
トーカさんがミオに確認を取る。
「良いよー、モフモフ軍団を作る予定だからどんどん増やすよ。あっ、ミリルは私専用だからダメね!」
「ミオさん!♪♪♪~」
ミリルはふらふらした足取りでミオにモフられに行った。
さすが軍団長だぜ!
レンはトーカさんに、ムーちゃんはライカさんにモフられており、カリンさんはゴブモンの衣装や刀に興味を持って話し掛けていた。因みにレンは僕達と同い年だ!
「…くっ!殺せ!」
レンがクッコロをやっても、
「レンちゃん、かわいー!」
…全く通じなかった。
暫くしてモフモフタイムとトークタイムが終了した。
「…心までは屈しない!」
レンが急に叫びだしたが、
「よしよし♪」
またトーカさんに撫でられていた。
ムーちゃんはライカさんに抱きかかえられている。
カリンさんはゴブモンと意気投合し、二人で「イェーイ!」をやっていた。
馴染み過ぎだろ!さっきまで普通のゴブリンだったじゃん!
僕は気を取り直してみんなをまとめる。
「これからどうするー?」
「飯食おーぜ!」「良いねー!」「イェーイ!」
ミオの一声でまた盛り上がり、屋台に向けて歩き出す。
「肉食おうぜ!肉!」「たまには良いかもねー」「屋台興味あったんだよねー」
せっかくのチャンスが潰えた。だが僕は諦めない!
「トーカさん、ミオこっちに着てから肉しか食べてないんですよ!」
「ああ、私どれだけ食べても太らないから」
「は?」
「ミオの唯一のムカつくところね」
「そうだよ~」
「ずるいよなー」
それが本当だとすれば、ミオはずっとあのスタイルを維持出来るのか?
「ミオー、彼氏くんがエロいこと考えてるよー」
「「なっ!」」ミオと僕の声がハモった!
「まだはえーから!考えんな!」
「ひゅーひゅー」
「トーカ!」
僕は「まだ」の部分を脳内録音し、両手を組んで膝まずいた。
久しぶりに、異世界転移!ありがとう!!
屋台に着くと毎度恒例、僕は周りの屋台に声をかけ、通行人に向かって「大変だー!屋台の料理がタダになったぞー!早くしないと無くなるぞー!」と大声で叫び回った。
暫くすると人が増えて辺りは騒然となった。
「あんたの彼氏、毎回こんなことやってんの?」
余りの突然っぷりにトーカさんはビックリしていた。
「おもしれーだろ!」
「は、はは!確かに面白いね!」
食事中。
「ほら、レンちゃん。お口の横に付いてるぞ!」
トーカさんがレンの口を拭っている。
レンは少し抵抗したがそのまま口を拭いてもらった。
「ごめん、嫌だった?」
レンは軽く首を振って「…あ、ありがと」と呟いた。
「キャー!何この生き物!可愛い過ぎるんだけど!お持ち帰りしたい!」
「ダメだよ、レンはタクミ専属だから!」
ミオが余計なことを言う。
「!!」メチャクチャ睨まれている!
「違うよ!ミオが勝手に言ってるだけで…」
「…タクミに弄ばれた」
モフモフしただけだろーが!
「…一緒の寝袋で寝た」
お前のせいで眠れなかったよ!
「キッ!」音が出るような鋭い勢いで僕を睨む。視線は勿論氷点下だ!
僕の説得は30分ほどの時間を要した。
ムーちゃんはライカさんに抱きかかえられたまま「あ~ん」してもらっていた。
それで良いのかムーちゃん…
カリンさんとゴブモンはエールみたいなのを腕を互いに交差させて飲んでいた。
あー、あれ格好いいなぁ
余りにもカオスだったので僕の思考は現実逃避した。