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第46話、力の反動


「セラ!」


 慧太は、宿へと歩くセラに追いつく。心持ち早歩きの彼女。

 振り返ったセラは、さぞ機嫌が悪いだろうと思いきや、小さく微笑みをくれた。ただ、心なしか疲労感がにじみ出ていた。

 彼女の隣につきながら、慧太はどう声をかけたものかと思案する。……いや、聞きたいことならあった。


「その……凄かったな」


 ちら、とセラがその青い瞳を向けてくる。だが無言。


 ――言葉のキャッチボール。キャッチボール……!


「まるで、天使みたいだった。綺麗だった」

「そう、ですか」


 セラは、はにかむ。何となく和んだと思い、慧太は切り出した。


「いったい何があったんだ? いきなり覚醒したっぽかったけど」

「覚醒……? そうかもしれませんね」


 ふらっと、セラの身体が傾く。慧太が眉をひそめるのを他所に、彼女は通りを離れ、民家の間の細い路地へと入っていく。


「力が欲しいと思いました。魔人に負けない強さを……」

「セラ?」

「ちょっと……疲れちゃって」


 銀髪のお姫様は民家の壁にもたれた。……ひょっとして歩くのもしんどいほど消耗していなのか。

 初めて出会った日のことが、慧太の脳裏に甦る。魔法少女じみた変身で白銀の鎧を出現させて魔人を返り討ちにしたセラ。消耗してすぐに立ち上がれなかった彼女を。


「大丈夫か?」


 慧太はセラの隣に立ち、じっと様子を見やる。セラは薄く笑みを浮かべた。


「あのフォームは、思ったより消耗が激しいですね」


 すっと服の中に隠れているペンダントを取り出す。


「これはかつて白銀の勇者が身に付けていたとされるものです。正確には、白銀の鎧を具現化させる鍵みたいなもの。……これが、私の願いに応えてくれた。……空を飛ぶ翼、新しい力、すべてはこれのおかげです」


 でも――セラは自嘲する。


「……次はもっと上手くやらないと。……もっと、頑張らないと」

「無理は駄目だ」


 慧太は首を横に振った。


「もっと自分を大切にしないと。セラは、ライガネンに行かなきゃいけない目的があるだろ?」

「無理でも何でも……もっと頑張らないといけません」


 だって私は――


「白銀の勇者の血を引いているんです。魔人との戦いとあれば、先頭に立って皆を導く――弱いままじゃ駄目なんです!」


 セラの瞳に強い光が込もる。


「私はケイタや、皆に助けられてばかり……こんなんじゃ駄目なんだ……」

「なあ、セラ」


 慧太は、彼女の横で同じように壁にもたれる。


「ひょっとして、自分が足手まといとか、迷惑かけてるとか思ってる?」

「……」


 すっと返事が出なかったのは、図星だったのだろう。そう感じているなら、答えにくい問いではあった。


「オレは、セラを凄く頼りにしてるんだけどな」

「え?」

「白銀の鎧とかアルガ・ソラスとか、光の魔法と合わされば、大抵の魔人なんてメじゃないだろう?」

「アスモディアには苦戦しましたけど」

「あれは誰がやっても苦戦するだろ」


 果たして自分が持てる能力をフルに活かせればどうだっただろう――とは思う。


「でもケイタ」


 セラは唇を尖らせる。


「あなたは、私をいつも後ろに置こうとするじゃないですか。私は前衛だっていけるのに……それって私じゃ役不足だって思ってるってことですよね?」

「そりゃ、君は護衛対象だからな。一番前ってわけにもいかないさ」


 慧太は、きっぱりと告げた。


「ただそれでも、オレたちは君の力にも頼ってはいる。要はバランスの問題だよ」


 慧太は天を仰ぐ。


「オレは遠近どっちかって言われたら近距離型。リアナは弓を使うが、本来は超近接型の二刀流使い。ユウラは後方攻撃型の魔法使い。アルフォンソは近接の迎撃型……そして」


 視線を、銀髪の戦乙女である姫に向ける。


「君は汎用型だ。近接も距離をとった戦いも対応できる。近距離ではアルガ・ソラス。距離をとれば光の魔法がある。それに治癒魔法も使える。これはオレを含めて他の面子にもない君の特徴だ。……ああそうそう、今度は空まで飛べるようになったよなぁ」


 ふふ、と慧太は笑った。何だかんだ言って、銀髪のお姫様はハイスペックだ。


「オレが君を後方に置くのは、前衛は手が足りてるけど距離をとった戦いは、若干弱いと感じているからなんだ。リアナの弓は確かに強力だけど、矢には限りがあるし継戦能力で見れば、セラのほうが圧倒的に上だ」


 本音を言えば、護衛対象を前に出したくないの他に、一緒に前に出ると慧太がシェイプシフターであることが露見する危険性が増す、など、セラには言えないことが幾つもあるが。


「後ろを固めてくれるとオレたちも安心して戦える」


 はー、とセラが感嘆したような息をついた。


「ケイタって、そこまで考えて戦っていたんですか?」

「大事だろ? 仲間の能力を把握して、持ち味を最大限に引き出すって……傭兵では自然なことなんだけど」


 もっともこういう思考は、日本にいた頃に嗜んだゲームや野球などの影響があるのは否定しない。


「そうですね。あなたは百戦錬磨の傭兵……私などより、遥かに実戦経験がある。あなたの助言はいつも的確で、行動力もある」

「百戦錬磨って、恥かしいな」


 慧太はこそばゆく感じて頬をかく。その仕草にセラも笑った。


「あぁ……叶わないなぁ、あなたには」


 見習わないと――セラは目を細める。


 ありがとう。


「ん、何だって?」


 慧太が聞けば、セラは首を振った。


「何でもありません」


 すっと壁から離れるセラは耳にかかる銀髪を払う。歩き出そうとして、またもふらつく。とっさに慧太は手を出しかけたが、セラは持ち直すと、何故か両手で自らを抱きしめるように守った。


「えっと、大丈夫ですから。一人で歩けます!」

「そうは見えないけど。……無理はするな」

「! だ、抱っこもおんぶも結構ですから!」


 ええぇ――慧太は自身の黒髪をかいた。そういえば、以前、姫様抱っこしたっけ。


 ――まあ、こんな町中じゃ、恥かしいんだろうけどな。


 心持ちセラの顔が赤い気がしたが、そこは敢えて見なかったことにしよう。アスモディアとの激闘のあと、早く休ませてやりたい。


「そういうわけだから、リアナ! アルフォンソ呼んできてもらえるか?」


 慧太が声を張り上げる。え、とセラが困惑する中、路地の入り口にすっと金髪碧眼の狐娘が姿を現した。


「わかった」


 リアナは短く答えると、その場を後にする。セラは目をぱちくりとさせていた。


「あの、ずっとリアナは私たちの会話、聞いていたのですか?」

「あ? 多分な。狐人フェネックは人とは比べられないほど耳がいいからな……おい、どうしたセラ? 顔が真っ赤だぞ」

 

 さすがに傍目でもわかるくらい赤面しているセラには、突っ込みを入れないわけにもいかない。彼女はぶんぶんと首を横に振った。


「な、何でもありません!」

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