第四話 『覚醒』を使ってみた!
武器屋を後にした僕達は、王都の道を歩きながら獣人三人の武器について話し合っていた。
「ムーちゃんの武器?はランドセルになってるから持ち運びは問題ないね。あと使うときはひと言かけてね」
殺戮機兵って説明があったし、命令次第で大変なことになりそうな気がする。
「承知致しました、タクミ樣」
さらっと樣付けしましたよこの子…。まあでも、義務や強制じゃないならいいか。
「ミリルのはなんと言うか…」
僕が言葉に詰まっていると。
「全然重くないので大丈夫ですよ!」
ミリルが鎌を片手で上に持ち上げて見せた。
ミリルは大丈夫かもしれないが、周りが大丈夫じゃないから!
今も僕の顔の30cmくらい先に何でも刈れる鎌の先がある。
「軽いなら扱うのは大丈夫か?」
「はい!昔は、バンバン刈ってましたから!」
雑草を刈る要領で魔物と戦えるのだろうか?
僕も戦闘用の鎌の取り扱いなんて調べたことないから全く分からない。
「じゃあ後は持ち運びだな…」
だが、なかなか良い案が思い付かない。
そうだ!
「助けて!ミオえも~ん!」
ぶん殴られた…
結局『大魔導』の四次元魔法で収納してもらった。異世界初日にプレゼントした扇も中に入れているらしい。どおりで今まで見なかったはずだ。
もうミオえもんで良いじゃん!
「後は、レンか。」
一番変なやつに一番危ない物を持たせている。
「…これは冒険者の宿命。甘んじて受ける」
「そうか、頑張れ…」
「…!!」
僕がスルーするとレンは慌てて首を振って「なんで!」って顔で訴えてくる。
「バカなことやってないで素直に頼めよ…」
ミリルの鎌と違ってレンの大剣の重さは変わらないのだろう、重くて堪えきれなかったらしい。
「あと大剣の固有スキルは絶対に使うなよ!絶対だからな!」
『絶対零度』なんてもの使ったら周りにどんな影響が出るか分からない。
「…それはフリ?」
頭を叩いておいた。
こうして身軽になった僕達が次に目指したのは、王都の城壁の外にある草原だ。
獣人三人はこのままじゃどっちみち戦力にならないし(殺戮機兵は除く)、ミオに試して貰いたいことがあったからだ。
草原に着くと早速ミオにお願いする。
「この子達に『覚醒』を使ってみてくれないかな?」
「いいよー」
とりあえず一人ずつだ。
まずはミリル、ミオが『覚醒』を使うとミリルの体が光だした。
光が収まった後に現れたのは、大人の体になって尻尾が9本になったミリルだった。
胸がはち切れんばかりにたわわになり、体の凹凸がハッキリしていてとても扇情的だ!
「これ、私ですか?」
ミリルは変わった自分の姿に驚いて全身を確認している。
レンとムーちゃんも「「おー!」」とミリルの変化に釘付けだ。
ミオのリアクションが無いのでミオの方を向くと。
「…………」
立ったまま気絶していた!
慌てて起こす。
「モフモフのソファー!モフモフのベッド!夢のモフモフ生活!!」
手をワキワキさせてミリルに近付いていく。
「ミオさん!…嬉しい!」
ミリルは顔を染めてモジモジしている。
こいつはもうダメだ!
しばらく、いや、結構な時間モフり続けてようやくミオの衝動が収まった。その後、ミリルから「ぷしゅー」と言う音と共に白い煙が出てきて煙が晴れると元のミリルに戻っていた。
効果時間は30分程度か、それだけあれば戦闘には問題無さそうだ。
次はレン、光のあとに現れたのはスレンダーな美人さんだった!
「…???」
だが当の本人は自分の胸の部分をしきりに触って驚いていた。
「…『覚醒』してない?」
僕はレンに近付いていって肩に手を置き、とびきりの笑顔でサムズアップしてやった。
…怒ったレンとしばらく追いかけっこした。
最後はムーちゃん、前の二人とも大きくなったので、今度も大きくなるかと思ったら逆に小さくなってた。
しかもすぐにミオの背に隠れて、プルプル震えている。
小さくて臆病…、ロボロフスキーハムスターか!
