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IL FALCO NERO 〜黒い隼〜  作者: 新駒直胤
熱帯の皇女と隼
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神の業、人の業

ファルコは、一度「グランデ・アモーレ号」の上空を通過し、モールス信号で情報を交換していた。

 近くの島の、情報を漏らす心配の無い老人が経営する飛行場に降り立ったファルコは、すぐ近くの海岸に着水したスコーピオン団の飛行艇のもとに向かった。

 海岸には、ラウェーンワンラー姫、スコーピオン団ボス、そしてその部下が待っていた。


「サソリ、何もしなかっただろうな?」


 ファルコは軽くスコーピオン団ボスを睨んだ。


「莫迦野郎‼︎ 俺たちゃ空賊、そんな女々しいこたぁ、断じてしねぇ‼︎」


 ムキになって反論するスコーピオン団ボスに、ファルコは、お前等のそういうトコ好きだ、と言わんばかりの笑顔を見せた。そして、手袋を取り、ラウェーンワンラー姫の近くまで歩み寄ると、跪き、深々と敬礼した。


「私はファルコ・ネーロ。お目にかかれて光栄です、殿下」


 ファルコの敬礼に対し、ラウェーンワンラー姫は、とても気品溢れる返答をした。


「こちらこそ、ファルコ・ネーロ様。これからの道中、宜しくお願い致しますね」


「はっ」とファルコは答えた。その姿はまさに、寝物語の姫と騎士だった。




 海岸と飛行場はまさに目と鼻の先、100mも離れていない。島には飛行場経営者の老人以外、犬と鳥ぐらいしかいないので、万が一の心配はない。ファルコ一人の護衛(エスコート)で十分なのだが、何故かスコーピオン団の連中が「暗殺者(ヒットマン)がどこかにいるかもしれん」とのことで、ゾロゾロと、ファルコとラウェーンワンラー姫の周りを囲むようにしてついて来た。呆れたものだ。

 飛行場に着くと、経営者の老人が、(何処から手に入れて来たのかは判らないが…)真っ新で綺麗なマフラー、手袋、飛行帽にゴーグルをラウェーンワンラー姫に献上した。姫はとても嬉しそうな様子で、献上されるなりそれらを身に付けた。献上品を身に付けた姫は、おそろしく可愛かったので、スコーピオン団団員の数名が失神した。そういうフェチだったのだろう。



「しかし、隼よ。てめぇの戦闘機、単座だったろ? どうやって殿下を乗っけるんだ?」


 スコーピオン団ボスは、少し気になっていた輸送手段を訊ねた。


「いや、ウチのマルコが飛行機乗り志望でな。たまに複座型に臨時改装して乗せてやってんだ。今回はたまたまそのまま来ちまったんで、ラッキーだったぜ」


 ファルコは地図とコンパスなどでルートを確かめながらそう言った。


「よし、普通に保つな」


 方角、距離などを調べ終えると、ファルコはズボンの大ポケットに地図を放り込み、姫と愛機が待つ方に歩いて行った。

 ファルコは先に翼の付け根に上ると、生まれて初めて乗る戦闘機に、とてつもなくワクワクしているラウェーンワンラー姫の手と脇を支え、翼に上るのを手伝った。そして、後部座席にお乗り頂くにも、仮にも一国の皇女に跨がせるワケにはいかない。ファルコは「失礼」と一言断ると、姫の上半身と膝を抱える、俗に言う「お姫様抱っこ」で後部座席に乗せた。

 この行為については、スコーピオン団から激しい怒りの声が複数飛んで来た。


 諸動作のチェックは済み、既に回り始めていた発動機の回転数を上昇させた。機体は動き出し、離陸に向かった。スコーピオン団の方を見ると、皆が手を振っている。ラウェーンワンラー姫は、彼らの方を向き、大きな声で「さようなら」と別れの辞を述べた。

