第三話 武器を揃えてみた!
今夜も寝苦しくなるかと思っていたが、逆にヒンヤリとした感じで快適だった。
朝目覚めるとイケメンが僕にくっついて寝ていた。
「うぉーい!」
変な声をあげて飛び起きた!
1つのベッドで5人は無理がある。僕が抗議の声を上げると、
「我も一緒に寝たかったのだ!」
お前は魔王軍幹部でドラゴンじゃないのか!
「仲間外れとかすんなし」
「団員同士仲良くしましょう!」
「…仲間外れ、ダメ!絶対!」
最後のやつムカつく。あと僕は団員じゃない!
「ぐぬぬ…」
「ぐぬぬって言ってるやつ、初めて見た!」ミオに笑われた。
今夜の対策を考えておかねば…
朝食は昨日と同じくまた肉屋台だ。最近肉しか食べてない気がする。
「おお!昨日の坊主達か。食っていくか?もちろんタダだぜ」
店主のお言葉に甘えて食べることにした。
「昨日はありがとうな!久しぶりに楽しかったぜ!最近は観光客も減っちまって屋台のやつらも頭抱えてたからな。イベントごとは大歓迎だ!」
屋台の前の道は結構賑わっており、これでも減ったのかと驚いた。
「何かあったんですか?」
「いや、オレも聞いた話なんだが、なんでもこの街の温泉の大元、源泉の量が減ってるらしいんだ。やっぱり客はちょっとした違いにも気付くんだろうな」
「ふーん」
「そう言えば、この街の名前をどこかで聞いたことがあると思っておったが、我が捕まる前の軍会議で名前が出ておりましたな」
「何の会議だったんですか?」
「確か、敵対諸国の弱体化で、遠方の都市や街には予め魔族を送り込み、侵略しやすいように妨害工作を行う作戦の会議だったと思いますぞ。何処に隠れているかは分かりませんが、昨日から魔族の気配がしておりました」
「ふーん」
さっきからミオの興味の無さが全開だ!
獣人2人と争うように肉を食べている。朝からよく入るなぁ…
「まあ、後で魔王城に行くから作戦中止を頼んでみよう!」
「無理だと思いますぞ…」
「坊主達の冗談はおもしれーな!」
冗談だと思われていた。その方が助かるけど。
朝食を済まし店主と別れた後、街の入口まで歩く。
「次の目的地ってどこ?」
「レンの希望の冒険者ギルドだけど、たぶん最初の王都にあると思う。それより冒険者登録に年齢制限とかはないの?」
異世界人達に聞いてみる。
「知りません」
「…知らない」
こいつ、知らないのに「冒険者になる」とか言ってたのか?
「確か、人間で言うところの15歳だったと思いますぞ」
さすがドラゴンなだけあって博識だ。
「竜人さん、ありがとう。で、レンは何歳なんだ?」
「り、竜人さん?」
竜人さんが首を傾げている。
あっ、そう言えばいつも僕の心の中でそう読んでただけで、まだ呼び方決まってなかったな。
「すいません、竜人さんの呼び方後で決めましょう」
「いや、我の名前はカラカサス…」
「カラスで良いじゃん!」ミオさん容赦ないですね。
竜人さんの呼び名はカラスになった。
「で、レンは何歳なの?」
「…18歳」
んなわけあるか!どうみても10歳以下だ!
「…イタチ族は子供の期間が長いから実際より若く見られやすい」
「レンさんは私よりずっと年上だったんですね、今までタメ口で話してしまってご免なさい」
ミリルが申し訳なさそうに謝った。
「…気にしてない、これからもタメ口でいい」
えっ、本当に?僕とタメか年上なのか?どうみても小学生くらいにしか見えないのに?