なんか嫌な予感がして、元に戻った後にもう一回『覚醒』したら、チャイナ服を着ていた…、チャイニーズハムスターだね!
種類ごとに固有技とかあったら良いんだけど。
何か出来るか聞いたら、腕をくるくる回して演舞を始めた。
まさか辟掛拳か!対戦ゲームとかだと格好いいよね!
拳法で魔物と戦えるかは謎だが…
全く戦力の確認は出来なかったが、『覚醒』が有効なことは分かったので良しとしよう!
あの後、レンがミオに必死に訴えていたのが涙ぐましかった。
ミオは『覚醒』の効果時間が延長出来ないか徹底的に調べるらしい、「夢のモフモフ睡眠!」だそうだ。
結構な時間が経っていたので夕飯を食べることにした。
多数決でまたもや屋台の肉に決定。早急に肉食以外の仲間を増やさないといけない。
「よし、テメーら!宴の準備だぁ!」
毎度同じく通行人を巻き込んでいると、どんどん人が増えて大宴会に発展した。
結局、魔王城には明日出発することなり、また『黒猫亭』に泊まることにした。
勿論2部屋案は却下され、1ベッドに5人だ!
だが僕も何も考えてなかったわけじゃない、どさくさに紛れて寝袋を買っていたのだ!
今日こそは普通に寝るぞ!
寝袋の準備をしていると、ミオがトーカさんと連絡をとっている所だった。スピーカー状態なのか、こちらにも声が聞こえてくる。
「まだトーカ達街に居んの?」
「お金いっぱいあるじゃん、色々不便っぽいから便利グッズでも揃えようってことになってんだよね」
「明日そっちの街に行くから会おーぜ」
「いいねー、進捗報告もよろー」
「進捗?」
「彼氏樣とのラブラブ進捗!」
「ば、バカ!なんもねーし!」
ミオはああ言っているが、腕を組んだりしたので僕の中では少しずつ進んでいるのだ!
「あんまりモタモタしてると誰かに取られっぞー」
「そ、そうかな?」
よし!レーカさんどんどん言って!
僕が一人で盛り上がっていると。
「んなことより、今日すっげーイケメンに逆ナンされてさー、団員になってくれないか?とか言ってきてー、イケメンだったからお茶だけすることにしたんだけど、前の上司の愚痴とか新しい上司の文句しか言わないからしらけちまってさー」
なんだか不穏な空気になってきた。
「そいつ、どんなカッコだった?」
「全身黒尽くめで、なんか肌は鱗っぽい感じだった。話し方も我が~とか言っててちょーウケた」
はいビンゴ!
その後、「じゃあまた明日なー」と言って電話は終了した。
「あいつ、殺す!」カラスの明日はどっちだ!
真夜中、余りの暑さに目が覚めた。
一人で寝てた筈なのに寝袋の中に何かがいる。
「!!!」
一気に鳥肌が立ち、冷や汗が出てきた。
恐る恐る寝袋を抜け出し、中を確認する。
レンだった…
「お前、何してんだ!」
「タクミうるさい…」
寝惚けたミオに怒られた。
「おい、起きろ」
小声で言って、体を揺する。
起きたレンは自分が寝袋にいるのを確認し、僕を見上げてこう言った。
「…私が転移魔法を?」
イラっとしたので、僕は無言で寝袋の紐を上まで全部締めて放置した。
しばらくすると寝袋ごと暴れだしたので解放してやる。
改めて理由を聞くと「…そこに隙間があったから」と登山家みたいなことを言いだした。
そう言えば、フェレットはちょっとした隙間があると入り込むんだよね!
結局その後、2回も寝袋に進入してきて殆ど眠れなかった…
朝、ミオに寝袋でレンと2人で寝ているのを見られた。
「ミオ!誤解なんだ!」
慌てた僕の第一声が浮気がバレた時の言い訳みたいになって、
「…タクミの匂い、好き…」
レンが寝惚けて変なことを言い出し、
「えっ、マジで!」
ミオが僕の胸に顔を近付けて鼻をスンスンするので、ドキドキして顔が真っ赤になったりした。
何が言いたいかと言うと、寝袋は封印した。