第二話 アッシーを手に入れた!
気を取り直して、僕達は朝食を食べ出発することにした。
ちなみに朝食も昨日食べた屋台の串焼きだ。
店主が「タダで良い!」と言ってくれたのでお言葉に甘えた。
ちなみに後で知ったが、金貨1枚で日本円で100万円くらいの価値だった。
街の門を抜ける時に門番の人に「魔王討伐頑張れよ!」と声援をもらった。
何で自分達が勇者だと分かるのかと思ったら、学校の制服姿だった!ついでに何も旅の準備をしていないことに気付いたが、今さら街に戻るのも気恥ずかしいし、ミオが「なんとかなるっしょ!」と言ってくれたので、僕もなんとかなるかもと思い始めたのでそのままにした。
何せ旅なんて修学旅行しか知らないからしょうがない。
街を出て1時間くらい経っただろうか、みんなで街道を歩いていると急に空が暗くなった!雲ひとつ無い晴天だったのにだ。
僕が空を見上げたので、みんなもつられて空を見る。
何か大きな物体が空を飛んでいるようだ。
それがだんだんと近づいてきて、その全容が分かる。
真っ黒い竜だった。
「は?」
僕は思わず声を上げてしまった。
僕達はついさっき始まりの街を出たばかり、ゲームで言うならレベル1だ。そして初エンカウントの敵と言えばスライムが妥当だろう。だが目の前には全長20mくらいの竜がいる。
「「「あわわわ!」」」
獣人三人は身を寄せ合い震えている。
そして僕はたぶんレベル1で装備品は高校の制服のみ。
この中で戦えるのはミオだけだが、当のミオは竜を見上げながら「おおー、すげー」と口を開けていた。
はい!無理ゲー!僕がそう思っていると、竜が僕を睨んで喋りだした。
「クックックッ。我を助けたのが誰かと思えば異世界からの勇者とは…魔王様に良い土産話になるな!」
助けた?何を言っているのだろうか。
「…人違いです。」
「?まあ、良い。お主らの首を手土産に魔王城に帰るとしよう!」
「トカゲがしゃべってる!タクミ、異世界ってすげーな!」
ミオさんが爆弾を投下!
「ト、トカゲだと!魔王軍幹部のこの竜人カラカサス様に向かって!絶対に許さん!」
竜人カラサカスさんは…?カラカラス?あーもう、竜人さんで良いや!竜人さんはミオを見据えた途端動きを止めた。
そしておもむろに自分の首と顔を地面につけ、羽全体ももこれまた地面にぺたーっとくっつけた。
「こ、これは!源竜の腕輪の持主様とは気付かず、とんだご無礼を致しました。平にご容赦下さいませ!」
突然の行動に開いた口が塞がりません!
ミオは「なにこいつ!ちょーウケる」と笑っていた。
本当に訳がわからなかったが、竜人さん曰く、ミオが装備している腕輪は『源竜の腕輪』というらしい。源竜とは竜に列なる存在の元祖になるらしく、それを装備している者には竜族の如何なる攻撃も効かず、敵意なんてもっての他、更に腕輪の持主の命令に準ずることが竜族にとって最高の誉れになるらしい。
要するに最強のドラゴンスレイヤーだ。
そんな説明を竜人さんから受けている最中、当のミオと言えば、
「ミリル隊長!ご命令を!」
「隊長って呼ばないでくださいよ~」
ミリルで遊んでいた…
そして、僕達は今空を飛んでいる。
展開が本当に早いと思う!
竜人さんから今後の予定を聞かれ、ターオの故郷を目指していることを話している最中に閃いてしまった、竜の背に乗って運んでもらえば早いんじゃね、と。
竜の背は以外と広く、僕達の周りに風避けの結界と足場を固定する魔法を使ってあるらしくなかなかに快適だった。
竜人さんは実際は魔王様にかなり不満があるらしく、移動中はずっと愚痴を聞かされ続けた。まあ、移動速度が時速300kmを軽く越えていたので、目的地まで30分もかからなかったが…
「それでは我は失礼する」
そう言って去ろうとする竜人さんをミオが呼び止めた。
「何言ってんの?あんた今から私達のアッシーになったから」
説明しよう!アッシーとは?ただの移動手段として扱われる体の良い舎弟である。
「しかし、我は魔王軍の幹部でも在るゆえ…」
それに被せるように、
「いやー魔王って野郎は最低のクズですよ!部下からの信頼無いの分かってないし、好き勝手命令して従わなければ即暴力!もうお前の時代は終わってんだよ!早く勇者にやられて地獄に落ちろ!バーカ!」
明らかに竜人さんの声だった。
「そ、それは?」
「さっきの移動中の会話をミオが『再生』してみました」
僕はしれっとした態度で言った。
「ミオの『再生』はまだ慣れてないから、何回かあなたにかけた『再生』もいつ発動するか分かりません。しかもこんなセリフ、怖くて魔王様に聞かせられないですね」
「・・・」
正直、魔王軍などどうでもいいのだが、ミオがアッシー任命してしまったので仕方ない。
「乗ってないときはこの丸いカプセルに収納な!」
ミオはどこかで見たことがあるようなカプセルを手に持っていた。
「いや、さすがにそれには入りません。人形態になりますので一緒に連れて行って頂けると」
そう言うと竜人さんは呪文みたいなのを唱え始めた。
唱え終わると、竜人さんの身体が光だし、収まった時には一人のイケメンが立っていた。
「すげーイケメン!」
ミオが興味津々だ。ぐぬぬ…顔では勝てないみたいだ。
僕が落ち込んでいると、ミオはそんな僕の方を見てから耳に手を当ててこそこそ話してきた。
「あんたは私の彼氏なんだから、もっと自信持てよ。それにアイツ元はトカゲだしな!」
そう言って、笑顔で僕の手を取り恋人繋ぎで握る。
顔が熱くなる。そうだ!僕はミオの彼氏なんだからトカゲなんぞに負けるはずはない!僕も手を強く握り返した!
