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第7話、運命の出会い


 月明かりの差し込む教会。その半壊した建物の入り口に現れた複数の魔人兵。

 オークにリザードマン、鬼顔にニワトリ顔と雑多な種族の取り合わせだ。捕獲対象である白銀の騎士姫を見つけた彼らは手にした槍や斧を構え、距離を詰める。


 一方のセラは、身体に力が入らず、座り込んだまま立つことも叶わなかった。 

 迫る魔人兵。


 やられる――セラは身構える。


 その時だった。魔人兵らの集団の中ほどに、何かが落ちてきた。

 突然のことに、兵たちは動揺する。

 先頭を行っていたニワトリ頭の兵が振り返る。だがその顔面を、漆黒のダガーが横切った。


『ギャアアア!』


 甲高い悲鳴が上がる。わけもわからないうちに、叫び声が伝染した。

 振るわれるダガー、片手斧――それらが猪顔の魔人兵の喉を裂き、脳天をかち割る。

 至近距離に飛び込まれ、敵がなんなのかわからないまま、血を噴いて魔人兵らが倒れる。

 またたく間に七人が教会の床に血だまりを作った。


 黒髪の少年――


 セラは、魔人兵をほふった乱入者の姿を、その青い瞳に焼きつける。


 軽装の戦士のようだった。年のころはセラと同じか。月の光を浴びて浮かび上がる姿は、まるで黒い影のよう。それぞれ異なる片手武器を左右の手に持ち、わずか数秒の間に敵集団を片付けた。手練てだれだ。


「ちっ」


 その少年戦士が舌打ちした。教会の外に別の魔人兵が数名駆けてきたのだ。

 次の瞬間、少年は右手を振りかぶり、手にしていたモノを投げた。


 最初はダガーを投げたと思っていた。彼がそれを持って魔人兵と戦っていたから。だが投げられたものは、ダガーではなく何か黒い玉のようなものが複数。いつ持ち替えたのか。

 そして黒い玉は、魔人兵らの胴体に当たり、まばたきの間に血の花を咲かせた。


 何かの武器――暗殺者が用いる暗器の一種だろうか。セラがそう見当をつけている間に、魔人兵は全滅した。


 少年は小さく息をつくと、振り返った。


「無事かい、お姫さま?」


 言葉こそ西方語だが、その顔立ちは異国人のようだ。静かに、しかし微妙にふてふでしさを感じるのは、西方語に慣れていないせいか。しかし、いまはそれよりも――セラは強張っていたと思われる表情を緩めた。


「ええ……助かりました。その――」


 言っている途中、自身の身体がわずかに光った。何の光か、理解する前にセラの身体を守っていた白銀の鎧が消えた。鎧の下に着ていた青と白のバトルドレス姿に戻ったのだ。自分でも、どういう仕組みかわからないが、とりあえず少年に向き直った。


「あなたはいったい……?」

「ハヅチ・ケイタ。皆はケイタって呼んでる。ハイマト傭兵団所属の傭兵だ」


 君を探してた――少年、ケイタはそう言った。



  ・  ・  ・



 間近で見ると、とても美しい少女だった。


 長い銀色の髪。少女のような幼さの一方、女神のような凛としたものを感じさせる綺麗な顔立ち。二つの青い瞳は、澄んだ水面のようだ。

 気品を感じさせる優しい声が、慧太けいたには心地よく感じられた。


 胸が高鳴る。天使がいるのなら、きっとこの子のように美しいのだろうな、と思う。

 聖アルゲナム国のお姫さま。兄であるケルヴィンも美形の王子で知られていたが、なるほど、月明かりに煌いている銀色の髪も、その麗しい顔立ちも、彼の妹で間違いなかった。


 ――オレはこの子に、つらい話をしなくてはいけない。


 慧太は自然と表情を曇らせた。目の前のお姫様を探していた理由は、まさに訃報を伝えるためでもある。


 慧太は、魔人軍の動きから彼女を追いかけていた。

 アルゲナムの姫を捕まえようと森を進んでいた魔人兵の部隊は、リアナとアルフォンソに足止めさせた。森の中での戦闘は得意な二人が、ゲリラ的な襲撃で魔人兵を狩っている間、慧太は先行する魔人軍の小隊を追尾。これを倒しながら進んだ結果が、銀髪の美姫との遭遇である。