「…社長は私の体をモフるという口実で弄んだ。もうお嫁に行けない、社長が貰って欲しい」
「弄んで無いから!モフってただけだから!」
「ミリルは私のだから、レンはタクミの専属だな!」
ミオはモフることに関して物凄く寛大なようだ。
「私はもうミオさん以外にモフらせません!」
ミリルも勝手に決意していた。
かなり話を脱線させながら歩いていると、昨日温泉卵を売っていたハムスター少女が両親と思われる2人と門の手前で立っていた。
父親もハムスターっぽい容姿?だった。まあ、ハムスターもオスとメスがいるしね。
「昨日は娘が大変お世話になりました。今日はそちらの温泉卵を買って頂いた方にお願いがございまして」
「私?」
「はい!」
「娘が金貨を持って帰って来たときは、怪しい事件にでも巻き込まれたんじゃないかと心配しましたが、娘のことをたいそう可愛がって頂いたということで、雑用でも何でも構いませんので娘を旅にご同行させて頂きたいのです」
丁稚奉公みたいな感じかな。
「娘は大変器量良し、愛想良しで、温泉卵を売るだけの仕事で将来を決めてしまうのは本当に勿体なくて、家族で暮らすのが最善だとは思っているのですが、なにぶん昨日までは日々の食事代を稼ぐのも容易ではなかったのです」
売ってるの温泉卵だからなぁ。
「娘とは昨日の夜話し合いました。あなた様の所なら是非にということで、いかかでしょうか?」
「どういうこと?」
ミオが僕に聞いてくる。
「ハムスター少女を一緒に連れていってくれないか?だってさ」
「もちろん!」
決めるの早!
「あ、ありがとうございます!それじゃあ、ムーご挨拶して!」
「ムーと申します。これからよろしくお願い致します」
そう言ってムーちゃんは丁寧にお辞儀をした。
うーん。キツネとイタチとネズミって…仲良くやっていけるのだろうか?
ムーちゃんの旅立ちを見送るのを横目で見ていると案の定ミリルが落ち込んでいた。
「ミオさん、なんで…」
「ん?だって軍団なんだからもっと増やさないと!新入りの部下なんだからしっかり教育しろよ!」
「部下…」
「それに昨日も言ったけどミリルのモフモフ具合は別格だから、ちゃんと毎日可愛がってやるよ!軍団長だしな!」
ミオさんが男前過ぎる!
「ミオさん…、!!」
ミリルは涙ぐんでいた瞳を腕で拭うと、別人のような凛々しい顔でムーちゃんに近づく。
「ムー!今日からあなたの上司になる軍団長のミリルよ!しっかり教育していくから、ちゃんと着いて来なさい!」
「はい!」
「…ミリル、ノリノリ」
「もう訳がわからんのう」
カラスが代わりに言ってくれた。
そうして僕達はパーティーを増やし王都に向かって出発した。
門を通る時、門番の人が「お前ら面白すぎ!」と言って笑いを噛み殺していた。
その後、カラスが黒竜に戻ってムーちゃんが驚いたり、空を飛んでムーちゃんが驚いたり、時速300km以上のスピードでムーちゃんが驚いたりしてたら王都に到着した。
今回は流石にカラスを一緒に連れていくことは出来ないので、王都の隣の街でお留守番だ。
ミオから「軍団の団員をスカウトしろ」との命令が出ているので、頑張って貰いたい。
王都を出てからまだ1日しか経ってないので全然感慨深くはなかったが、僕の武器を買い忘れていたしちょうど良かったのかな。
門番の人に「途中で引き返してきたのか?」と問われたので、ターオの故郷に行って温泉に入ってきたと言ったら笑っていた。冗談だと思われたようだ。だがターオの代わりにムーちゃんが居ることに気付き苦笑いに変わっていた。
冒険者ギルドに向かって歩いていたら、ふと思い出した。
「先生はここに残ってるって言ってたけど報告とかいるのかな?」
「別に良いんじゃね、1日しか経ってないし」
確かに、その1日で魔王軍幹部を仲間にし、この後魔王に挨拶に行くとは言いづらい。
「それよりさ!たまにはカップルらしく腕組んで歩こーぜ!」
ミオは急に僕の左腕に抱きついてくる。
「ミ、ミオ?」
「これでも感謝してるんだぜ。異世界とか何も分からねーし、タクミが側に居るから笑って旅が出来てるんだと思う」
そう言ってミオは微笑んで僕の顔を見上げてきた。
タクミに10000のクリティカルダメージ!!
