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第44話、死闘の果てに


 アスモディアのサソリの尻尾、その猛毒の針がセラの首筋を狙う。


 それは必殺の一撃。


 たとえ一突きで死なずとも、流れ込んだ猛毒が身体を冒し、その者に死を与える。

 無慈悲にして、魔人アスモディアの切り札だった。


 アルゲナムの姫を殺し任務を果たした――アスモディアは勝利を確信した。顔面に何かがぶつかり、次の瞬間、視界を真っ黒な煙が覆うまでは。


 何が何だかわからなかった。突然の黒煙。しかし振り下ろされた尻尾は止まらず、手ごたえを得た。

 何かを刺した。何を? 決まっている。アルゲナムのセラフィナ姫、白銀の戦乙女だ。


 翼を展開、後方へ飛ぶことで黒煙を抜ける。煙が晴れれば、悶え、死に行くセラフィナ姫の姿を見られる。


 まず視界に捉えたのは、羊頭の悪魔が霧散したところ。金髪の狐人の女戦士が両手にそれぞれ一振りずつの短刀を持ち、召喚悪魔を葬っていた。


 煙幕もこいつの仕業か――アスモディアは悟り、自らの美顔めがけて煙幕玉を投げつけた生意気な狐娘に炎の仕置きをするべく、指先で魔法陣を描く。


 その時だった。

 黒煙を切り裂いて、光の槍が飛び出したのは。


「!?」


 完全に予想外だった。故に回避が遅れ、アスモディアの右横腹を、魔法の槍が貫き肉を削りとった。


「がっ!?」


 突然の痛み。出血。アスモディアは両目を見開き、石畳の上に着地、膝をつく。


 煙が風に流れる。そこには片膝をついて剣先を向けているセラと、黒髪の少年――シェイプシフター。


 アスモディアはぎりっと歯を噛み締めた。

 傷を負った様子のないセラ、そしてその傍らに立つシェイプシフター。


 必殺の毒針を喰らったのはセラではなく、シェイプシフターのほう。そしてあの煙玉は彼の急接近を隠すカモフラージュ。

 正体を明かさず、かつ接近を気づかせない連係。

 それよりも――そのシェイプシフターは毒が効かないのか!?


 黒髪の戦士、ケイタは自らの肩口を指で挟む。それは自らの身体の一部を千切るような動作。それを。びゅっと投げた。標的となったのは最後の羊頭の悪魔。それは胴体に当たったかと思うと、二秒と立たず全身を痙攣させるような仕草と共に霧散した。


 ――わたくしの毒……!


何ということだ。シェイプシフターは自らに流し込まれた毒を刺された箇所に留め、その部分を千切って捨てることで、毒を無効化したのだ。


 ――わたくしの勝率……。


 シェイプシフターが全力発揮できない。それを確信したから仕掛けたのだ。ケイタが能力をフルに活かして攻めてきたら、アスモディアはとても太刀打ちできないと予想していた。それこそ不意を突く一撃で消滅させない限りは。


 ――いや、まだ……!


 ケイタというシェイプシフターはセラフィナ姫に正体を悟らせまいとしている。先ほどの煙幕もまた、無茶な能力行使を隠すためだ。であるなら、そうそう能力を発揮できないはずだ。


「ラムフー!」


 アスモディアが一番詠唱の短い魔法を発動させる。剣をかたどった炎が具現化し、飛翔する。


「シス・スーフルフー!」


 立て続けに炎の球を発現させ、周囲へと飛ばす。周りの建物がどうなろうとお構いなしだ。あわよくば場を炎渦巻く地獄へと変え、主導権を握る。


「トルヌゥード・フー!」


 炎が渦を巻き、風を巻き込み竜巻へと発達させる。炎と風のアンサンブル、とくとご賞味あれ!


 アスモディアが狂気を秘めた笑みを浮かべたその時。

 白銀の戦乙女が、銀魔剣に光を蓄えているのが目に映った。一撃で数十の敵をなぎ払う光の一閃か。


 ――馬鹿め。そんな大技、こんな街中で使うつもり!?


 たとえアスモディアを消滅させるような一撃も、町の建物や住民をも巻き込むだろう。それがわからないお姫様ではあるまい?


「少し、足元がお留守じゃないかね、アスモディア」


 真下から声が聞こえた。ビクリとして視線が下に落ちる。自身の影、と思っていたところに不気味な影の顔が浮かんでいる。


 ――シェイプシフターっ!


 影に潜んでいた。アスモディアはとっさに飛び上がる。いまはシェイプシフターの不気味なヌメヌメ感などと遊んでいる場合ではないのだ。


 急上昇に転じて、シェイプシフターの取り込みを回避する。


 だが、それがいけなかった。


 何故なら、彼女が空に飛び上がるのを、セラは待っていたのだ。

 最大限に威力を高めた、白銀の勇者の必殺技が銀魔剣から空へと放たれた。

 放たれた光はアスモディアに迫る。


 やられる――!?


 イクス・プロージオン――とっさに魔法を唱えたのは本能だったのか。即席の爆裂魔法は距離もなくアスモディアの至近で爆発の力を解放した。その魔力拡散が光の魔力と干渉し反発する。


 圧倒的な光に包まれる。だがそれはわずかな間。高熱の光の束をその身で浴びながら、刹那の間にとどめたことで即死は避けられた。


 機転が危機を救ったが、アスモディアにとってはそこまでだった。石畳に身体を叩きつけられ、身体中を焼かれ、もはや立つこともままならない。


 自らの美を自負するアスモディアにとって焼け爛れた肌は、見るに耐えないものだった。自身の顔がどうなっているかはわからないが、腕の火傷具合を見て最悪を想像し、せめて散り際くらいはと顔だけは元に戻す。己を美女だと思うゆえのプライドだった。


 すっと、アスモディアの視界に銀髪の戦乙女の姿が入る。思わず口もとに浮かぶは嘲笑かあるいは自嘲か。


「……いいわ……その目」


 アスモディアを見つめるセラの青い瞳。冷徹なまでにおぞましく、また感情がそぎ落ちたような目だ。――彼女は魔人の命を奪うことに何のためらいもない。殺人者の目だ。


「ゾクゾクしちゃう……」


 喉が焼けるように痛かった。身体は動かないまま。間もなく、セラはその銀魔剣をもってトドメを刺すだろう。


 くくっ、と小さく笑い声が漏れる。


 自身を黒い影がよぎる。セラの他に別の者が傍らに立ったのだ。


「……まだ息がありますね」


 青髪の魔術師だ。名前は確か、ユウラと呼ばれていた。魅惑の眼が効かなかった謎めいた青年――


「ユウラさん、そこをどいてもらえませんか」


 怒気さえ感じさせるセラの声。しかしユウラは底冷えするような声で応じた。


「すみませんが、それは出来かねます」


 青年魔術師の口もとが動く。


『汝、生を望むか否や?』


 アスモディアは目を見開く。

 掛けられた言葉は、高等魔人語だった。

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