 セラフィナ姫が、白銀の鎧を具現化させたところをちょうど目撃した。

 まるで魔法少女の変身のようだと思った。もっとも光の中から現れた彼女は、フリフリドレスの魔法少女ではなく、例えるなら戦乙女――北欧神話のヴァルキリーを連想させる姿だったが。


「……立てるか?」


 いまだ床に座り込んだままのセラフィナ姫に声をかける。彼女は、いったん自分の足を見つめ、両手を床について立とうとしたが、無理のようだった。小さく首を横に振る。彼女の銀髪が揺れた。……何とも可愛らしい仕草に映る。


「怪我をしたのか?」


 慧太が手を差し出せば、彼女は少し迷ったようなそぶりを見せたが、手を出した。


「いえ……少し、疲れてしまったようで」

「ずっと魔人連中から逃げたんだもんな」


 姫君の手をとり、近くの長椅子のもとまで肩を貸す。そこで座らせると、セラフィナは不思議そうな顔になった。


「私のことを知っているようですけど――」

「すべてではないが、だいたいの状況は」

「私を探していたって……?」


 ああ、と慧太は頷くと、お姫さまの前に立ち、自身の腰に手を当てた。


「ある人に頼まれた」

「ある人……?」


 セラフィナはその形のよい眉をわずかにひそめる。慧太は口にすることをしばし迷い、間を取った。――だが言わないと。

 空気を求めるように、口をわずかに開き、視線を彷徨わせたあと、慧太は彼女へと視線を戻した。


「君のお兄さんから」

「兄……? ケルヴィン兄様!」


 セラフィナは大きな声を出した。


「兄様は? いまどちらに? トゥール防壁要塞に視察に出ていたはずです……! ご無事なのですか!?」


 慧太はズボンのポケットから預かっていたものを取り出すと、彼女へと突き出した。


 アルゲナムの紋章入りの銀のロケット・ペンダント――ケルヴィン王子の形見。


「君に渡すようにと。……魔人どもに奪われるのは嫌だと言って」

「……そんな」


 お姫様は絶句する。慧太の言動から、敬愛する兄の死を悟ったのだ。その瞳に涙が溢れだし、口もとに手を当てると肩を震わせた。


 慧太は静かに息をついた。目の前で泣き崩れるお姫様にかける言葉が浮かばなかった。気まずさと申し訳なさがない交ぜになり、慧太の心を締めつける。

 いまはただ、黙って見守ることしかできなかった。



  ・  ・  ・



 しばらく泣いていたセラフィナ姫を、慧太は黙って見守った。

 王子からの口頭で受けた依頼は果たした。もう、この場で立ち去っても何の問題もない。だが肉親の死に深く悲しむ少女を放っておく気にはなれなかった。


 慧太は、静かに、周囲に気を配りながら、セラフィナが落ち着くのを待った。

 思いっきり泣いたからか、ようやく少し落ち着くお姫様。慧太は口を開いた。


「これからどうするんだ……?」

「……国を出ます」


 すん、と鼻をならし、セラフィナ姫は目じりの涙をぬぐった。


「ライガネンへ。お父様から託された使命を果たさなくては……」


 ライガネンというのは、おそらく地名だろう。どこにあるのか慧太は知らないが、お姫さまには行く宛てがあるということだ。東を目指していた。そして国を出るということは――


「なら、国を出るまで付き合うよ」


 セラフィナ姫がかすかに驚いたような目を向けた。慧太は続ける。


「アルゲナムの隣、リッケンシルトにオレの所属している傭兵団の本拠がある。オレもこの国を出るから、まあ、ついでいうやつだ」


 お姫様を一人にするという考えはない。


「その……お気持ちは嬉しいですけど、ケイタ」


 セラフィナ姫は首を横に振った。


「ここで別れたほうがいいと思います。魔人軍は私を追っています。私と一緒にいると、あなたに迷惑がかかる」

「……」

「あなたは、傭兵で、アルゲナムの民ではありません。私に付き合って危ない橋を渡る必要はないんです。……その、助けてくださったのは嬉しかったですし、付き合うと言ってくださったのは心強かったです」


 ありがとう――銀髪のお姫さまは顔を上げると、無理して笑みを作った。


「助けてくれて。わざわざ危険を冒して、兄の遺言と品を届けてくれて。あなたには感謝してもしきれない。……何もお返しはできないですけど、せめて、あなたは無事お仲間のもとに帰れることを祈ってます」

本日も夜20時ごろに1話、更新予定です。

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