「いてーよ!」
頭を叩かれた。
「隊長!みなさんもお元気で!」
「ターオまで!」
「…私が副隊長になるのか」
「ライオンもなかなかよかったよ!」
「ターオ!もう捕まるなよ。」
みんなでターオと別れを済ます。
あの後ターオを故郷の村まで連れて行って無事親子の対面を果たした。
よく考えるとターオと出会ってまだ1日も経っていないので、迷子を届けた感じしかしない。
獣人の村だったのでミオが半狂乱しかけていた。竜人さんに頼んで全力で羽交締めにしてもらって事なきを得た。
無事ターオを届けた僕達は次の目的地を相談していた。
「風呂入りたい!温泉!」
「改名を要求します!」
「…冒険者になる」
「魔王城に…」
分かっていたけどみんなバラバラだ!
特にレンの思考が読めない。
「よし!わかった!今日は温泉がある街で一泊する。ミリルは隊長で納得出来ないとなると…軍団長だな!良かったな大出世だぞ!あとなんだ?冒険者ギルドに行って冒険者登録して、その後魔王城に行って、魔王におたくの幹部をお借りしていますって挨拶しとかないとな。」
「『洗浄』と『乾燥』の魔法はあるけど、やっぱり風呂だよな!楽しみ!」
「!!!ち、ちが…」
「…ダンジョンのお宝で一獲千金」
「挨拶だけですか?魔王様に殺されるかも…」
そんなこんなで温泉の街「アダール」に到着。場所は獣人の村の村長に教えてもらった。
街の入り口には門番が居て、簡単なチェックをしていた。
「人間が2人、獣人の子供が2人、竜人が1人。って竜人!」
やっぱり竜人は珍しいみたいだ。それに言葉だけ聞くと、かなり変なパーティーだ。
門番の人に良い温泉宿を紹介してもらって、宿まで歩く。
さすがに温泉の街だけあって観光客も多く、屋台もたくさん並んでいた。
「肉食おーぜ!肉!」
「お肉がいいです!」
「…脂肪が少ないのがいい」
「肉が良いですな」
肉食多いな!よし!こうなりゃまた肉祭りだ!
僕は店主に金貨3枚を渡し、近隣の肉料理の屋台にも声をかけてもらった。
「皆さーん!今日の肉関係の屋台は全部無料でーす!好きなだけ食べてくださーい!」
通行人に向かって大声で叫ぶ!
その場は一時騒然となった。
食事を終えた僕達は、宿に向けて出発する。
「旨かったー!」
ミオも満足のようだ。
後ろでは、まだ肉の争奪戦が繰り広げられていた。
歩いていると、誰かに袖を捕まれた。
振り向くと籠を持った獣人の子供が見上げている。
「温泉卵買って頂けませんか?」
ネズミ?いや!これはハムスターだ!ハムスターの獣人だ!
僕でも可愛がりたくなる感じの愛嬌がある。ミオだとヤバイ!
「ミオ!」
そう言ってミオを見ると、金貨を握りしめたミオがハァハァ言っていた。
「彼女は奴隷じゃないから買えないからね!」
「そ、そんな!」
ミオが崩れ落ちた。
「ミオさん…」
ミリルが少し落ち込んでいる。
「…軍団長の座、危うし」
レンはミリルからポカポカ叩かれていた。
ミオが金貨1枚で温泉卵を全部買って、ハムスター少女をひとしきりモフモフしたあと、再出発。
落ち込んだミリルに対してミオが「でもやっぱりキツネの毛触りが最高だね!ミリル、今夜もよろしくね!」と言えば、ミリルは
「ミオさん!…はい!」と嬉し涙を流していた。
ミリル、…君は立派な軍団長だよ!
やっと宿に到着。案の定部屋は1つで、今朝のことを思い出しながらブルーになっていると、レンと目があった。
「…身の危険を感じる」と腕を抱いて後退りしやがったので、頭にきてさんざんモフってやった。
温泉を堪能し、その後はミオのモフモフタイム。ミリルがミオに甘えてたりしてたのでこちらは大丈夫だろう。
「…辱しめを受けたので慰謝料を要求する」
レンが変なことを言い出した。
「レンはモフられ軍団の副軍団長なんだから、それが仕事だよ。」
「…私の肉球にあんなことしておいて!このケダモノ!」
獣人にケダモノ呼ばわりされてしまった。
まあでも、レン達獣人には新しい服とか必要な物を揃えてあげないといけないな。
「じゃあ、これが初任給だよ」
そう言って金貨1枚を手渡した。
レンは驚いた顔で暫く固まっていたが、急に土下座しだした。
「…社長!一生ついていきます!」
誰が社長だ!