昼下がりの飛行場
キ43 一式戦闘機 隼
旧帝国陸軍の主力軽戦闘機。生産数は旧帝国陸軍機最多の5,751機。
戦時中の日本では最も有名な戦闘機だった。映画「加藤隼戦闘隊」で一躍銀幕飛行機になった。
発動機はハ25、俗に言う「栄エンジン」である。稼動率の高さから、現場では結構高評価だった。
実は零戦よりも軽量で、その上防弾装備もちゃんとある。運動性能は連合軍から「低空で敵う戦闘機なし」と評価されるほど。航続距離はオキテ破りの3,000kmオーバー(増槽付き)
末期でもなろう主人公みたいなチート機であるP-51に対して善戦したという。
しかし、現代では、戦後の海軍キャンペーンにより零戦が神格化された上に、陸軍悪玉論が被さって、一般にはあまり知られていないという、悲劇の元スタァ。
しかし、零戦よりも後続機に恵まれたのは幸いだった。
真夏の昼下がり、アレッサンドロ海に浮かぶ島の小さな飛行場の片隅の、古いトランジスタラジオは、かすれた音で、女性シャンソン歌手の美しい歌声を垂れ流していた。
ラジオが置かれている机には、他に、飲みさしの飲料水とポルノ雑誌が置かれており、その脇では、一人の男が、丸いサングラスをかけたまま、だらしなくビーチチェアで居眠りしていた。
その男の肌は黄色く、体格は港で見かける漁夫の方が一段も二段も良いぐらいで(もっとも、彼らのガタイは良すぎるぐらいなのだが)、一見して何の変哲もない東方民族だった。しかし、顔は童顔で可愛らしいと、町の婦人方に評判だった。
地上でのこの姿を見る限り、この男がアレッサンドロ海の空の覇者、獰猛な空中海賊どもからは悪魔と畏れられ、民衆からは英雄と称えられる、ファルコ・ネーロだとは、誰も想像つかないだろう。
しかし、そんな彼の安らぎの一時は、ハスキーな老人の大声によって終了した。
「おい、仕事だ‼︎ 起きろ‼︎」
老人の大喝に、びくんと身体を跳ねさせて目を覚ましたファルコは、ビーチチェアから腰を上げると、老人のいる滑走路脇の小屋にゆっくりと歩いて向かった。
「この寝坊助、もっと素早く来やがれ」
「それはおかしい、最速記録更新なはずだ」
ファルコはわざとらしい口調で軽口を叩いてみせたが、老人は全く意に介しなかった。しかし、それもファルコのルーティーンの一つ。軽口を叩いた後は、やや真剣な態度を見せ、老人に状況の説明を求めた。
「で、内容は?」
「またスコーピオン団だ。ピッコロ商会の船が襲われた。東方貿易の帰りで、輸入品を大量に積んでる」
「スコーピオン団」の単語を聞いた途端、ファルコは舌打ちした。そしてキッパリと即答した。
「小遣い稼ぎはやらん」
スコーピオン団というのは、アレッサンドロ海では名の通った空賊なのだが、ケチで貧乏な連中として有名という、残念な集団だった。そのため、撃退しても、助けた側からの報酬はともかく、スコーピオン団側からの賠償金は、どれほど縛っても、雀の涙ほどしか出ない。だからファルコはスコーピオン団が嫌いだった。
しかし、出動しない事には、例え端金でも入って来ないため、老人はファルコを動かす、必殺の一言を放った。
「東方のラタナコーシン王国の第三皇女が、ルートヴィヒラントに留学なさるそうで、その船に乗っておられるそうだ。小麦色の肌をした、大層な美少女だそうだ……。嗚呼、哀れ! 薄汚ェ空賊どもの毒牙にかかって、あーんな事やこーんな事を………」
「クソじじい、相棒の準備は出来てるか?」
やる気満々に準備するファルコを見て、老人は心の中でガッツポーズをとった。ちなみに、老人が言った異国の姫の話は、嘘のようで本当なのである。今回はたまたま姫が乗っていたため、こんなスムーズに必殺の一言を言えたが、いつもはもっと胡散臭いことを言うのであった。(それでもファルコはすっ飛んで行く)
「あぁ、ポルチェニーノがもうやってくれてる」
ファルコは「よし」と言うと、冷蔵庫に入れてあった牛乳を取り出し、一気にグイッと飲み干すと、愛機の待つ滑走路へと駆け出した。
陸軍悪玉論って何だよまったく。むしろ海軍悪玉論の方が正しいくらいだ。沢村栄治が死んだのも、奴らのせいだ。まったく……
……………あ、ごめんなさいね
まぁ、頑張って、出来る限りは続けますよ
おそらく海軍信者が多いなろう界隈で、陸軍機を飛ばすという変態ですが、頑張ります