 ファルコは安全のため、姫に注意を促した。


「殿下、まもなく離陸に移ります。危険ですので、何かにつかまっておいてください」


 発動機は轟々と唸り、機体は宙に舞う。姫は、その様子をとても興味深そうに、歳相応の興奮で見つめた。



 ファルコの新たな任務は、先ほど「グランデ・アモーレ号」から受け取った電文に指定された、ここから北東に50kmほど行ったところにある島まで、ラウェーンワンラー姫を送り届けること。なかなか珍しいケースである。

 道中、姫はファルコに様々な質問を投げかけた。この飛行機はどんな飛行機なのか。貴方は何屋さんなのかなど、ほとんどがファルコに関係するものだった。ファルコは無類の女の子好き。会話はどんどん弾んだ。

 しかし、姫が放ったたった一言により、機内の空気は一転、少し寂しいものになる。と、言うのも、さっきのスコーピオン団の連中の話になり、姫が、


「あんなに良い人たちなのに、どうしてあんな狼藉を働くのでしょうか……」


 と言ったからである。

 ファルコはしみじみと、あまり過激にならぬよう抑えめに、語り始めた。


「彼らは、元は百姓や労働者だったのです。朝から夕方まで働いて、家に帰って家族と団欒するような。しかし、先の戦争で彼らが元々住んでた土地が全部めちゃくちゃになってしまって。家財も家族も失った彼らは、仲間内でなけなしの金を出し合って、飛行艇を買い、生きるために、あんなことをやっているのです」


 ラウェーンワンラー姫の表情は見えないが、明らかにしんみりとさせてしまったのは判った。不覚! 女の子に悲しい想いさせるなんて、俺ァ、男失格だ。


「もし戦争が無かったのならば、彼らはあんな狼藉を働かずに済んだのですね……」


 姫が何やら思い詰めた表情になったような気がしたファルコは、柄にもなく真面目なことを言い始めた。


「殿下、貴女は一国の皇女様。もしかすると、この先、国を治めることになるかもしれない。だから、これだけは覚えておいてください」


 ファルコは一呼吸入れて、話し始めた。


「戦争とは、神の業ではなく、人の業です。だから、いくらでも防ぎようは有ります。彼らのような哀れな者が出現するのを防ぐことも出来ます」


 柄にもなく何意味不明なこと言ってんだ俺は。ファルコは自分を呪った。しかし、ラウェーンワンラー姫の反応は、意外にも良さそうだった。


「『神の業ではなく、人の業』……。ファルコ・ネーロ様、この言葉、一生忘れません」



 暫くすると、指定された島が見えて来た。すると、ちょうど夕陽がアレッサンドロ海に差し込み、まるで宝石のような輝きを放った。


「まぁ……! 綺麗……!」


「殿下、これこそが神の業です。人が為すモノとは比べ物にならぬくらいに、遥かに美しいものなのです」


 漆黒の隼は、宝石の海に浮かぶ島に向かって、降りて行った。







 後々の報せによると、ラウェーンワンラー姫は無事にルートヴィヒラントの学校に御入学なさったそうだ。今でもしょっちゅう手紙が届く。徐々に恋文化して来ている気がするが、気のせいだろう。

 そういえば、クソじじいが、ラタナコーシン王国からの謝礼がバカほど入っただの何だので狂喜してたが、俺には何も関係ない。俺は英雄でもなければ何でもない。ただの賞金稼ぎの隼だ。


「ファルコ! 仕事だ!」


 さて、今日はどんな内容かな? 小遣い稼ぎじゃなかったら良いんだが………。



 美しき、アレッサンドロ海。

 その上空を、今日も黒い隼(ファルコ・ネーロ)は飛び続ける。



 to be continued……

はい、どうも、クズです

連続投稿、これにて最後‼︎(かもね)

でも、楽しいですよ。自分が好きなもの書くのって。やめられない止まらない、ですよ

さてさて皆様、まだファルコの活躍劇は始まったばかり!

これからも、何卒、よろしくお願いいたします

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