僕は立っていられなくなり蹲ってしまった。
「どうした?」
ミオが心配そうに顔を覗きにくる。
「………ミオの笑顔、反則級に可愛かった!」
「なっ!ななななに言ってんだよ!バカ!…バーカ!」
ミオは急に腕を離して、後ろにいるレンをモフり始めた。
照れ隠しだろうか。
「…解せぬ」
冒険者ギルドに到着!
王都の冒険者ギルドは「ザ・冒険者ギルド」という感じだった。
正面には受付カウンター、魔物の素材買い取りカウンター、依頼掲示板。
右手には酒場があり、複数のパーティーが昼間から酒を飲んでいた。お前ら仕事しろよ!
制服の男女二人、獣人の子供三人(一人は僕らと同い年)のパーティーだからもちろん絡まれました。
「おいおい、ここはお子様がくる所じゃねーぞ!」
「大人しく家でママの乳でも飲んでろー」
下品なヤジが飛んでくる。
あっ!先にミオに言うの忘れてた!
「あ~?」
すでにミオさんはブチギレていらっしゃった。
ミオの『支配』が自動で発動し、冒険者達はみんな恐慌状態になり地に平伏してしまう。『大魔導』で魔法陣が浮かんだかと思うとそこから生首が出現し、何やら詠唱を開始し膨大な魔力が生首の前に集中しだした。あれはヤバイ!本能で感じ取った僕は、
「ストップ!ストーップ!」
ミオの背中から抱き付いた。
途端にスキル共々全て霧散し、何もなかったかように元通りになった。
僕は急いでレンの手を引き受付カウンターまで行き、
「この娘が冒険者登録したいんだけど!」
と捲し立てたが、受付嬢が震えて「命だけは…」と懇願してきたので諦めた。
その後、ギルドマスターが出てきたが、元の世界の現国の山田先生に似ていたため(特に頭の登頂部が)、ミオが「現国の山田じゃん!先生もこっち来てたんだ!」と急にフレンドリーな対応をしたおかげで訳がわからなくなり、厳重注意ということで落着した。
結局、レンとミオと僕が冒険者登録して、冒険者カードを発行してもらった。冒険者カードは銀行のカードみたいな機能もあるらしくレンは早速昨日のあげた金貨を貯金していた。
「…ムフフ♪」
確かにフェレットは物を溜め込むクセがあるけどね。
余談だが、この日から冒険者ギルドには「新人冒険者に暴行や暴言を吐いた者は冒険者カードの剥奪、再発行不可!」という貼り紙が設置されることとなった。
冒険者ギルドを出た僕達は次の目的地、武器屋に向かっていた。
流石に最初に竜形態のカラスと会った時に武器が無いのは痛かった。戦わずに済んだけど、戦っていたらどうなっていたか分からないのだ。
「私もなんか探そ」
そう言って一緒に来てくれるミオはまた腕を組んでくれている。
久しぶりに、異世界転移!ありがとう!!
「まだ王都に残ってるやつ居るかもしれないね」
まだ城を出てから実質2日しか経ってないから十分ありえる。
「昨日トーカと電話したら、隣の街に居るってさ」
隣街と言えば、カラスが行った街じゃなかったか?
まあ、面識も無いし関わり合いにはならないだろう。
「武器と言えば、ミリル達にも買ってあげないとな!」
ふと後ろを着いてきている獣人三人に言ってみる。
「私達もですか?」
「…ミスリルソード」
「持っていてもまだお役に立てないかと」
ムーちゃんのしゃべり方は丁寧だな。誰かに見習わせたい。
でも確かにハムスターに武器は似合わない、ハムスターで連想するとひまわりの種、回し車、砂くらいだろうか。
遠距離はひまわりの種を硬化させ某海賊団の狙撃手のようにパチンコ攻撃、土系魔法で砂嵐を起こし、鋼鉄のボール型の回し車に自らが入り縦横無尽に駆け抜ける。ヤバイ、想像したら結構凶悪化してしまった。
大人しく短剣くらいにしておこう。
無駄に頭を使っていると武器屋に到着した。
こちらも「ザ・武器屋」と呼ぶに相応しく、
店の外には乱雑に安物の剣や槍が樽に突っ込んであり、店の奥には高そうな剣や槍が壁に並んでいた。
「おおー!」
思わず感嘆の声が出た。
でも実際に見るのは想像や映像とはやはり違っていて胸が弾んでしまった。
「男のロマンってやつ?」
「うん、そうかも。それじゃあ色々見てみようか?」
「賛成!」
「ミリル達も欲しいのあったら持ってきてね!」
僕は自分の武器を探しているが、お城での反省を生かし直接武器には触れないでおいた。
あの時みたいに武器が急に変化してお店の人に追及されても困る。代金を払えと言われたら尚更困る。お金はいっぱいあるけどね。実際に買うものだけ手に取るつもりだ。
再度集合したときに、
ミオの「当り外れがあったほうが面白い!」の一声でちゃんと確認せずに会計。全部で金貨15枚になった。
ちなみにミオの『神眼』が前から怪しかったので使ってもらうと案の定武器の名前や性能が解るようになった。多分『神眼』の能力はまだまだ序の口の筈です。
変化する前と後の武器の違いを書き出すことにした。
まずは僕、既に手に持っているので光って別ものに変わっております。
『イカサマ賢者のダイス』
ランク:S
ダイス3個を振って出た目によって魔法が発動する。
出目が大きいほど強力、ゾロ目が全体魔法、運任せなので使い勝手は悪い。
武器屋にサイコロ置いてあるから誘惑に負けてしまった。最初は1個だったんだけど。
「面白そうだな!」
ミオは気に入ってくれたみたいだ!
次はミオ、「シュシュがあったから選んだ」とのこと。
なんで武器屋にシュシュがあるの?
『守りの髪飾り』
ランク:B
状態異常の抵抗値を上げる(弱)
↓↓↓
『リボンシュシュ』
ランク:SSS
全ての状態異常無効。
「可愛くなった!タクミありがと!」
ミオは見た目重視だった!
次はミリル。
「昔手伝いで使ったことがあるのでこれなら使えます!」
『万能鎌』
ランク:C
錆びない、欠けない、汚れない、一家に一本重宝します。
↓↓↓
『刈り取るモノ』
ランク:SS
物体、霊体、空間、この世の全てを刈り取る鎌。時間は刈り取れない。
「当たり前だ!」思わず説明に突っ込んでしまった。
「大きいけど全然重くないです!1回でいっぱい刈れます!」
刈らないで!空間刈り取っちゃうから!
気を取り直して…レンの番。
「…念願のミスリルソードを手に入れたぞ!」
本当にミスリルソード買いやがった。
高かったのこいつのせいだ!
『ミスリルソード』
ランク:S
ミスリル鉱で出来た、純製品。切れ味、魔法伝導率も最高値。文句なしの逸品。
↓↓↓
『アイスソード』
ランク:EX
氷を操る伝説の魔剣。吹雪、雪崩は勿論、固有スキル『絶対零度』が使用可能。装備者は氷系の攻撃を全て無効化出来る。
メチャクチャヤバイのがきた!
「…念願のアイ…」途中で止めさせた。
「…な なにをする…」やめろ!
長さがレンの身長の2倍以上はあるがどうやって持ち運ぶ気だろうか?
結局、紐を付けて引き摺っていた。
そして、トリを飾りますのは~、ムーちゃんです!!
「皆さんのお役に立てるかわかりませんが…」
『石の自動人形』
ランク:C
石で作られたゴーレム。簡単な荷物運搬や作業に最適。休止時はレンガ1個分の大きさに変形。
↓↓↓
『キラーマシン改』
ランク:SS
高レベルの錬金術師が作った、主人の命令を絶対遵守する殺戮機兵。大幅な改造が施してあり、雷属性の弱点を克服した最新型。
なんか凶悪なのがキタ!
しかし、これこそどうやって運ぶんだ?
僕がムーちゃんに聞いてみると、ムーちゃんはマシンに話しかけた。
するとマシンは、不気味な駆動音を出しながら次第にコンパクトになっていった!残ったのは…ランドセル!
「ランドセルだ!懐かしー!」
ムーちゃんがランドセルを背負った姿は、勿論○学生だ!
武器の確認が済んだので出発した。
僕達の後ろには、大鎌を持ったキツネの獣人(子供)、大剣を引き摺っているフェレットの獣人(見た目子供)、ランドセルを背負ったハムスターの獣人(子供)がいる。
どうしてこうなった…